異見交論

大学のいまを語り、未来を考えます。
異見交論35 「社会人学生が社会を変える」東 英弥氏(事業構想大学院大学理事長)(2017年3月31日)

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 時代はめまぐるしく変わり、知識の陳腐化も早い。だから、「生涯学び続ける人」の育成を――と言われながらも、いったん社会に出た大人が大学や大学院で学び直す風潮がなかなか広がらない。一方で、社会人学習者が積極的に集まる場がある。2012年に開学した事業構想大学院大学だ。これまで積み上げた「成果」をもとに、4月には、社会情報大学院大学もスタートする。社会人の学習者は何を求めているのか、その学びは社会をどう変えるのか。理事長の東英弥氏東氏に聞いた。(聞き手・読売新聞専門委員 松本美奈)


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■ニーズから始まった学びの場

――より良い社会を作るためには社会人の学び直しが大切だと、かなり前から言われてきましたが、なかなか広がりません。そうした中、社会人学生を対象にした2つ目の大学院大学を開学するとは、大胆ですね。

 

東 10数年前から構想していました。「広報のスペシャリストがほしい」と、企業経営者や自治体の皆さんから相談されていたことが大きいです。それなりにお金をかけているにもかかわらず、成果が上がらない、と。それは広報と広告とを整理できていないことに起因します。

 

■養成する人材像(入学定員)

・社会情報大学院大学 広報のスペシャリスト(40人)

・事業構想大学院大学 社会を変革する事業を構想する人材(30人)

※いずれも授業は平日夜間、土曜昼間 2年間

 

――なるほど、ニーズを受けての開学ですね。で、広告と広報との違いとは。

 

東 端的に言うと、広告は「広く告げる」。基本は一方通行です。これに対して広報は「広く報告する」。社会への報告義務を根底に、企業や自治体の理念、考え方を発信していくことです。報告するから、当然、反応も返ってくる。それに対してまた発信する――双方向的です。顧問弁護士や会計士と同じぐらい、企業にとっては大切な存在なのです。新年度の募集定員40人に対し、400人以上もの方が説明会に来てくれたのは、大切さが理解されているからでしょう。

 

――事業構想大学院大学の開学は2012年。これまで5年間の成果と課題を踏まえての開学、ととらえていいですね。

 

東 もちろんです。開学に当たって重視したのは、「夢を形にする」ことです。事業構想大学院では、出来合いの理論を押し付けるのではなく、入学した一人ひとりの問題意識をもとに理想の実現に道筋をつけてきました。教員と院生の比率は1対1。従って、1学年30人の定員ですが、その成果は、卒業生の現状でご理解いただけるでしょう。「形になった夢」が続々と現れているのです。

 たとえば、東日本大震災で被災した郷里の福島に新たな産業を起こした人がいれば、ご自身の介護経験から、お年寄りや小さいお子さんを抱えたお母さんのための新しい交通ビジネスを始めようとしている方もいる。社会人としての実戦経験が基盤にあるから、視点がシャープで、粘り強い。

 そんな成果が出ていますから、院生による授業評価も、5点満点で平均4.3と高くなっているとみています。

 

――自分で学費を負担している方が大半でしょうから、授業に対してはかなり厳しいはずです。それにしては高い評価ですね。

 

東 授業評価が万一低かった教員はFD研修や面談を受け、問題点を自己分析し、改善策を出すことになっています。それで授業の改善につなげるシステムです。教員も真剣勝負です。

 

 

■「たった一つの正解」を望む「受け身」の院生

――ほぼ100%の大学が授業評価を行っていますが、低い評価を受けた教員のフォローアップはあまり聞かないですね。課題はないのですか?

 

東 まず「受け身」傾向の方が目に付くことです。

 入学者は大きく二つに分けられます。起業したい人と、企業から派遣され新規事業に取り組む人です。いずれにしても、高いモチベーションを持っている方です。にもかかわらず、受け身の人もいるのです。大学までそういう教育を受けてきたのでしょうか、大学院もその延長でパッケージ化した「事業構想」を教えてくれる、と思っている。事業構想に定型はありません。たった一つの正解もありません。社会に必要なものとは何か、自分の目を磨き、自分で解決策を考え出さなければならないのです。

 受け身の方はたいてい、「職歴」や「学歴」を背負っていますね。偏差値の高い○○大学を出たとか、有名な会社にいるとか。これを払拭するのは大変です。社会に対する理解も高いといえない。特に、大企業では仕事が細分化されていて社業の全体像がつかめず、しかも自分の仕事が社会に届くまでに時間も距離もあるからでしょう。新しいビジネスを考えなくてはいけないのに、なかなか体裁、体面から抜け出せない。だからこそ、1対1の指導体制が欠かせないのです。

 

――大学の偏差値、つまり、一般入試の偏差値ですね。これだけ入試が多様化し、大学の教育の質が問題だとされているにもかかわらず、そこに固執していること自体が社会に背を向けている証左の一つのようにも感じます。

 ところで、東さんが大学を開学しようと決意したのは、25歳のときだったとか。

 

東 その頃、私は東京・高田馬場で会社案内を作る会社を始めていました。世の中のあらゆる業種を知りたいと考えて起業しました。事務所前を通る予備校生を見て自分の大学での学び方を思い出しながら、しっかり指導する人が大学にいたらいいのに、と問題意識を持つようになりました。「何かしたい」「社会に役立ちたい」思いは、誰もが必ず持っている。そこに火をつけたい、そのために仕組みをつくろうと決めたのです。

 でも結果的に舵を切ったのは、社会人が学びに来る大学院の設立です。社会の現実を身をもって知り、課題を見つけ、新しい社会を創ろうと考える社会人が、実務家教員と一緒に、実践・実戦をいつも視野に入れて腰を据えて学び、研究できる場でした。社会を変える道に直結していると考えたからです。

 

――社会を変革する事業を構想する......。事業構想大学院大学の理念をご自分で進めているわけですね。

 

東 いま、何かに寄りかかる人間が増えていますが、これだけめまぐるしく変化している時代ですから、自分で考えて動く人間が必要です。ただ、事業構想大学院大学、社会情報大学院大学といった大学院だけで社会を変えることは難しい。そこで次の手を考えています。

 今夏、自分の地域を変える力を養う無料講座を開きます。対象は大学3、4年生、大学院生、社会人1、2年目の若い人たちです。一流の講師をそろえ、3回程度の研修で、自分の地域の課題を解決する具体的な事業を考える場をつくります。まず東京と大阪で展開し、いずれは日本全国の大学で寄付講座をしたい、と考えています。

 


おわりに

 「学歴」「職歴」を払拭するのが大変――。その言葉が重い。「学歴」の根底にあるのは「偏差値」だ。大学入試の筆記試験に合格した人が受験生時代、特定の予備校で受けた試験の結果ではじき出された数値に過ぎない。入学者全体のものではない。しかも大学での教育の質とは無関係だ。

 それに頼る現実を変えるためにも、大学院大学で学ぶ社会人がもっと増えればいい。自分の背負っていた「学歴」「職歴」が現実の社会の中でどれほどのものかを客観視できれば、そして、それに基づく声が企業内部から起きてくるようになれば......。社会人の学びが、きっと社会を変えていくはずだ。(奈)


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