<コラム>芽が出る畑

大学を専門に取材する記者のコラムです

 

作業をしながら談笑する学生と澤登教授(左)

 2人に1人が大学に進む時代。目的意識もなく入ってくる学生の勉学意欲に火をつけようと、大学の現場は懸命に汗をかいている。今年で8回目を迎えた読売新聞「大学の実力」調査からは毎回、あれやこれやの試行錯誤の現状が浮かび上がる。

 

 恵泉女学園大学(東京)が核に据えるのは1年生必修の「生活園芸Ⅰ」だ。キャンパスに隣接する7000平方メートルの農場で、1年間かけて土作りから収穫までを体験させる。1988年の開学以来続く建学理念に基づいた授業ではあるが、最近は、チームワークや責任感を養うために2人1組で一区画の責任を持たせたうえ、有機農法の導入で環境や食糧問題への興味を深めるといった工夫を凝らしている。 目標の高さもあって、授業を担当する澤登早苗教授たち教員の言葉も何やら深遠だ。

 

 取材した11月下旬の授業は、野菜の収穫期に当たった。単に引き抜いて穫り入れればOKではなく、「どう食べていきたいか、よく考えてね」と澤登教授は言う。例えばラディッシュなら生長が早く、大きいのから収穫しても長く楽しめる。けれどもコカブだと成長がゆっくりだから、小さいのは間引いて勢いのあるものを大きく育てなければならない......。どう育てるか、つまりどう生かすかを考えさせることを通して、自分がどう生きたいかに思いを馳せさせる便法、とも受け取れた。

 

 ふと見ると、学生も神妙な表情で聞いている。その後、足取りも軽くそれぞれの区画に向かい、機敏な動きで作業を始めたのには驚いた。今年度の授業が始まった4月に同じ農場を訪れた時には、作業の説明をする澤登教授の前で、カラフルな爪でスマートフォンをいじる学生が目立っていた。感想を尋ねると、「ジャージに麦藁帽子なんて、サイテー!」「日に焼けるし、手は汚れるし」「虫、大嫌い」などと不満をぶちまける学生も少なからずいたからだ。澤登教授はそうした不満も織り込みずみのようで、「そういう子がいると、わくわくする」と話していたが、それにしても大変な変わりようだ。

 

焼き芋をほおばる学生たち。自分で育てた芋の味は別格

 この日は収穫したサツマイモをたき火にくべての「収穫祭」だった。短期大学から編入してきた3年の山内瞳さん(22)は「新しい環境に軟着陸できたのは、この授業のおかげ」と焼きたての芋をほおばりながらふりかえる。いやいやながらクワを振るい、種をまき、炎天下で草を抜く。倦んだら仲間と励ましあいながら、再び作業に向かう。そうした中で小さな芽が葉を広げ実っていく姿が、表情の向こうに透けて見えた。「来年はメロンを育ててみたい」と意欲を燃やす。

 

  ただ、すべてが芽吹くわけではないようで、長期欠席のままの学生もいる。「学生の変化に追いつくために、さらに生活園芸をパワーアップしなくては」と澤登教授は自分を励ます。

 

 「チョットコイ、チョットコイ......」。突然、コジュケイのさえずりが聞こえた。鳴き声が明るく響く農場で、次はどんな芽が出てくるのだろう。(読売新聞専門委員 松本美奈)

(2015年12月 9日 12:03)
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