安西祐一郎の「2045年の学力」

 文部科学省の有識者会議「高大接続システム改革会議」座長の安西祐一郎氏が「高大接続」改革に込めた思いを語ります。
2045年の学力[現場から]4.複数の資料を読み解き、考える(2017年12月29日)

 高校と大学の教育、その間の大学入試を抜本的に改革する高大接続改革――と言われても、よう分かりまへんやろ。センター仮面が、相方の大杉住子はんと一緒に、分かりやすう話させてもらいます。(第4金曜日掲載)

センター仮面&大杉住子・大学入試センター審議役 【聞き手】松本美奈(読売新聞専門委員)

 

[現場から]4.複数の資料を読み解き、考える


<< [vol.23] 「リアルな教室」の意味

 

え? センター仮面さんはインフルエンザ!? 流行に乗ってるね。では、今日は、松本さんをお相手に...

 

――大学入学共通テスト実施に向けて、試行調査の問題と正答例が12月4日に公表された。全国1889校の高校生178,129人が11月に受験した。反応は。

 

大杉 共通試験だけが変わるのではなく、高大接続改革の中で教育の在り方とともに変化していくのだ、というメッセージを受けとめてもらえたようだ。試行調査の問題を授業改善にどう生かすか、という動きも始まっている。先日、東京都教育委員会主催の授業研究会を見学してきた。約700人の先生方が集まり、「主体的・対話的で深い学び」について実践報告をしていた。

 

――これからの教育では、「何を教えるか」にとどまらず、「生徒が何を身に付けるか」が重視される。ただ、現場を取材していると、困っている先生が相当多いと感じる。これまでとは、全くめざすものが違っていることに戸惑っているようだ。

 

大杉 進学校や中堅校と呼ばれる高校では、これまで大学への進学実績といったものさしで教育成果の評価がなされてきたため、「生徒たちが、何ができるようになるか」を目標にするといってもどう設定したものか、悩まれているのかもしれない。「主体的な学び」が大切だと言われても、高校卒業までにどういった力の育成を目指すのかというねらいが設定できなければ、形式的に「アクティブ・ラーニング」をこなすことになってしまう。

 むしろ不登校などを理由に力を発揮できなかった生徒たちを支援する高校などでは、どのような力を付けて社会へ送り出すかというミッションが明らかなので、教育や学習の目標を設定しやすいのかもしれない。

 

――確かに。子どもたちの現状もつかめず、やみくもに視察や研修を重ねている。研修それ自体が目的化している傾向はみてとれる。さて、試行調査に話を戻すと、生徒たちはどう反応してくれたのだろうか。

 

大杉 これまでのセンター試験とは異なる傾向の問題に戸惑いの声もあったが、考えながら問題を解くことにやりがいを感じたという声も少なくなかった。

 

――国語の第1問は面白かった。「青原高校」を舞台に、生徒たちが直面している問題をどのように解決するか。その糸口を、生徒会部活動規約や校内新聞、生徒たちの話し合いなど複数の資料から探り出させる問題だった。なぜこういう問題を作ったのか。

 

■問題例

【問】 青原高等学校では、部活動に関する事項は、生徒会部活動規約に則って、生徒会部活動委員会で話し合うことになっている。次に示すものは、その規約の一部である。それに続く【会話文】は、生徒会部活動委員会の執行部会で、翌週行われる生徒会部活動委員会に提出する議題について検討している様子の前半部分である。後に示す、執行部会で使用された【資料1】〜【資料3】を踏まえて、各問い(問1〜3)に答えよ。 >>続きを見る(PDF)

独立行政法人 大学入試センターウェブサイト >>「平成29年度試行調査_問題、正解表、解答用紙等」より抜粋

 

大杉 2017年5月に公表されたモデル問題と同様に、現代の社会生活で必要とされる「実用的な文章」を題材として出題させていただいた。これまで入試では扱われてこなかったため、授業ではほとんど扱われてこなかった。論説文などは、筆者の主張が繰り返し表れてくることが多いのに対し、規約文のような法的な文章は、必要な情報であっても繰り返されないことに特徴がある。章立ての構成をつかみながら、目的に応じて必要な情報を取り出すことが求められる。

 現行の学習指導要領で重視されている「主体的な言語活動」を通じて、複数の情報の中から、重要な情報をしっかりととらえて、場面に応じた表現で相手に返す。他者に必要な情報を伝え考えの共有を図り、ともに暮らしていくためにはどのような言葉の力が必要なのかを考えるきっかけとして生かせてもらえたらうれしい。

