異見交論64【最終回】 「思考停止の改革」から脱却せよ 浜口道成氏(科学技術振興機構理事長)

はまぐち・みちなり 1951年、三重県生まれ。名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。専門は腫瘍生物学。名古屋大学医学部長、同学長を経て2015年から現職。

 国立大学法人に変貌を迫る向かい風が弱まらない。自民党の行政改革本部が「骨太の方針」の核に国立大学改革を据えてイノベーションの創出を狙えば、文科省は学長ガバナンスの「強化」を法改正案※に盛り込む。こうした一連の動きに、「思考停止の証」と警鐘を鳴らすのは、前名古屋大学長の浜口道成・科学技術振興機構理事長だ。国立大学のポテンシャルをさらに損なう結果になりはしないかという。そのうえで提言するのが、国と法人との新たな「契約関係」だ。2004年の法人化以来、迷走する改革論議に終止符を打つ切り札となりうるか。(聞き手・読売新聞専門委員 松本美奈、写真も)


 

■大学院重点化で始まった研究力低下

――政治家も行政も、国立大学改革に躍起となっている。一方、大学人からは「法人化が失敗だった」という批判も根強く、一連の動きに批判的だ。

 

浜口 大学の法人化が正しかったかどうか、そんな後ろ向きの議論は無駄だ。たしかに国立大学の研究力は明らかに落ちている。トップ10%論文数を見ればわかる。だがそれは、法人化したからではない。

 グラフの青い部分が大学だ。法人化は2004年だから、影響というなら、2005年以降に論文産出量のカーブは下がって来なければいけないが、変わらない。産出量がプラトー(停滞状態)に達したのは98年、99年ごろ。法人化の5、6年前にはすでに始まっていた。

 

 

――大学院の重点化が1991年からだった。論文の大半は国立大学で書かれている。

 

浜口 そう、重点化でおそらく研究室を細分化した。研究分野は広がっていくのに、日本はコストをかけられないものだから、研究組織を小さくし、助教授を教授に、助手を助教授に振り替え、研究対象を狭くし、ピンポイントで研究せざるをえない。そこに「ポスドク1万人計画」。自ら袋小路に追い込むような施策で、貴重な人材も使い捨てするようになったのだ。

 

――なるほど。人材の使い捨ては、今も続いている。

 

浜口 少し前のデータだが、ポスドクのうち、35歳以上が30%以上もいる。そして大概が、月給十数万円のギリギリの生活を強いられている。そんな先輩の姿を見て、学部生が大学院に行くわけがない。実際、行かなくなった。大学院生が減ってきているのは、人口減少もあるが、それ以上に魅力を感じないからだろう。名古屋大学の場合、ビジネス人材育成フォームを作ってポスドクを就職させていた。そういうサポートをもっとやらなければいけない。

 

――先ほどのグラフに戻ると、科学技術関係経費と論文数が平行しているようにみえる。

 

浜口 その通り。見事に平行関係にある。科学は正直なもので、かけたお金に比例して一定の結果が出てくる。お金をかけなくても素晴らしい仕事ができるのは、天才だけ。科学は天才のものではない。ある程度の能力のある人が営める分野が確保されていなければ、国の活力や国際的な競争力は出てこない。普通の人が成果を出すには、経済的サポートがいるのだ。

 

――結局、お金の話か。

 

浜口 そうだ。国の一般会計の総額は約101兆円。その55%は社会保障費や国債償還に消えていく。ここ十数年、国立大学は運営費交付金が減っていると口々に言い続けてきた。単に言葉を繰り返すだけでなく、科学者は頭がいいはずなのだから、もっと効果的な方法がないか考えてほしい。ただ寄越せと言っても、空の財布からお金が出てくるわけがない。違う道を探さなければいけないのに、その努力を完全に怠っている。

 

 

■自己裁量権で借金返済

――法人化後の国立大学から学ぶべき点はないか。

 

