「剽窃防ぎ、学びの質向上」成瀬尚志・京都光華女子大学短期大学部講師

 いま、学生の「剽窃(ひょうせつ)」問題に悩まない大学教員は少ないだろう。学生の学びの質を向上させるには、解決が不可欠だ。防止対策に取り組む京都光華女子大学短期大学部の成瀬尚志講師(41)ら研究チームが国の科学研究費補助金(科研費)の対象に採択された。どうしたら未然に防げるか。警察の防犯活動を思わせる、切実な研究の最前線の模様をさぐった。(聞き手・読売新聞専門委員 松本美奈)


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成瀬尚志(なるせ・たかし)氏 京都光華女子大学短期大学部講師。博士(学術)。専門は哲学。長崎外国語大学特任講師などを経て2015年より現職。41歳

■「窃盗」と同じ

――まず「剽窃」とは何か、そこからお願いします。「コピペ」とは違うのでしょうか。

 

成瀬 出典を書かずに他人の著作物を自分の文章に取り込む行為で、「窃盗」と同じです。パソコンの画面で「コピー」して「ペースト(貼り付ける)」する「コピペ」は作業の一過程で、ルールを守らないと剽窃になります。

 

――学びの質を向上させるには、剽窃防止は不可欠です。そのために、見つけ出すソフトも販売されていて、導入している大学もありますね。

 

成瀬 私たちが考えている防止策は、「ちょっとした工夫」でできること、しかも「お金や労力がかからない」ことが大事です。誰もが取り組める工夫でないと、最終的には一部の学生にしか届きません。論題の出し方や評価方法の工夫でそれを防げるのではないかと考えた私たち研究グループが、今年度の国の科学研究費補助金(科研費)に採択されたのは、多くの大学で剽窃が問題となっているからだと思います。現場にある取り組みを掘り起こすなど、3年間の調査研究で、大学全体で共有すべき知を探り出したいと考えています。

 

――このような研究を思い立ったのは、なぜですか。

 

成瀬 きっかけは3年前、リポートを書かせる3年生対象の授業でのことでした。学生に対し、環太平洋経済連携協定(TPP)に対する賛成や反対、中立の立場の新聞記事などを示し、「日本はどのような道をとるべきか」について書かせたところ、記事をつなぎ合わせただけの内容ばかりが出てきたのです。大学で求めるリポートでは、自分の頭を使って書くことが何よりも大切だったのですが、そうしたメッセージがその論題には込められていなかったのです。私自身の反省が、今回の研究の出発点でした。

 

――研究の概略をご説明ください。

 

成瀬 論題で剽窃を防げる、と考えています。論題次第で、リポートの質が上がります。リポートを書くために1分しか考えなかった学生が、1時間考えるようになると考えています。対象となるのは、人文社会科学系の授業の中で課されるリポート課題です。リポートは二つに大別できます。成果物としての論文と、授業を理解しているかどうかを確認する手段としてのリポートです。

 

――研究が始まったばかりではありますが、いまの時点でわかっていることは?

 

成瀬 成果物としての論文に対しては、「具体例提示型」論題に一定の効果が期待できるでしょう。例えば「善と正義について論ぜよ」と指示すると、インターネット上で用語解説を簡単に検索できるため、剽窃を引き起こします。

 けれども「正義が善に先行すべきと考えられる具体的事例を、テキストに載っている事例以外で挙げよ。なぜ優先されるべきなのかも述べよ」と具体例と根拠を併せて尋ねれば、これに対応する内容はネットではまず見当たらないでしょうから、学生はかなり頭を使うことになるでしょう。この論題ならば、概念自体の説明を求めなくても、教員は学生の理解度を把握できるというメリットもあります。

 ただ、この論題では短い文章に終わりがちなので、長文は期待できないという課題が残ります。

 

――理解度確認のリポートについては?

 

成瀬 「プロセス型」論題が有効でしょう。例えば「正義」について授業をした後に「正義とは何か。授業を受けたことで、あなたの理解がどのように変化したのかも説明しながら論ぜよ」を課すのです。自分自身の内的変化も問う内容だから剽窃は起きにくいでしょう。ある課題についてどのような資料を調べたかを、なぜその資料なのかも併せて書くことも有効です。

 

 

■フィードバックのない現状が問題

――そもそもなぜ学生は剽窃という行為をすると思いますか。

 

成瀬 論題が工夫されていない、オリジナリティ(独創性)を求めていないことは大きいですね。あなた自身が考えることに価値がある、というメッセージが論題を通して伝われば、学生は自分で書こうという意欲がわくのだと思います。

 教員が、学生の出した課題をきちんとフィードバックしていないことも問題になります。ツイッターなどに慣れ親しんでいるいまの学生にとって、双方向のやりとりは当たり前です。誰かが見ているという自覚が、緊張感を生み、自分の頭を使って書く原動力になります。ところが、せっかく提出してもフィードバックされないようなリポートはたとえ成績評価に反映されるとしても、意欲がわかないため、適当に済ませようという思いから剽窃を招いてしまうようです。

 

――なるほど。だれかが見ていてくれるという緊張感、張り合いが、意欲を生むわけですね。

 

成瀬 教員が添削して返すだけでなく、学生同士でチェックしあう機会を設けたり、リポートを冊子にして来年度の受講生のお手本にしたりするなど、誰かが見ていることが、頭を使って考えようという意欲につながります。

 文章を盗まれた著者だけが損害をこうむるのではなく、学生自身も考え、学ぶ機会を逸してしまう。学生自身の自覚が防止の原点であることは、言うまでもありません。

 


おわりに

 海外留学を体験した学生が例外なく驚くことのひとつに「フィードバック」がある。先日も、帰国したばかりの学生が「リポートが真っ赤に添削されていた。先生のコメントが私の文章よりも長かった」とうれしそうに話していた。コメントや添削の向こうに見える教員の期待や情熱が伝わるようで、「学習時間は日本にいた時よりはるかに長くなった」という。剽窃に走る学生の姿は、日本の大学教育のお寒い現状の裏返しかもしれない。それにしても、「1分しか考えなかった学生が、1時間考えるようになる」とは、なんと魅力的だろう。(奈)


 

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(2015年12月 3日 04:00)
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