安西祐一郎の「2045年の学力」

 文部科学省の有識者会議「高大接続システム改革会議」座長の安西祐一郎氏が「高大接続」改革に込めた思いを語ります。
2045年の学力[現場から]実用的な文章に学ぶ(2017年6月26日)

 高校と大学の教育、その間の大学入試を抜本的に改革する高大接続改革――と言われても、よう分かりまへんやろ。センター仮面が、相方の大杉住子はんと一緒に、分かりやすう話させてもらいます。(第4金曜日掲載)

センター仮面&大杉住子・大学入試センター審議役 【聞き手】松本美奈(読売新聞専門委員)

 

[現場から]実用的な文章に学ぶ


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 僕はセンター仮面というもんやけど、しょっちゅう聞かれるの。「高大接続改革て、一体なんや。何がしたいねん」てな。で、相方の大杉住子・大学入試センター審議役はんと一緒に、出来るだけ分かりやすう、その内容をお伝えしようってことになったんや。安西祐一郎先生が「理念」を語ってくれてますな。僕らは、現場や!いま起きてることを話させてもらいますわ。セットで読んでな。よろしうお頼み申します。

 はじめまして。大学入試センター審議役、大杉住子です。2016年暮れに学習指導要領に関する答申をまとめ、この春、大学入試センターに異動してきました。新テストに向けた気ぜわしい日々の癒やしは、夫がはまっているキャンプに出かけることと、飼い猫と遊ぶこと。この猫が実に美男子で......。いきなり脱線しそうになりました。

 では本題です。

 「大学入学共通テスト(仮称)」には、これまでも使われてきたマークシート式のほかに、記述式が新設される。先日、記述式部分のモデル問題を公表したところ、たくさんの方からご意見をいただいた。面白い、といった好意的なものから、入試でこれを出すのか、といった驚きまで実に多様な内容だった。

 まずは国語のモデル問題をご覧いただきたい。

 

【問題文】

 転勤の多い会社に勤めているサユリさんは、通勤用に自動車を所有しており、自宅近くに駐車場を借りている。以下は、その駐車場の管理会社である原パークとサユリさんが締結した契約書の一部である。これを読んで、あとの問い(問1~3)に答えよ。


 

<駐車場使用契約書>

貸主原パーク(以下、「甲」という。)と借主○○サユリ(以下、「乙」という。)は、次のとおり駐車場の使用契約を締結する。

■第1条 合意内容

甲は、乙に対し、甲が所有する下記駐車場を自動車1台の保管場所として使用する目的で賃貸する。

(駐車場の表示)

住所 東京都新川市新川朝日町2丁目3番地

名称 原パーキング第1

駐車位置番号 11 番

■第2条 期間

乙の使用する期間は、平成28 年4月1日から平成29 年3月31 日の一年間とする。契約期間満了までに甲、乙いずれか一方から何等の申し入れがない時は、さらに一年間の契約が自動的に更新されるものとする。

■第3条 駐車料金

乙は、以下のとおり駐車料金を支払うものとする。

敷金(※注) 金20,000 円

月額駐車料金金21,600 円(税込)

支払期日毎月末日までに翌月分を支払うものとする

支払方法甲指定の銀行口座への振込

■第4条 駐車料金の改定

甲は、この契約期間中、物価の変動、経費の増加、近隣駐車料金その他の経済情勢の変動により、月額駐車料金が不相当と認められるときは、これを改定できるものとする。

 

■問1

 駐車場使用契約を行った3か月後のある日、サユリさんのもとに、原パークの担当者から電話があった。

 「もしもし、原パークですが、サユリさんですか? いつもご利用ありがとうございます。現在、サユリさんには駐車場料金を毎月21,600円払っていただいておりますが、このたび24,840円に値上げすることを決定いたしました。来月分より新料金でのお振り込みをよろしくお願いいたします。」

 サユリさんは、この突然の値上げに納得がいかないので、原パークに対して今回の値上げに関する質問をしたい。契約書に沿って、どの条文の、どのような点について質問したらよいと考えられるか。解答の文末が「~について質問する。」となるようにして、40字以内で述べよ(句読点を含む)。

 

 「契約書」という実用的な文章が、センター試験の国語で出題されたことは、ない。日常生活ではしょっちゅうお目にかかり、トラブルになることすらあるのに、試験問題には出てこなかった。しかし、実用的な文章に触れる重要性は、すでに今の高等学校学習指導要領には盛り込まれている。

