天皇陛下の執刀医、天野篤・順天堂大学医学部教授インタビュー(上) ~次代の医療の担い手に望むこと

天野篤・順天堂大医学部教授

天皇陛下の執刀医として知られる天野篤・順天堂大学医学部教授は2014年夏、医学の道を目指す高校生を受け入れ、自ら執刀する心臓手術を見学させた。なぜ、このような画期的なキャリア教育を行ったのか、天野教授にインタビューした。



■世界最高レベルの心臓手術で、どう回復するか。最前線を体感してほしかった

――手術を見学した高校生たちは大きなインパクトを受けたようです。


天野 高校生に手術を見学させた狙いの一つは、本格的な医学教育前の早期医療現場体験(Early Exposure)です。現在、国の方針の後押しもあって、医学部希望者は増えています。ただし、100人が医者になって、果たして100人全員が患者のためになるような医療を行っているのか。厳しい言い方かもしれないが、実情は必ずしもそうではないと思う。そこで、「患者に貢献できる」確率を少しでも高めるため、早い段階から現場を見せるべきだと判断したわけです。頭の中でイメージするのではなく、ホンモノを体感することが大事です。

 手術を見せたもう一つの理由として、私の「賞味期限」があります。賞味期限内でないと良いものは見せられないですよね。私は既に59歳ですので、10年後、現役でいるかは分からない。現在、世界トップレベルの心臓手術を行っていると考えていますが、その手術を受けた患者さんが、どう回復するのかを見せるという目的もありました。3日間のプログラムなので、1日4例の手術を行えば、4人が2日目にどういう状態にあるのかが分かる。さらに3日目とも比較できますね。そういったことを、高校生たちに体感してほしかった。


――「手術を受けた患者さんが、3日目には病棟で笑顔を見せていたことに圧倒された」と高校生たちは話していました。


天野 術後、患者さんが悪くなるということも非常に稀にありますが、そういう部分も含めて見せるのが狙いです。チーム全員の努力が実ると、患者さんがどう回復するのかを受け止めてくれて良かった。



午前8時45分。次々と手術スタートのランプがつく。

■手術中、若手を厳しく指導する理由とは

――術中、若手の医師を厳しく指導していたと聞きました。「遅い、なにをしている」と、時には檄を飛ばすこともあったと。


天野 心臓手術は時間との勝負です。1分1秒を無駄にするような行動は、積み重なって、大きなトラブルとなって戻ってくる。現代の医療で求められる「無駄を省く姿勢」を常に心がけることも重要です。時間の無駄、モノの無駄、お金の無駄。決まった医療費のなかでやっているのだから、例えば1000円かかるものを100円節約できれば、それを次の患者さんの治療費に回せますよね。そういう感覚を医師がしっかりと持つことは非常に大切です。手術中も常に時間の節約を意識すべきです。同じ行為でも、10秒早く行うことを10回繰り返せば100秒の時間短縮につながる。

 牛丼みたいですが、私のキャッチフレーズは「早い、安い、うまい」。手術は速やかに行い、資源の無駄もしない。術後も患者さんに負担を強いることのないよう心がける。これを実践できれば、最終的には自分のスキルも上がり、達成感もアップする。何よりも患者さんに元気になってもらえます。


(インタビューの2回目〈中〉は1月14日に掲載します) >>第2回〈中〉を読む

(2015年1月 8日 09:23)
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