浜口 「法人化は失敗だ」といった紋切り型の議論が多すぎる。法人化で成功した部分もあるのに。たとえば、病院経営だ。

 名古屋大の法人化前の年間収入は175億円だったが、法人化10年を超えた時点で、2倍の350億円以上になった。全国平均は1.5倍だ。なぜか。法人化当時、多額の医療機器購入で500億円の借金を抱えていた大学病院が全額を返済したうえ、収益を倍にしたからだ。これは、かつての「国鉄民営化」とは全く違う姿だ。借金をそのまま背負ったままで我々は病院経営を強いられ、それを立て直した。

 うまくいったのは、自己裁量権が増えたからだ。国立大学の時には、規定で看護師を500人しか雇用できなかった。3交代制の勤務で、実質150人+アルファで1000床を見なければならない状況だった。さらに外来もある。そんな無茶な労働条件では辞める人も多いし、患者さんもサービスに満足しない。法人化して裁量が認められたことで、看護師を1000人にし、1ベッドに1人というレベルを実現できた。それまではただで働かせていた大学院生にも、外来に出たら給料を出すようにした。「無給福祉」という状態を解消し、労働対価を出してしっかりした仕事をしてもらう。当然、サービスの質は向上し、患者さんの満足度も上がる。結果として収入が増え、借金も返せたのだ。自己裁量権が確保されたから、できたことだ。法人化がもたらした大成功だ。

 問題は、それをなぜ横展開できないかということだ。横展開するためにはどういう法整備が必要なのかといった議論もない。単に法人化は失敗だったというところで、日本全体が思考停止している。こんな馬鹿なことはない。目を覚ませ、と言いたい。

 

――政治家も、官僚も、国立大学人も、目を覚ませ、ということか。なぜ横展開ができないと考えるか。

 

浜口 思考が足りないから。人間は考える葦なのだから、考えなきゃいけないのに。失敗した、といえば、自分の責任ではないから責任とらなくてもいいから。それでつい、言ってしまうのだろう。

 

 

■定員削減で質向上

――研究力が低下しているからイノベーションが起きない、と言われている。本当なのだろうか。

 

浜口 イノベーションには類型がある。それを十把一絡げに議論しているから解決しない。どこで問題が起きているのか、同定する必要がある。

 たとえば工学部では、博士課程に進む日本人学生はほとんどいない。いま工学系の大学院は留学生が大半を占めている。ポスドク問題は起きていない。ポスドクが問題になっているのは、バイオ。工学系とは真逆の状態だ。一方、工学系では人材を育てる機能が弱っている。若い人が来なくなっているから。稼げるところは稼ぐのは、当たり前のことだ。飯も食えない状態で、金がない、金がないと騒いでいるだけだったら、死んでいくだけだ。

 

――なるほど。ポスドク問題で困っている分野はどこなのか、見極めて手立てを考えるべきなのか。バイオは売れ筋かとみていたが。

 

浜口 就職先がそんなに多くない。狭い分野をずっと研究しているから、企業にとっては、使い勝手が悪いと見えるようだ。それに、大学院をたくさん作ったため、全体的に質の劣化が起きている。私の出たロックフェラー大学は古典的な大学だが、この100年間でノーベル賞が40人ぐらい出ている。研究室は75ぐらいあるが、年間に受け入れる大学院生は15人程度に過ぎない。

 

――ずいぶん少ない。それに比べると、日本の大学院生は多い。

 

浜口 取りすぎ、そして使い捨て。問題は使い捨てにしていることだ。そういう分野に優秀な人材が入ってくるわけがない。量を絞って、サポートしないと。

 

――誰が、どこで、どういうサポートをすることが必要なのか。

 

浜口 大学院生にお金が回るシステムをつくり、研究に専念できるようにする。そして、ドクターを取って就職したら、高い給料を保証できるようにすることだ。

 

――いずれにせよ、定員を絞らないことにはできない。

 

浜口 定員を減らせないのは、大学の運営費交付金と連動しているからだ。少なくともトップ集団の大学、指定国立大学については、大学院生や学部学生の頭数と運営費交付金の連動をやめなくてはいけない。そうすれば、優秀な人材に絞り込んでしっかりとサポートして育てられる環境ができる。奨学金を出すとして、500人は無理でも10人なら支給できる。小学校の算数の問題だよ、こんなもの。

