異見交論12「オール東大で『挑戦者』育成」五神 真氏(東京大学学長)

五神 真 東京大学学長

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 「挑戦者を育てたい」――4月1日に東京大学学長に就任した五神 真(ごのかみ・まこと)氏は、そう抱負を語る。夢を抱き、最前線に立つ気概を持ち、行動する「挑戦者」の育成に東大は伝統があるが、いまかげりが見えていると危惧するのだ。その原因は何か、解決策はあるか、新学長に聞いた。(聞き手・専門委員 松本美奈)


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■若手教員の安定雇用を

――まず、就任にあたってのご感想をお願いします。

 

五神 いま、東京大学に対する社会の信頼感が揺らいでいると痛感しています。基礎的な運営資金だけで800億円以上の税金を毎年投入しているにもかかわらず、急速な人口減少やグローバル化などに対し、日本がたどるべき道筋を切り開く役割を果たしていないというものです。そうした中で学長を拝命するのですから、責任は重い。身の引き締まる思いです。

 大学は新しい「知」を創造し、人類の未来に貢献するという原点に立ち戻らなくてはいけません。その重責を担う東大として、現状に安住しない挑戦者を育て、社会に輩出していくことが求められています。

 

――挑戦者とは、どのような素養を持つ人でしょうか。

 

五神 夢を抱き、最前線に立つ気概や忍耐力、異なる意見を持つ人を説得する力、行動力を備えた人です。東大はその育成に伝統があります。1877年創設から四半世紀の間にはもう高峰譲吉先生や北里柴三郎先生、長岡半太郎先生らが世界から注目を集める研究成果を出していました。今その伝統にかげりが見えていると感じているのです。

 理由の最たるものは、非正規雇用の若手教員が増えていることです。若手は未来の活力の源泉です。不安定な雇用状況では、教育・研究に専念することが難しくなります。 2012年7月、東大の教員6349人の年齢構成と雇用形態を調べたところ、6割超の3830人が非正規雇用で、6年の間に1500人も増えていました。非正規教員のほとんどが40歳以下の若手だったのです。

 

グラフ

 

――なぜそんな状態になったのでしょうか。

 

五神 終身雇用、年功序列型賃金が守られる中での定年延長と、国から交付される基礎的な運営資金の削減のもと、若手の正規雇用が犠牲になったのです。

 その結果、以前は30代前半で独立した研究室を持てたのが、今は早くても40代後半。自分がリーダーとなって、世界のライバルと競い、未知の分野に切り込む経験が持てず、不安定な生活を送る......。そんな若手教員の姿が、学生を研究から遠ざけ、博士課程進学率の大幅な下落を招いている現実を打開しなくてはなりません。このまま手をこまぬいていたら、10年後に日本の学術は世界から見向きもされなくなるでしょう。

 

――どのような対策を考えていますか。

 

五神 年俸制など弾力的な雇用態勢を広げ、安定性と流動性を併せ持つ雇用システムに転換させます。その際には、今は全体の8%程度しかいない女性教員も積極的に雇用し、いびつな年齢、性別構成の是正を図りたいですね。

 大事なことは、「東大は若手を大事にする」というメッセージにすることです。当たり前のことながら、正規雇用であればレベルの高い人が来ます。同じ20年勤めるのでも、3年契約を繰り返した末の20年と、初めから20年働く覚悟でいたのとでは、成果に大きな差が出ます。卓越した力を持つ人を、安定した雇用で迎え入れるにはどうすべきか、新体制で考えています。運営費交付金以外の多様な財源を確保する努力が必要です。

 

――「挑戦者」の育成という点で、学生の教育についてはいかがでしょうか。

 

五神 今年度から「初年次教育」を始めます。自ら課題を見つけ、考え、仲間や教員と議論して文章にまとめ、また議論する。その繰り返しで、高校までの既定のレールに乗った「勉強」ではなく、自らレールを敷設する「学問」の醍醐味を体感させたいのです。

 1年生3000人全員を18人ずつ150クラスに分け、教員は1、2年生が通う駒場キャンパスだけでなく、3、4年を過ごす本郷キャンパスからも総動員します。つまり、オール東大で若き挑戦者を育てる、従来にない取り組みです。

 東大には毎年優秀な学生が集まります。けれども、難関入試突破をゴールと勘違いしている人も中にはいます。「君はどこを向いているの」と心配になりますよ。初年次教育は高校と大学では全く違う学び方が必要だ、と理解してもらう「ギアチェンジ」のためのシステムです。

 

――東大の姿が大きく変わりそうですね。

 

五神 東大の先端研究の成果がもっと社会に還元されるようにすることが必要で、産学連携のあり方も修正が必要でしょう。いま、企業と東大との共同研究は一件あたり100万円以下のものがほとんどです。企業が自らの存亡をかけるような研究課題を持ち込んでいない、つまり「本気の産学連携」ではないのです。景気低迷と資本のグローバル化が進む中で、日本の産業界は長期投資が難しくなっていて、自前での基礎研究や大型開発研究が出来なくなっている。そんな産業界にとって、東大はタッグを組むにふさわしい相手のはずです。産業界も認めてくれています。けれども、共同研究のための手続きなどが煩雑なことから、「大学と共同研究をしたいが、東大とはやりたくない」と言われることもあり、制度や運用方法の点検や見直しを進め、新しい道を切り開きたい。東大の研究を社会に還元したいのです。

 

――任期はこれから6年。大改革となれば、反発も予想されますね。

 

五神 そうですね。学内からの反発もあるでしょう。その際には、一つ一つ丁寧に説明し、議論を重ねていきます。

 その一方で、人心を一新し、自ら血を流す決意で臨まなければ、社会からの信頼は得られないことを私たち大学人は忘れてはいけません。私自身が「挑戦者」として新しい東大の伝統を築くために全力を尽くします。

 


おわりに

 今年4月、学校教育法などの改正法が施行された。リーダーシップを阻む象徴として「教授会」を挙げ、その権限の制限を盛り込んでいる。物事が決まらない、社会の変化に疎い......審議を通して浮上した政財界の声を取材しながら、改正法で最も変えたい大学は東京大学だろうと感じていた。東京大学など旧帝国大学にはいまも「総長」という古い通称が生きている。分科大学(後に学部)の「学長」を束ねるトップという意味だ。「総長」としての手腕に期待したい。(奈)


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(2015年4月15日 05:30)
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