安西祐一郎の「2045年の学力」

 文部科学省の有識者会議「高大接続システム改革会議」座長の安西祐一郎氏が「高大接続」改革に込めた思いを語ります。
2045年の学力[現場から]3.垣根を越えて考える力(2017年9月 6日)

 高校と大学の教育、その間の大学入試を抜本的に改革する高大接続改革――と言われても、よう分かりまへんやろ。センター仮面が、相方の大杉住子はんと一緒に、分かりやすう話させてもらいます。(第4金曜日掲載)

センター仮面&大杉住子・大学入試センター審議役 【聞き手】松本美奈(読売新聞専門委員)

 

[現場から]3.垣根を越えて考える力


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 しばらくやったな。すっかりごぶさた。理由は聞かんといて。ひと夏の思い出や......。さあ、今日もまじめな話をするで。オースギはん、頼むわ。

 はい、お任せください。今年の夏もキャンプを楽しんできて、体力、気力ともにばっちりのオースギです。

 この夏、マークシートのモデル問題を発表しました。ご覧いただけましたか。これまでと全く違うのは、異なる分野の多様な資料を使って、総合的、多角的にものごとを考えなければならない問題が出てくるということです。

 まずは国語をみてください。問1は「短歌」について書かれた「評論」です。

 ここで「あれ?」と疑問を抱かれた方は、かなりの「センター試験通」です。これまでのセンター試験は、問1は評論、2は小説、3古文、4漢文という形で、その中で完結していましたから。これからは「評論」と「小説」を組み合わせるなど、分野を超えて、イメージと言葉の往還で考える力を求めていきます。

 こうした新しい問い方の問題で、いまの学生はどのぐらい力を発揮できるでしょうか。今年2月と3月、約600人の大学1年生を対象としたモニター試験の結果を見てみましょう。例えば次の問題。

 

■モデル問題例

【問題文】

 短歌について書かれた次の文章を読んで、後の問いに答えよ。 

 


 ...(前略)...触れることが命の輪郭をなぞり直すことだとしたら、それは他者の命についても同じだ。自分で自分をくすぐっても何も感じないように、私たちは自分と異なる他者に触れたときに触覚を意識することが多い。ひとの身体に気軽に触れる機会は現代の日本では減ってきているが、例えば介護、出産、子育てなど家族との時間のなかでは、身体に触れることが多いだろう。また、次のような性愛の歌でも触覚が印象的に詠まれる。

 

  君の髪に十指差しこみ引きよせる時雨の音の束のごときを (松平盟子『帆を張る父のやうに』)

 

 髪のひとすじずつの柔く冷たい感触を「時雨の音の束」に喩えることで、「君」の儚さが切なく立ち上がってくる。触覚を「音」に喩えるというややアクロバティックな比喩でありながら、すっと胸に入ってくる。...(略)...


 

【問】 「時雨」の本文中における意味として最も適当なものを、次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

(1)春の、特に若芽の出る頃、静かに降る細かい雨

(2)昼すぎから夕方にかけて、急に曇ってきて激しく降る大粒の雨

(3)一しきり強く降ってくる雨

(4)秋の末から冬の初め頃に、降ったりやんだりする雨

(5)みぞれに近い、きわめて冷たい雨

 

 正答は(4)です。

 もし「時雨」という言葉の意味を知らなくても、評論の文章にある「ひとすじずつの柔く冷たい感触」や「『音の束』に喩える」を手がかりに、どのような季節なのか、どのような雨の降り方なのかというイメージにたどり着けるだろうと予想していました。けれども、正答率は26.6%と、語句の意味を問うた他の問題と比較して低い割合でした。愛の歌というイメージからか、(1)と答えた誤答が目立ちました。先入観ではなく自分の目の前の情報を読み取れるか、そこが問われているのですね。

 正答率の低さでいえば、こちらでしょう。

 『平家物語』の「忠度都落(ただのりみやこおち)」《A》と、その文章を読んだ2人の対談《B》の一部を組み合わせた問題でした。さきほど紹介した問題と同じ、古文と現代文といった、分野を超えた問題になっています。問題文をご覧ください。