 なぜ今、大学院にこんなに人がいるのか。大学院重点化によって、分野をやたらと広げて行ったからだ。大学設置審議会の問題もある。分野をいろいろ揃えないと、審査を通らない。特に医学部なんかは厳しく、自由に設計しきれない。指定国立大学の裁量権を拡大してほしい。

 

 

■契約関係で活力を取り戻す

――国立大学法人という特殊な形態、つまり国の業務をやってもらう、そのために必要な資金を渡す、という構造自体に問題があるのだろうか。

 

浜口 契約関係にしたらいい。今のような「国の指示通り」ではなく、契約に基づく対等の関係とし、法人の自己裁量権と自立的な判断が活かせるような条件を整えれば、活力のある大学が出てくる。

 

――先ほどの話と矛盾しないか。思考停止に陥っている大学に裁量権を与えて機能するのか。

 

浜口 当然、脱落する大学も出てくる。護送船団ではなく競争社会なのだから、ある程度、仕方がない。アメリカの州立大学は年間予算が1兆円規模。そんなところと競争するのだ。日本の大学は小さいところだと、10億円とか20億円規模。近代的な独立を尊重する契約関係にして、自律的な活力を活かせる工夫をしていかないと、後はない。

 

――なるほど、小手先の改革ではなく、構造改革か。

 

浜口 法人化に当たって、大学人のマインドセットができていなかった。仕方がない。人間は体験したこと以外は想像できない。記憶と体験の集積の中で判断するものだから、結局、自分の体験に支配される。

 

 

■イノベーションの類型

――先ほどイノベーションには類型がある、と発言していた。

 

浜口 大きく分けて3つある。地場産業の活性化や震災復興を起点とする「生活密着型」、研究所を拠点とした拠点型、そして天才型だ。天才型の特徴は、最初は誰も信じないことだ。2014年にノーベル物理学賞に選ばれた赤崎勇・天野浩両氏はそう。だから最初、20年近くお金がつかなかった。青色LEDは20世紀中は実現不可能と言われていた。2人はその材料となる窒化ガリウムの結晶を作った。誰も信じないから、科研費なんて取れるわけがなかった。

 なぜ、お金がなくてもできたか。当時は、運営費交付金があったからだ。1980年代、名古屋大学から1人の研究者に支給される研究費は年間800万円、それで支えられた。今はなくなってきた。

 

――それこそ学長が裁量で配分すべきではないか。「運営費交付金」は「ミシン目のない袋」とも言われているのだから、学長が重点配分すればいいのではないか。

 

浜口 確かにそうだが、いまは予算が減りすぎて余裕がない。ここで、簡単な計算を紹介する。赤崎・天野の研究は2005年頃のデータでGDP(国内総生産)を約3.4兆円上げる効果があった。800万円の研究を10年続けるとして8000万円かかる。3.4兆円を8000万円で割ると、4万2500。一方、2015年頃の国立大学の研究者は4万人程度だ。研究者一人に年間800万円出して10年研究やらしても、元が取れる計算だ。エネルギー消費が7%下がり、GDPが上がる。こんな素晴らしい投資があるだろうか。1人に数千万円投資するだけで、日本全体に大きなメリットがもたらされるのだ。

 

――そこで必ず、論文を書かない名ばかり研究者にも出すのか、と批判があがる。

 

浜口 それは違う。研究とは、セレンディピティ、不連続な大発見でできているからだ。天野さんはお金がなかった。他の研究室の中古の機械をもらい、自分たちで機械を作っていた。1200度だったかな、そこまで温度を上げない、と窒化ガリウムは気化できない。ところが機械が故障し、上がらない。すでに1500回ぐらい失敗していた。天野さんは当時、修士2年で、普通ならそこでやめて就職するはずだが、800度でできる方法を考えた。サファイアの上にアルミの層をコーティングし、温度が上がってから、そこに窒化ガリウムをかけたところ、完璧なものができたのだ。ノーベル化学賞の田中耕一さんは、間違った試料を入れたことが、成功のトリガーとなった。同じく化学賞の白川英樹先生は、留学生が指示を間違えて酢酸を1000倍量入れてしまった。マイクロモルとミリモルを間違えたのだ。失敗したと思ったサンプルから出てきたのが、伝導性プラスチックだった。江崎玲於奈先生も、不純物の濃度をあげる実験をスタッフにやらせたら、ありえないデータが出てきた。それがトンネル効果。

