中高の現場から~読売グローバル教育フォーラム(中) 特別講演

第一回 読売グローバル教育フォーラム 「大学入試改革で中高時代の学びはどう変わるか」

 教育を取り巻く現状や課題について読者と共に考える「読売グローバル教育フォーラム」が、5月11日、東京・大手町のよみうり大手町ホールで開催されました。

 第一回のテーマは、「大学入試改革で中高時代の学びはどう変わるか」。

 これは、昨年12月に文部科学省の中央教育審議会がとりまとめた答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(以下、「高大接続答申」)を受けたもので、有識者による講演とパネルディスカッションを実施。活発な議論が交わされ、約700名の聴衆は熱心に聞き入っていました。(主催:読売新聞東京本社広告局 /特別協賛:SAPIX)


<<(上)を読む

 

■特別講演1

「新たな高大接続への道」

 吉田 晋 氏

 日本私立中学高等学校連合会 会長 (中央教育審議会 初等中等教育分科会 委員/富士見丘中学・高等学校 校長 理事長/読売教育ネットワーク 顧問)

 

 今回の改革がめざす方向性について、総論としては賛成です。けれども、現実問題として様々な課題が残されていることも事実です。

 私立学校には、生徒が希望する進路を実現させる責任があります。ところが、このままでは生徒が「迷子」になってしまう危険性があるのです。

 最大の問題は、新しい大学入試制度のスタート時期は2020年度からと決まっているのに、具体的な内容が公表されていないことです。大学入試にあわせて、高校教育を変えようとしても、具体像が見えていない現状では対応に限界があります。

 そもそも、本来、学習指導要領の改訂が先にあって、それに則した大学入試改革が行われるべきだと思うのですが、今回は違います。新しい大学入試は2020年度、つまり今年の新中1生からが対象です。一方の新学習指導要領は2022年度から、移行措置を考えると2024年度に初めて新学習指導要領のもとで大学入試が行われることになります。4年間のタイムラグの中で、高校はどのような教育を行えばいいのか、混乱を招いてしまうでしょう。

 

■大学が意見を統一し足並みを揃えることが重要

 さらに、大学側の意見統一も図られていません。国立大学協会はセンター試験のままでいいのではないか、2次試験も従来通りでも十分に思考力などを問う問題になっているという意向を示しています。私大も、複数回受験などへの対応は負担が大きいため、新テストへの参加は各大学の裁量に任される方向性のようです。

 昨今の報道を受けて、新中1生やその保護者の中には、今後はあまり細かい知識を覚える必要はなく、多様な体験を大切にしようと考えている向きもあるかもしれません。ところが、必ずしもそういう入試にならない可能性も出てきたわけで、大きな問題です。高校としては、大学に足並みを揃える努力を強く望みたいと思います。

 ところで、新しい大学入試では、英語で外部資格検定試験の活用が構想されており、ぜひ推進してほしいと考えています。もっとも、私は日本の英語教育はけっして悪いとは感じていません。読む・書く中心の授業を通して身につく文法力は重要で、留学して論文を書く場合にも威力を発揮します。ただし、これからのグローバル時代を生きる生徒たちに、話す・聞く力の強化が不可欠であることにも異論はありません。TOEFL、IELTSなどは4技能を総合的に評価する試験です。一部の大学では、これらの外部資格検定試験で一定以上の成績を収めれば、入試の英語を満点と見なしており、同様の制度が広がることを期待しています。そうすれば、高校でも、外部検定試験のスコア向上をめざして、話す・聞くを含めた4技能を総合的に高める英語教育が展開できるからです。すでに本校では、1年次からTOEFL対策のeラーニングを導入しています。

 また、本校はSGH(スーパーグローバルハイスクール)に採択されており、慶應義塾大学の学生との共同研究や、タイやシンガポールの高校生とのディスカッションなど、様々な試みが進行しています。新しい大学入試では高校の活動歴を評価する方向性が示されており、そうした多彩な学びの経験が大学入学につながることは大歓迎です。


 

■特別講演2

「変わるものと変わらないもの」

 柳沢 幸雄 氏

 開成中学校・高等学校 校長 (工学博士/東京大学名誉教授/元・ハーバード大学 併任教授)

 

 2020年度、大幅な大学入試改革が予定されていますが、まだ具体的なイメージは見えていません。そこで、原点に立ち返って、教育改革は社会の変化とどのような関係があるのかを考えてみましょう。

 世の中で変わるものの代表は技術です。謄写版、仮名タイプ、算盤など、かつて盛んに使用されていたのに、現在ではほとんど見なくなった道具はたくさんあります。こうした技術の急激な変化が何を及ぼすのか。キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授)は「2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就く」と予測しています。