 

――なるほど。今回は初めて記述式問題を大規模に実施した。目についた誤答の傾向は。

 

大杉 結果分析を行っている最中なので、全体的な傾向ではなくあくまで一つの例として受け取ってほしい。形式的な面では、例えば解答用紙の「マス目」に書いてもらったところ、文末の1マスに文字と句読点を入れている回答も見受けられた。今回の試行調査では句読点も1文字とカウントすることとしているが、本格的な実施に向けては、事前にルールをしっかりと共有しておくことが必要になると感じている。

 内容面では例えば、申請時の条件と手続きを聞いているにもかかわらず、承認の手続きに関する14条をひいている生徒も多く見受けられた。設問中に示された目的を捉えることに課題があるかもしれない。

 

――無答の状況は。

 

大杉 問3に目立った。登場人物の一人「森さん」の立場に立って考えをまとめることが必要だったが、難しかったようだ。全体的に読み解く文章の量が多くなったこともあり後回しになったかもしれない。なお、今回の問題はあくまで試行調査のための問題であり、結果を踏まえて題材の数の調整などが行われることになる。

 

――数学Ⅰ・数学Aの第2問も、ユニークだった。観光客数と消費総額の散布図をもとに、地域活性化を考える問題だった。

 

■問題例

【問】 地方の経済活性化のため、太郎さんと花子さんは観光客の消費に着目し、その拡大に向けて基礎的な情報を整理することにした。以下は、都道府県別の統計データを集め、分析しているときの二人の会話である。会話を読んで下の問いに答えよ。ただし、東京都、大阪府、福井県の3都府県のデータは含まれていない。また、以後の問題文では「道府県」を単に「県」として表記する。 >>続きを見る(PDF)

独立行政法人 大学入試センターウェブサイト >>「平成29年度試行調査_問題、正解表、解答用紙等」より抜粋

 

大杉 都道府県別の観光客数やその消費総額などのデータについて、散布図などを用いて考察させる問題だ。(2)では、身近な話題をテーマとしたデータの特徴を読み取り、自分で問題解決の構想をして、その根拠を表現することを求めている。答えに至る問題解決のプロセスを数学的な表現を用いて説明することを求めた。

 

――(2)は誤答も多そうだ。

 

大杉 数学的な表現を求めていくと、例えば「傾きが急」という解答は正確ではない記述となる。誰にでも正確に伝わるという数学のよさを生かす指導とはどのようなものかを、並行して考えていかなければならない。

 

――国語、数学いずれにしても、記述式は「自己採点」が難しそうだ。「正答例」が示されているけれども、それと自分の答案がどの程度かけ離れているのか、判断がつきにくい。

 

大杉 今回の試行調査では、試験実施後に自己採点もしてもらった。その分析も踏まえて、正答の条件などをさらに検討していきたい。

 

――記述式で気になるのは、受験生への配慮だ。例えば点字。数字にしても「1」なら「1文字」ですむが、点字だと「数符+数字」で「2文字」になる。複数の資料を見ながら考えさせる今回のような問題だと、文字数が相当に増えるだろう。

 

大杉 センター試験でも様々な受験上の配慮を行っている。点字での受験生は平成29年度試験では12人いる。記述式になると文字数の設定に関する検討調整も必要だ。複数の文章を読み比べる問題や図版の扱いをどうするか、といった課題もある。年明けには点字解答に関する試行調査を実施し、受験生が不利にならないように、知恵を絞りたい。

 

ひとこと

 高校や大学の教育現場は、試行調査の結果にきわめて冷淡――調査の公表後の反応を取材して、率直にそう感じた。試行調査の問題を「自分で解いてみた」と言う教員に会えないのだ。そもそも「他人事」で、「自分には関係ない」とでも受け止めているのだろうか。その代わり耳にするのが「今回の改革は失敗する」「入試をいじったぐらいで教育は変わらない」といった評論家めいたコメントばかりだった。

 時代のうねりの音をはらんで動き出した「高大接続改革」を「自分事」として受け止められない教員の存在は、教育の未来に暗い影を落とす。「改革」がなぜ必要となったか、最も「改革」が必要なのは何か。逆説的に理解できたような気がする。(奈)

 


TOP