 「現代の社会生活で必要とされている実用的な文章を読んで内容を理解し、自分の考えをもって話し合うこと」

 学習指導要領の解説には、もう少し詳しく書かれている。

 「実用的な文章」とは、一般的には、具体的な何かの目的やねらいを達するために書かれた文章である。それには、報道や広報の文章、案内、紹介、連絡、依頼などの文章や手紙のほか、会議や裁判などの記録、報告書、説明書、企画書、提案書などの実務的な文章、法律の条文、キャッチフレーズ、宣伝の文章などがある。また、インターネット上の様々な文章や電子メールの多くも、実用的な文章の一種と考えることができる。

 

 このように、現代の社会生活では実に多様な実用的な文章が用いられている。これらの文章に接して、それぞれの内容を的確に読み取り、表現の仕方について検討して自分の考えをもち、話し合うのがこの言語活動である。

 実用的な文章を読んで「内容を理解」することは、社会において自立的に生き、社会における様々な活動に参画する基礎となる。また、その上で、自分の考えをもち、話合いを通して主体的に社会とかかわり合うことが、現代社会では強く求められている。

 

 教科書もこれに基づいて編集されているのに、実際の授業では重視されない。なぜか。入試で扱われないからだ。出題されるのが「文学作品」「評論」「古文」「漢文」とわかっているのに、わざわざ実用的な文章を授業で取りあげる高校の先生はなかなかいないだろう。1人でも多くの生徒に、1点でも高い点数を取らせてあげたいというのが教員の心理だ。

 高校生はやがて、社会に出て行く。モデル問題のような場面に立たされることも出てくるだろう。実社会の中で生きる言葉の力は、大学でも育成が欠かせない基盤的な力だ。評論は主張を伝えるために、ロジックを繰り返す場面がある。だが、契約書の特性は、ロジックが繰り返されず、必要最低限にそぎ落とされた論理で組み立てられていることにある。さらに、この問題では「異議申し立て」についても伝えている。相手や場面に応じて、言葉を発していかなければならない。実用的な文章は、大学教育の基礎をつくるトレーニングとしてふさわしいのだ。

 

 情報が目まぐるしくやりとりされる社会の中にあって、国語の授業は何を学ぶべき時間なのだろうか。いまこそ原点に戻り、考えてほしい。この問題には、そうした思いが込められている。高校卒業後のあらゆる教育の基礎、その先につながる社会で生きていくための力を培う時間ではないか。教育関係者だけでなく、多くの人たちと議論できることを期待しての出題だ。

 もちろん、文学作品や古文、漢文をないがしろにするつもりはない。近々マークシート式の問題として、出題のイメージを公表する予定だ。今回、記述式であえて実用的な文章を題材としたのは、「社会で生きることと言葉の役割」に光を当てたかったからだ。

 

 教育のしくみを考えるとき、私たちはなぜ学ぶのかに立ち返ることが重要だ。学ぶ動機付けは大きく三つに分けられるとされる。まず、学習者自身が知りたい、考えたいと意欲を燃やす「内発的な動機付け」と、宿題をやらないとおこられるからといった「外発的な動機付け」、そして大学合格などを目的とした「達成動機付け」だ。達成動機付けの成果は、入試でどのような問題を出すのかといった課題や評価の質に依存する。いかに入試の質を高め、「内発的な動機付け」と同じような「深い学び」につなげられるか

 私たちはいまそのスタート地点から踏み出したばかりなのだ。

 

<センター仮面のつぶやき> 「書く」には道具を選ばにゃ


 「大学入学共通テスト(仮称)」の肝は、「記述式」つまり、手書きや。いままで小さな楕円を塗りつぶす作業をしてもらっておったけど、これからは自分で考えを書くんや。鉛筆でな。書くことがどんだけ考える力を伸ばすか、それはおいおい伝えるとして、ハードルはぎょうさんあるんや。今日はその話をしようか。

 今年11月、5万人を対象にプレテストをする。マークはいままでもH、F、HBの鉛筆で塗りつぶしてもろうてた。いまどきの子は筆圧が弱いがな。画像読み取り機のことを考えると、「書く」のにHはあかんかもしれん。2Bやろか。下手すると、汚れるな。どんな筆記具がふさわしいんか、考えんといかんのや。

 消しゴムを使う回数も増えるで。記述式やからな。となると、答案を読み取る機械が詰まるかもしれん。みんな、55万人のテストの記述式なんて、ほんまに採点できんのかて思てるんとちゃうか。検証せなあかんことが、山積みや。

 今のセンター入試では、シャーペンでの下書きはOK。けどな、マークシートはHなどの鉛筆やろ。「書く」ための下書きスペースも相当用意せんとあかんわ。鉛筆どうすんねん、みたいな小さなことからコツコツと必死に検討せなあかんねん。ほんま、大変やわ。でも絶対にやったるで。

>>[vol.19] 


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