安西祐一郎氏インタビュー(下)「社会と教育の接続を」

中央教育審議会会長 安西祐一郎氏

大学入試センター試験を廃止しての新テスト導入と、高校・大学教育の見直しを盛り込んだ中央教育審議会(中教審)の答申。目指すのは、いつでも学べる社会の実現で、それを後押しするための改革が必要なのだと安西祐一郎会長は語ります。とはいえ、難問は山積しています。実現に向けた課題を聞きました。

(聞き手 読売新聞 松本美奈)

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(前回のインタビュー〈上〉は>>こちら


◆働いて学ぶ、学んでまた働ける社会を

――答申に言う公平性とは、「学習の機会が長期的に公平に提供される」ことを意味するわけですね。高校・大学教育の連続性を意識した改革、いわゆる「高大接続」は、学び続ける人の育成と、それを支える生涯学習時代の実現を目指すという理解でいいですか。


安西 答申を審議する中で、常に私の念頭にあったのは、高校卒業後すぐに就職する若者たちの姿です。日本には、家庭的な事情で大学進学をあきらめる若者が大勢いる。私たちはその現実を忘れてはいけません。就職したら大学に行けない、ではない。大学の門は、そうした人々にも開かれています。働き、学び、また働く......一人ひとりの力をいつでも磨けるようにすることが、日本、そして世界を変える力になります。それを制度として保証するものが、多角的な評価による「大学入学希望者学力評価テスト」と、その一環としての「高校基礎学力テスト」(いずれも仮称)です。大学入学者選抜の多角的評価の中の評価項目に、高校を出て社会で働いた経験やそこで得た知識を加えてもらいたいのです。


――高校基礎学力テストは、高校での知識・技能や思考力・判断力・表現力などの基礎的な学習の到達状況の把握で、高2、3年時に複数回受けられるという設計ですね(イラスト)。


安西 英検や漢字検定のように、基礎的な問題から高難度の問題まで広範囲をカバーしてほしいと思っています。受験料は、家庭の経済的負担に配慮してできるだけ安く。無償がベストです。調査書への記入等を通して大学入学者選抜における多角的評価の中で間接的に用いることができると思います。




◆大学で学べる力を評価する新テスト

――大学入学希望者学力評価テストについて、答申では ①教科型のほか、合教科・科目型、総合型にする ②「思考力・判断力・表現力」を評価する ③複数回実施する――などを柱としています。センター試験の受験者数が約50万人ということを考えると、作問・採点、受験会場の確保など、難問が山積しています。


安西 前例のない改革ですから、日本の英知を結集しなくてはなりません。

 テストは、新しい大学教育を受けるために必要な力を備えているかどうかの把握が目的です。暗記した「知識・技能」の再生力を問うテストではありません。

 合教科・科目型、総合型とは、たとえば日本語で書かれた長い論説文を出題し、その要約を250ワードで英訳せよ、などのイメージです。日本語を読み解き、要旨をつかむ能力と、英語の知識・技能の水準がかなりわかると思います。その論説文が歴史や科学に関するものであったら、かなりの知識と思考力、表現力が求められることになります。受験者が何をどのように学んできたか、何を経験し、考えてきたかがおのずと試されることになります。こちらも基礎的な問題から、かなりの難問まで広範囲の難易度のテストを用意してほしいと思っています。


――どうやって採点するのでしょうか。


安西 CBT方式の検討が必要です。コンピューターテストです。受験者は、問題が出される画面に向かって回答するのです。こちらも、受験費用は安くしなければなりません。無償がベストです。受験者が増えることによって、データがたくさん集積され、テストの精度はあがるでしょう。その意味からも、全ての大学が入学者受け入れ方針(アドミッション・ポリシー=AP)にテストの成績を明記していただきたい。そうする大学に国は財政的な支援をすべきです。


――共通の評価テストを受け、それぞれの大学が個別試験を行うわけですね。


安西 個別の入試が、今までどおりの暗記力を問う内容だったり、入学者の数を確保するためのものであったりしたら、多様な人たちと力を合わせて主体的に生きていく力は育たないでしょう。大学入学希望者学力評価テストでは、高難度の問題まで含めて、知識・技能の水準、思考力・判断力・表現力の水準を測り、個別の大学入学者選抜では、多角的評価によってその大学で学ぶのにふさわしい学生を選ぶようにすべきです。個別選抜本来の役割を果たしてほしいのです。


