<コラム>再履修で「初心にかえる」

大学を専門に取材する記者のコラムです

 

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女性利用者と一緒にかけ算九九を暗唱する砂山さん(左から3人目)

 単位を落としてしまった授業を、再び受講する「再履修」。単位の取得に終わらない、思わぬ学びを学生にもたらすことがある。

 

 東京慈恵会医科大学は本格的な臨床実習が始まる4年次までの1~3年の毎年、学生全員を障害者施設や児童館、訪問看護ステーションなどに送り、そこでの生活を体験する実習を行っている。同大学の理念「病気を診ずして病人を診よ」を理解するには「多様な人との出会いが欠かせない」と福島統(おさむ)・教育センター長(58)。19年前から続く必修の実習で、落とせば当然、再履修となる厳しさだ。

 

 「わあ、七の段まで来たよ」。再履修の現場のひとつ、知的障害者通所施設「府中あゆみ園」(東京都)の食堂で3月中旬、施設利用者の女性が声を弾ませていた。同大1年の砂山学さん(19)に教えられて、掛け算の九九を勉強していたのだ。七の段を暗唱する女性の横で、「教えられたのは僕の方です」と砂山さんは神妙な表情を見せる。再履修実習最終日の5日目を迎えていた。 昨秋の実習前、興味半分で頭髪を金色に染めた。「身だしなみ規定」に反していたため、実習は即中止。1年生全員の前で、福島センター長から注意を受け、再履修が決まった。その時は「髪の色ぐらい」という思いがないでもなかった。だがいまは違う。「自分はとんでもないことをした」

 

 施設で売る商品のパンやクッキー作り、畑作業などをともにした。懸命に作業に取り組む利用者と支えるスタッフを前に、医師を志すきっかけとなった開業医の父を思い出していた。毎月、難解な専門誌を精読し、患者のために最新の知識と技術を取り入れる努力を怠らない父にあこがれていた。自分は何のために医学部に入ったのか。人の役に立ちたかったからではないか。再履修を通して、人によっては嫌うかもしれない金髪で臨もうとしたことへの不見識を知ったのだ。実習が終わった後、「お医者さんになった姿を見せてね」と施設スタッフたちに声をかけられていた。

 

 人生はやり直しの連続。こんなやり直しが名医を育むゆりかごならすてきだ。(松本美奈)

(2015年3月19日 15:08)
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