 もう1つ、大きく変化するのが社会の環境や制度です。少子高齢化や、男女共同参画社会の進行などは、子どもの教育の在り方を変えることでしょう。

 

■若者の独り立ちにつながる大学入試改革を

 では、変わらないものとは何か。それは人間の成長段階です。誕生したときはまったく無能力ですが、それぞれの成長段階で、身につけることが望まれる資質があります。たとえば幼児期なら、周囲の大人に対する信頼感を持つことが、その後の精神的な安定のために重要です。初等教育期は望ましい行動を模倣できる能力が大切です。中高の中等教育期は、自我を形成するとともに、他者の自我(個性)を受け入れる感覚を養うことが必要です。高等教育期は、自立への技術・知識、つまり職業人として働くために必要なことを学びます。そして、職業期は、自分が好きな分野の労働を通じて社会貢献していきます。

 そうした成長段階を通して、保護者が望むのは、子どもが最終的に独り立ちすることでしょう。自分の腕で食べていく力を身につけることです。

 ところが現在、15~34歳に占めるニート(若手無業者)の割合は約2%を数えます。社会に何ら貢献していないわけです。フリーターも7~8%ですから、あわせると10%近くにのぼります。それが日本の教育を終えた若者の実状なのです。

 ですから、大学入試改革を議論する際には、その改革が若者たちの独り立ちにどうつながるのかという観点で検討してほしいと考えています。

 企業では、企画を立案し、実行し、結果をチェックし、それに基づいた改革案を実施するという「PDCAサイクル」を大切にしています。それが新しいアイデアの創出にもつながっています。

 けれども、これまで教育に関する企画・改革でチェックが行われたことがあったのでしょうか。学習指導要領は何度も改訂されていますが、その前の学習指導要領のどこに問題があったのか、十分な検証が行われたのでしょうか。過去の企画・改革を検証し、教育のゴールを見通す改革でなければ、本質的な改革にはならないと、私は考えています。


 

■特別講演3

「明日のアジアを担若者たちのために」

 小林 りん氏

 International School of Asia,Karuizawa 代表理事

 

 日本だけでなく、アジア太平洋地域のために、そしてグローバル社会のために、新しいフロンティアを創り出すチェンジメーカーを育てること。政治家や経営者の育成だけを視野に入れているわけではなく、どんな分野に進んでも、それぞれの立場で、自らイニシアチブをとって、オーナーシップを持って人生を歩める若者を育てること。それがInternational School of Asia, Karuizawaのミッションです。日本で初めて学校教育法の1条校に認定されたインターナショナルスクールであるとともに、国際バカロレアの認定校でもあります。秋入学で、約30カ国から生徒が集まっており、英語による授業を行っています。

 ではなぜ、グローバル人材を育成する教育が求められるようになってきたのでしょうか。グローバル人材というと、海外で活躍する、あるいはグローバル企業に勤める人をイメージするかもしれません。けれどもそれだけの話ではありません。現在、日本の労働人口は約6000万人ですが、最も悲観的な試算によると、50年後に4000万人を切るとされています。つまり、国内にいても、グローバル化の波が押し寄せ、異なる文化をバックボーンとする外国人と共存する時代が目前に迫っているわけです。

 また、本校がアジアに着目したのは、2050年までに、アジアの1人当たり国民所得が、購買力平価ベースで6倍になると試算されているからです。GDPも人口も、世界の半分以上がアジアに集中する時代が到来するのです。そのため、本校では、将来、アジアで活躍することを見据えて、アジア圏以外の生徒も数多く学んでいます。

 

■多様性への寛容力、困難に挑む力などを育む教育

 さらに今、IT業界で注目されているのが、2045年には、コンピュータの人工知能が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が起こるということです。これまで50年単位で転換していた技術の変化が、今後はおそらく10年単位、あるいはもっと速いペースで起こることになるでしょう。そうしたエキサイティングな時代を生きる若者には、チェンジメーカーの気概が要求されるわけです。

 本校では、グローバル人材の育成をめざして、3つの力を育む教育を実践しています。第一は「多様性に対する寛容力」です。給付型奨学金を充実させていることから、国籍が多様なだけでなく、経済的に恵まれない家庭や、紛争地域の生徒も入学してきます。そうした生徒の生々しい体験談が心に響く効果は絶大です。第二は「問題を発見・設定する力」で、「デザイン思考」の考え方のもとに、様々なプロダクトに取り組んでいます。長蛇の列になっていたカフェテリアを改善するために、配膳の工夫を提案するなど、身近なところから問題を見出し、解決を図ろうとする生徒たちの姿勢を頼もしく感じています。そして第三は「困難に挑む力」で、ロープコースなど、チームで協力して困難に立ち向かうプログラムを用意しています。


(下)を読む>>

(2015年7月 9日 15:30)
TOP