――いまそれぞれの大学が掲げているAPの大半は、抽象的な文言です。「主体的に考える人」といわれても、それはどんな力で、どうそれを見抜くのか選抜基準もわからない。


安西 そこで、大学入学希望者学力評価テストの成績を含め、いろいろな評価項目を盛り込むべきなのです。評価テストの結果はA、B、C、D、E......など何段階かで出すことになることになるのではないでしょうか。たとえばA大学経済学部のAPで、「数学はFレベル」「英語はCレベル」であることが応募の必要条件などと明示するのです。

 高校までの学習については、高校基礎学力テストが使えます。調査書の中に、テストの結果を書き込めるようにしていただきたいです。


――二つのテストで、知識・技能、思考力・判断力・表現力を客観的に評価しているわけですから、個別の大学は具体的なAPに基づいて選抜できる仕組みになるわけですね。


安西 いずれのテストの成績も多角的評価の一部であって、論文や面接、グループディスカッションなどの評価方法で、それぞれの大学が多元的な評価方法で選抜してほしいのです。



◆社会と大学との接続

――そうした入試改革が、大学教育の新しい姿につながるわけですね。


安西 いまの大学入試と大学教育は、つながっていません。よくAO入試が大学教育を悪くしたなどと言われますが、私は違うと思います。明確なAPに基づく選抜を行い、それを生かせる教育を行っていないことこそが問題なのです。入れた学生に責任を持つことが、大学としての最低限の責任です。

 いま大学の教育は混乱しています。高校までの補習教育までも任されています。この改革によって、知識・技能や思考力・判断力・表現力の下支えができますから、カリキュラムを整理し、体系的に整えることができます。1人1人の学生が自分の目標を持って、何をどう学びたいかを主体的に考え、取り組む。多様な経験を積んだ社会人学生も入ってくる。そういう学生が集まり、切磋琢磨できるキャンパスが実現できると期待しています。これは大学にとってもメリットになるでしょう。


――答申は、今後の改革スケジュールまで書き込んでいます。ここまで踏み込むのは、珍しいですね。高校基礎学力テストは19年度、大学入学希望者学力評価テストは20年度の導入を目指しています。義務教育と高校、そして大学をつないだ。これから問題になるのは、社会との接続です。


安西 ある大手企業の人事担当者がこんな話をしてくれました。中国の名門校、清華大学と日本のトップレベル大学の学生とどちらを選ぶか、と聞かれたから、清華大生を採用すると答えたそうです。日本語の新聞記事をその場で読み、自分の考えを述べさせるという面接をすると、明らかに清華大の学生の方が上だと。企業の採用も、最近はいろいろな方法を取るようになってきました。大学教育が「主体性をもって多様な人々と協働する」力を養う方向に行くのであれば、企業側もそれを見越して、学生がどういう力を卒業までに身につけてきたのかを見極めてほしいと思っています。企業が評価していただかないと、大学側も教育の手を緩めかねません。

 さらに入社後も、社員が学び続けたくなるようなサポートや評価をしていただきたい。社員の学びは新しい価値の創造をうみだし、企業繁栄の礎を築き、それが新しい日本をつくることになるでしょう。



おわりに

 東京都内のある高校には就学援助世帯が多く、毎年進学をあきらめて就職する生徒が学年全体の3割を占める。成績はトップクラスで生徒会活動も熱心な生徒が、大半を占めるという。教師たちは「いつか大学に行ける日が来るよ」と送り出している。「生徒たちは笑顔で卒業していく。私たちの言葉が嘘にならないのかわからないことを思うと、切ない」と副校長は語っていた。

 読売新聞の「大学の実力」調査によると、25歳以上で入学する学生は全体の2%に過ぎず、経済協力開発機構(OECD)平均の20%を大きく下回っている。答申が、生涯学習時代の幕開けを告げる黒船となるか。



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(2015年1月15日 09:30)
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