 

■モデル問題例

【問】 《B》に「文武両道に秀でた堂々たる人物」とあるが、《A》において、俊成が忠度の人となりを語った一文として、次の箇所が挙げられる。

 


  さても唯今の御渡りこそ、情けもすぐれて深う、あはれもことに思ひ知られて感涙抑へがたう候へ


 

 ここから読み取れる忠度の人物像として適当な内容を、《A》に即して、後の選択肢(1)~(7)のうちから全て選べ。

 

(1)戦に敗れ前途がない状況でも、危険を冒してまで京に戻るほどの強い意志を持った人物

(2)戦の最中であっても、師に教えを請うためには遠路をものともしない探究心の旺盛な人物

(3)今や敵となった相手にも、願いをかなえるためには直ちに会いに行く熱意のある人物

(4)自作の何首かは勅撰集に採られるものと信じて疑わない、和歌への自負心の強い人物

(5)可能性は低いが自分の和歌を託して後世に残そうとした、和歌への思いに満ちた人物

(6)死ぬと分かっていながらも、帝にどこまでも付き従おうとする忠誠心にあふれる人物

(7)目標としてきた師に、最後に武士としての矜持を認めてほしいと願う誇り高い人物

 

 正答は(1)と(5)です。この問題の正答率は、2.5%でした。

 「一つ」とか「二つ」と回答数を限定せず「全て」選べと聞いた問題です。誤答の約6割が選択肢を1つだけ選んでいました。

 これまでの「本文をよく読まずに、選択肢のみを読み比べて回答する」というような受験テクニックは通用しにくくなってきます。

 じっくり読んで考える。新しい「大学入学共通テスト」ではその力を問います。それは受験だけでなく、大学でも、社会でも問われる力です。

 

>>その他の問題や解答例も見る(独立行政法人 大学入試センターウェブサイト)

 「『大学入学共通テスト』マークシート式問題のモデル問題例」平成29年7月

 

<センター仮面のつぶやき>

「高大接続改革」追い風に


 評論と小説を合わせた問題やら、古文と評論やら、分野を超えた問題なんて、簡単にできるんちゃうか、と思うやろ。これがなあ、なかなか大変なんやで。作問態勢の問題があってなあ。漢文は漢文を専門とする大学の先生、小説なら小説の先生......そういう態勢で問題を作っているので、分野を混ぜるのは難しいんや。

 意外に知られとらんけどな、全教科・科目で総勢約500人の大学の先生を集めて、2年がかりで1回分のテストを作るんや。1年のうち40~50日は、大学入試センターに缶詰やと。しかもセンター試験の作問に携わっていることは、誰にも言うたらあかんのや。ヒ・ミ・ツ。先生方も大変なんよ。同僚からは、「あいつは、しょっちゅう、大学から姿を消して、どこかで何かコソコソやっとるわ」「何やろな、つんけんしくさって」とか言われてるんやで。申し訳ないのよ、もう。わしらは感謝感謝で、先生方に足を向けて寝られんよ。

 「何で、大学の先生に頼むんや、高校の先生に頼まんかい」てか。ええ質問や。でもな、これがなかなか難しいんよ。高校の先生はみんな受験生を抱えている人たちや。公正性の確保も課題になるわな。現場からは少し離れた、高校での指導経験のある先生を一部入れることは考えられるな。

 まあ、そんな態勢で作ってきて、どうブラッシュアップするかわしらも悩んでたんや。分野の枠を越えるんが難しかったからな。それに、今はそれぞれの枠の中で高校の先生方が授業をしてることもわかってるしな。みな、試験突破に向けて授業をしてるんやから。何とかせないかんとは思うてたんや。

 せやから、今回の改革は、ええきっかけになったんや。教科・科目、それに、分野を超えた力を問う問題も世に送りだすんや。考えてみたら、社会で出くわす問題は、どの教科・科目・分野から出すなんてこと、ありえんからな。

>>[vol.20]


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