 

――なるほど、幸運はどこに転がっているか分からないということか。いずれにせよ、失敗をとがめない雰囲気が大学にあったようだ。

 

浜口 そう、赤崎、天野は1500回も失敗していても、お前もう大学院を辞めて就職しろとは一切言われなかった。この忍耐力。これが今の大学にはないように思う。短期間、5年とかで成果をあげなければ、資金がなくなるからだ。効率を重視して予算を削減するのは一見正論だが、運営費交付金10億円で目いっぱいという大学で何ができるのか。給料払ったら、終わりだ。機械を買うどころではない。理系の研究ができるわけがない。空想で科学は生まれないのだから。アメリカの大学が1兆円規模で動いている時代に、10億円程度でやっていること自体をおかしいと思わないところに、一番の問題がある。

 

――運営費交付金の額が100億円超の大学は86大学中34大学。残る52大学は2ケタ億円。10億円台は3大学ある。

 

浜口 運営費交付金の総額が問題なのではなくて、受け取る側の数が多すぎるということだ。一つ一つのサイズが小さくなる。もっと融合させ、サイズメリットを出せるような大学を作らないと。現状は、立ち枯れ状態になっている。知恵がない。大胆に行動しないと、もうだめだよ。

 

――86大学の存続だけを考えているから、こうなると。

 

浜口 そう。法人化の設計は本来、大学間の競争を促進するような構造になっている。ただ階層化、序列化しようとするのでは、競争の結果としての「連携」は生まれにくい。

 大学の合併がさかんに行われたのは、法人化前後だけだ。歴史がちゃんと物語っている。そういう歴史を見なければ。法人化に問題があるとしたら、この点もそうだ。法人化でそんな状況になったのか、法人化以降の政策でなったのかを議論する必要がある。競争を激化するような政策ばかりが法人化後には目立ち、後の方に問題があるとは思うが。

 

――「連携」をうたっているのに、競争を激化する政策を続けているということか。

 

浜口 そうだ。サイズメリットを活かせる設計、環境を作っていかないと。

 

――運営費交付金のうち、評価に基づきメリハリをつける部分を増やす方向のようだ*。

 

浜口 そんなもので解決できるほど、症状は軽くない。ガンの末期に風邪薬を飲ませるようなもの。もっと踏み込んだ政策が必要だ。

 

――イノベーションの類型に話を戻そう。日本は天才型で行くべきということか。

 

浜口 むしろ拠点型だ。ドイツがモデルになる。

 ドイツの研究者人口は日本の6割ぐらいだが、トップ10%の論文をみると、落ちていない。研究力の低下は、少子化を抱えた先進国に共通な問題ではなく、日本固有の問題なのだ。皆さん、データをみないで十把一絡げの話ばかり。もう少し考えた方がいい。

 

――分野別にみるとどうか。

 

浜口 臨床医学は保っている。研究者が増えているからだ。タダ働きしていた人に給料が出て、人数も増えたから。単純なことだ。

 

 

――病院経営が安定し、タダ働きだった医師にやっと給料を払えるようになった。そういうことか。

 

浜口 科学技術はきわめて正直だ。平均的な人間の成果は、投資した金額に比例している。一定の相関性がある。必要十分条件ではないが、必要条件であるのは確か。エビデンスベースの議論が必要となる。あいつが悪い、ここが悪いというエモーショナルな議論は一切やめて、クリティカルな議論をする。スマートなアイデアを出して改革を進めなければ。現状を変えないままで、ダメダメと言っていても進まない。

 フラウンホーファー研究機構※では、大学院生が給料をもらって応用研究をしている。中小企業が参加していて、共通課題に取り組む。日本は「縦割り社会」で「自前社会」だから、全てを自分でやって破綻する。ピンポイントで特定の課題を解決すればいいという時代ではない。幅広い知識と技術を融合させての商品開発が必要だ。

