安西祐一郎の 「2045年の学力」(5)「なぜ」と問いかける

安西祐一郎の 「2045年の学力」 高大接続に込めた思い

 「高大接続」という言葉が独り歩きしている。目まぐるしく変わる世界で、私たちの子どもはどんな力を求められるのか、それにふさわしい教育を創っていこう。そんな思いで始めた改革だったが、その方向に進んでいるのだろうか。議論を進めてきた責任者の一人として、改革に込めた思いを語りたい――中央教育審議会会長として改革を世に送り出した安西祐一郎氏が語り始めた。

第1、3金曜日掲載(聞き手・読売新聞専門員 松本美奈)

安西祐一郎(あんざい・ゆういちろう)
日本学術振興会理事長、文部科学省顧問。前慶応義塾長・大学長。認知科学。70歳。

 

[vol.5] 「なぜ」と問いかける


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 情報を鵜呑みにしない力を子どもにつけて欲しいのなら、まず大人から。前回、そう書いたら、たちまちのうちに反論の声が聞こえてきた。「私は情報に惑わされない。自分で判断しています」と。言い切りたい気持ちはよくわかる。けれども、ことはそれほど単純ではない。人工知能(AI)が賢くなっているからだ。

 

 インターネットでの買い物で考えてみよう。たとえば、あなたは靴を買おうとし、通勤に使えそうな実用的でオシャレな革靴を見つけたとする。残念ながら、途中で用事ができて買い物を中断してしまった。ところが、その買い物サイトからは何度も「この靴を選んだ人は、こんな靴とも比較しています」などと画像が送られてくる。買おうかな、とあなたが悩んだ靴を向こうは覚えていて、類似の商品の画像も次々に送りつけて来るのだ。

 こうなると人は弱い。時をおかずに買い物を再開し、やがて商品を選び出して「カートに入れる」を押す。「レジ」をすませると、そこに待っているのは、革靴にふさわしい衣類やアクセサリー、通勤以外の場面で活躍しそうなスニーカーなど、あなたの検索情報からAIが推測した「あなたの好み」の商品群。中には自分では思いもつかなかった商品も並んでいるかも知れないが、何度も見せられているうちに「私はこれがほしかったのかも知れない」と思い込んでしまいがちだ。

 

 AIは学習能力がとても高い。人が何を検索したかをきちんと把握し、蓄積しているのだ。さらにそこで得た情報を繰り返し流すことによって、結果的に人の判断のコントロールもできる。考えてみると、怖い存在だ。買い物ならばまだしも、選挙の投票など国の行方を決める重要な行動の際にも、コントロールされる危険性はないだろうか。

 情報を鵜呑みにしない、偽の情報に惑わされない。以下の3点は必須の注意だ。

 

  ・その情報が正しいかどうか吟味する

  ・意味のある情報かどうか吟味する

  ・信頼できる出所からの情報かどうか吟味する

 

この3点を確認するために、お勧めの方法がある。

 

  ・その情報に対して「なぜ」「だから」と問うてみる

  ・その情報を、違う言葉を使って要約してみる

  ・その情報と類似の情報を自分で考えてみる

  ・その情報についての自分の考えを、他者に話したり書いたりして伝える

 

 先ほどの買い物の例で考えてみる。なぜ「他人はこんな商品を見ている」という情報が、私のところに届いているのだろう。「私と同じ靴を選んだ誰かが、別のこの商品を見ているからって、それが何か? だから何だというの」「つまり、この商品を買えっていっているわけね」......。

 さまざまな角度から情報を見直し、自分の言葉にして誰かに伝えることで、冷静な判断力を取り戻せるはずだ。今の子どもたちは幼い頃から大量の情報に取り囲まれている。だからこそ、子どもの頃から「なぜ?」「だから?」と繰り返す習慣を身につけてほしい。親が一緒に「なぜ」「だから」と首を傾げ、一緒に考えてくれたらなおいいだろう。

 

 と、ここまで話してきてはたと気づいた。皆さんにお伝えしているこの言葉も「問われる」対象になるのだ、と。いや、この文章は確かですよ、ゆめゆめお疑いなきよう。ああ、それでは前言と矛盾する。困ったなあ。

【MEMO】

「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の「記述式問題」をどう採点するかについて、文部科学省は2016年11月、国立大学協会に、(1)センターが形式面を確認し、各大学が採点する (2)センターが段階別表示まで行って各大学が確認する、の2案を示した。「記述式問題」とは、書き手の意図を伝えやすく読み手が理解しやすいように、的確に構造化され的確に表現された文章等を解答として記述する問題のことで、「小論文」ではない。

>>[vol.6] 絵日記のススメ


(2016年12月 2日 10:00)
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