ぬまっち先生コラム90 セルフラーニング(5)

NHKのニュース番組「4時も!シブ5時」に生出演。「子どもの“やる気スイッチ”を押す方法」についてスタジオで“授業”しました。(8月22日、渋谷区のNHK放送センターで)

沼田 晶弘


<<第89回 セルフラーニング(4)


 

■「名前だけ自由研究」はつまらない


 小学校の夏休みの宿題で、昔から「自由研究」というのがあります。

 みなさんも、よく何かノコギリで工作したり、家族旅行先で貝殻とか石とか拾い集めませんでしたか? 自由研究というと、どうしてもそんな感じになってしまいますよね。学校で普段から「研究」の仕方を教えてもらってないのに、「自由に研究して」って急に言われても、何をやったらいいのか困るわけです。「自由研究」が学校で半ば形骸化してしまっているのは、最近、フリーマーケットで自由研究の完成品の売買があったり、「代行サービス業者」まで出現していることからも明らかだと思います。

 ボクは夏休み前、保護者のみなさんに「SSL」について説明しました。サマーセルフラーニング。ボク流に、上記のような「名前だけ自由研究」を見直そうとしたものです。

 

■お母さん名セリフも研究対象に


 「子どもが自分だけでできる研究にしてください」と、ボクは保護者にお願いしました。例えば、旅行先で昆虫採集したり、珍しい石を拾ったりするのは定番ですが、家に帰って、その虫や石に対して何か疑問が生まれた場合、またそこに戻って検証するのは難しいわけです。だから、もっと身近なネタのほうがいい。家の周りで、いつでも自分で確認できるネタが望ましいのです。

 同じことを子どもたちにも説明すると、「例えば、こういうのでもいいの?」と提案してきた子がいました。研究名は「お母さんの名セリフ集」。夏休み中に聞いたお母さんのセリフで、気になるものを"採集"する。「◯◯ちゃんは漢字テストができてすごいよねー」といつも他の子を褒めるお母さん。しかし「◯◯ちゃんが持っているおもちゃが欲しい」と言ってみると、たちまち態度が変わって「よそはよそ、うちはうち!」というセリフが飛び出す。それはなぜ? を考察する......。

 「それ面白い!」とボクは言ったんですが、本当にやった子はいなかったなあ(笑)。その代わり、「嘘を見抜く方法」とか、「褒められるとどうしてやる気になるのか」とか、「消しゴムを使ったきれいな消し方」「出川イングリッシュはなぜ通じるのか」とか、ユニークな夏休み研究が集まりました。いま、ボクたちの教室前の廊下に展示してあります。

 

■「ニンジン作戦」は否定されるべきか


 この章の2回目で、SL(セルフラーニング)が理想の学びの形だと書きました。しかし、SLは子どもを放っておいて、自発的に出てくるものではありません。やはりキッカケが必要になります。

 そして、そのキッカケこそ、このコラムで何度も出てきた「アナザーゴール」なんです。アナザーゴールがSLへの入口になるんです。

 アナザーゴールは、別の言葉で言うと「ニンジン作戦」です。それだとミもフタもないので、戦略的にアナザーゴールと言い換えているだけです。

 ニンジン作戦への批判として、「ご褒美を与えて勉強させると、子どもがいつまでも能動的にならない」というものがあります。しかしボクの考えは、ニンジンで「ずっと釣り続ける」のがよくないのであって、最初はニンジン欲しさで勉強しても、だんだん勉強の面白さがわかって、ご褒美なしで勉強するようになれば、それでOKじゃないかと思っています。ニンジン作戦を頭から否定すると、そのプロセスまで否定してしまうことになります。もちろん、ニンジンの出来も大事ですよね。ボクはどんなニンジンがよいか、日々研究してますから(笑)。

 

■「ご褒美論争」に科学的根拠


 この問題に関して、最近興味深い本を見つけました。教育経済学者、中室牧子さんの『「学力」の経済学』という本です。「子どもを"ご褒美"で釣ってはいけないのか?」について、ハーバード大などの実際の研究データを引いて検証しています。結論から言うと、効果はある。さらに、テストの結果のようなアウトプットにご褒美を与えるよりも、子どもの動機付け、インプットにご褒美を与える方が、学力向上に役立つことが、科学的に証明できるそうです。

 それで意を強くしましたが、ボクのアナザーゴールとは、まさに「学びの動機付けのためによいニンジンを与える」やり方です。例えば「勝手に観光大使」。最初こそ、ボクは子どもたちをノセていますが、子どもたちがいったんその気になると、以後はほとんどセルフラーニングです。「勝手に」楽しさを見つけた子どもたちが、「勝手に」勉強し始めるからです。そうなれば、もうニンジンを投げる必要はまったくありません。

 ワードバンクも、プロジェクト制も、子どもティーチャー授業も同じシステムです。子どもの好奇心スイッチを最初にオンにしてやれば、セルフラーニングのエンジンが回り始める。ガソリンは子どもたちが自分で勝手に給油していく。この章の最初の算数授業でもお見せした通りです。

 そして、SLは教科の枠に縛られません。「自分ですごく知りたくなっちゃったこと」が先にあるのがSLだからです。それがたまたま算数の授業になり、理科の授業になる。

 でも普通は逆で、学校には先にまず算数や理科という枠があって、その上で「ハイ何でも調べていいですよ」になりがちです。ボクが好きな例えである「すしと焼肉」というやつです。焼肉を食べたい子どもたちに無理やりすし屋に座らせ、「ハイ、何でも好きなもの食べていいですよ~」。これでは、どんなに上等なおすしでもおいしさ半減ですよね。

 

■最強の学びはAG+SL


 しかし、タンニンとしてはそれでも、すし屋を出る時、子どもに「おすしも食べてみればおいしかったね」と言ってもらわねばなりません。

 セルフラーニングとは、いわば子どもに自分で「食べたいもの・行きたい店」を選ばせることです。でも、最初から完全に子ども任せでは、栄養が偏ってしまう。アナザーゴールとセルフラーニングを組み合わせることで、子どもの意欲をバランスよく教科に落とし込むことができるはずなんです。

 最近、ボクの中でもようやく明確になってきたのですが、最初にアナザーゴールを仕掛けて、最終的に子どもをセルフラーニング状態に持っていくのが、ボクの編み出した方法であり、理想の学びの形じゃないかなと思っています。

発売中!

『「変」なクラスが世界を変える! ぬまっち先生と6年1組の挑戦』

(中央公論新社、本体1400円)

 夢の豪華遠足を実現した2015年度の6年1組のエピソードを中心に、この連載コラムを大幅に加筆修正。沼田先生のユニークな授業法や教育論をたっぷり詰め込んだ、読み応えある1冊になっています!


>>第91回 セルフラーニング(6)

 

(2017年10月30日 10:00)
TOP