「イノベートする気概を」順天堂大・天野教授インタビュー(中) ~次代の医療の担い手に望むこと

順天堂大病院5階の手術室3.世界最高レベルの心臓手術が日々行われている

天皇陛下の執刀医として知られる天野篤・順天堂大学医学部教授は2014年夏、医学の道を目指す高校生を受け入れ、自ら執刀する心臓手術を見学させた。なぜ、このような画期的なキャリア教育を行ったのか、天野教授にインタビューした。

(前回のインタビュー〈上〉は>>こちら



■社会に貢献するという志を持ってほしい

――Early Exposure(早期医療現場体験)は先駆的な試みですね。


天野 日本には80の医学部があるので、少しでも広がればいいと思っています。もちろん、一定のルールのもとで広がること、特に医療安全と個人情報を遵守することが患者保護の点でも必須です。

 医者というのは、ある意味で「究極のサービス業」です。国が高額な投資をして初めて成り立つという点をきちんと理解し、社会貢献という志をしっかりと植えつけるような医学教育をしないといけない。さらに踏み込めば、社会と国民の健康のため、そして、ヘルスケアという国益を見据えた医者を育てることが理想でしょう。その入り口の医学部選択は、これまでは高校や予備校が担ってきたが、私は「医療とは何か」といった実質的な指導が実務者レベルでできればと思っています。

 医者になりたいという時点で、現在の日本では偏差値に応じた選択と妥協が始まります。志望校選択に、「あそこは無理だから、ここ」という計算が作用する。あまりにも夢がなく母校・地域への愛着も芽生えにくい。我々は次代の担い手のために「この医学部に入りたい」という選択肢を用意してあげたい。そのためにも、高校生に対するEarly Exposureは必要だと考えています。

 さらに言えば、今回の試みの背景には外科医不足への懸念もあります。外科医の減少に歯止めはかかったけれども、その伸び率は低い。一定の競争がないと、医療レベルが下がることも心配です。これからは、外科を目指す高い志と素質がある若手を見いだし、早い段階から彼らと接触したい。そう思っています。


――外科医の勤務環境が厳しいという指摘もあります。


天野 それは、どうでしょうか。若い人たちには、医学部を卒業して国家試験を通るぐらいの基礎体力と強い心があるはずです。「自らイノベートし、外科を変えていくんだ」といった気概を、若い人には期待しています。何があっても継続すれば、どこかで道は開けます。「意志あるところに道あり」と言うじゃないですか。


――医学部の学生は手術を見学する機会がありますよね。医学部に入ってから現場を体験することも可能では。


天野 現在の医学部カリキュラムは非常にタイトです。コア・カリキュラムといって、学ぶべき必須の教育内容がとても多い。病院実習に入る前の、低学年の学生たちに「いつでもいいから手術を見学しにきなさい」と声をかけますが、カリキュラム消化に精一杯で、ほとんど来ない。1年に1人か2人です。本人たちの中で、「Early Exposureが必要だ」と考える余裕がないのでしょう。こうした構造的な課題があるからこそ、高校生の段階から最前線を見てほしいと思っているのです。

 少し話は変わりますが、英語を翻訳し、数学の問題を解く能力がいくら高くても、入学する時点で伸びきった能力、展開しきった力では、役に立たないと思います。「他人とは異なる発想を常に持てる人」「ものごとを解決するには必ず例外があり、さらに良い方法があると考えられる人」。こうしたタイプでないと通用しない。医者が相手にするのは生身の人間、思った通りにいかないことはあるのです。

 どうしたらいいのかというと、「勉強以外で秀でている」と自覚できるものを見つけ、それに磨きをかければいいのだと思います。ただし、それに支配されないよう自らを律さないといけない。私の場合はスキーでしたが、あまりにも学業無視だった。直前の勉強だけで試験を受けていたのですが、それではコツコツとやっている人間には追いつけませんよね。


(インタビューの3回目〈下〉は1月20日に掲載します) >>第3回〈下〉を読む

(2015年1月14日 09:30)
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