 我々JSTではCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラムに取り組んでいる。バックキャスト、10年後に何が必要になるかを考えて、そこから逆算し、企業の研究者と大学の関係者が一つの建物の中で毎日、顔を合わせて議論をする。これまで5年間の成果で、18拠点に企業は330社。ベンチャーも26社でスタートした。企業からの投資は244億円。あんまり知られていないが。いろいろ面白いのが出ている。

 

※フラウンホーファー研究機構

欧州最大の応用研究機関。ドイツ各地に72研究所を構え、スタッフは約26,600人。年間研究費総額は約25億ユーロ。研究費総額70%以上が民間企業からの委託契約。約30%はドイツ連邦政府および州政府による資金提供

 

――それが、フラウンホーファーになるのか。

 

浜口 日本型モデルを作りたい。フラウンホーファーはパーマネントな組織だが、COIは時限プロジェクトだ。

 

――具体的にはどのようなことをしているのか。

 

浜口 たとえば、マツダの感性イノベーションは、人間がどういう時にワクワクするかの調査データをもとに、ワクワク感が伴う車の運転技術を開発する。

 

――COIプログラムが企業と自治体、大学をつないでいるのか。

 

浜口 COIは文科省が選んで、JSTがマネジメントしている。ポイントはバックキャスト。どういうアイデアがあって、資金があって、そこから何を始めようか、ではなく、10年後に何が必要になるか、どんな課題があるのか、それを克服するにはどんな研究が必要で、それが出来る人はどこにいるのかを考え、チームをつくる。企業は必ず入るが、大学とは対等の関係だ。プログラムリーダーは企業、リサーチリーダーは大学。お金を出しっ放しではなく、途中経過をJSTでフォローする。1箇所につき年間3回ぐらい行き、アドバイスしてくる。

 

――夢のある話だ。

 

浜口 まだ日本にはできる。我々なりの道はある。いろんなエビデンスを見ながら、解決策を見つけなければいけない。

 

――国立大学に税金を投入する正当性はある、と。

 

浜口 安いもんでしょ、ノーベル賞を取った人たちのアウトプットを考えれば。しかも、青色ダイオードの場合、世界のエネルギー消費量を抑制し、世界全体では15億人に光を届けた。青色ダイオードがなければ、我々はまだパソコンをブラウン管で見ていただろうし、もちろん携帯もなかった。それが年間800万円の研究費でできたのだ。こんな素晴らしい投資はない。そういうシステムなのだ、国立大学とは。

 言いたかないけれど、安い給料で何の見返りも求めず、人類全体の幸福のため、日本のために夜中まで働いている。こんな効率的でいいシステムは生かさないと。どうしたら活かせるかという知恵を絞らないと。

 

――JSTの予算は減っている。

 

浜口 そら、減っている。仕方がない。社会保障費がこれだけ上がっているのだから。けれども、ある程度維持はできている、今のところは。

 


おわりに

 浜口氏が研究力の低下の元凶とみる大学院重点化は1991年、東京大学法学部で始まった。当時の有馬・東大学長が「国立大学の棺桶化が進んでいる」と予算拡大を訴えていた頃で、最も苦しんでいたのが法学部。予算配分は実験・非実験・臨床(医学)のいずれに該当するかで異なり、法学部は最も額の低い非実験系だったのだ。そこで文部省に実験講座化を求め、一連のやり取りの中で、教員を大学院所属に移すことで予算を約1.5倍に増やす奇策で決着した。「政策ではなく、予算を増やすための便法を文部省が編み出した」と事情を知る関係者たちはふりかえる。

 政策ではない便法が、研究力低下につながっているとしたら。国立大学と国との関係をますます複雑にしたとしたら...。 2019年度の文部科学省概算要求を見ていたら、「EBPM(客観的根拠に基づく政策立案)の推進」という項目が目にとまった。笑えない自虐ネタのようではないか。(奈) 


 

松本美奈

読者のみなさまへ

 連載「異見交論」は、今回で終了します。本サイトに掲載したインタビューの一部は、「異見交論」と題して3月末に出版の予定です。また、連載は3月創刊の雑誌「先端教育」(いずれも先端教育機構出版)に引き継ぎます。

 これまでご愛読くださって、ありがとうございました。

 

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(2019年2月19日 12:00)
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