通年採用でミスマッチ防止 青野史寛氏

 日本経済団体連合会(経団連)が、企業の学生選考開始時期を8月から6月に前倒しすることを決めた。昨年、従来の4月開始を8月にしたばかり。それによって生じた混乱を重く受けた異例の2年連続見直しだが、それだけで問題は解消しないという声も多い。長年続く「新卒一括採用」自体の見直しが不可欠だと主張するソフトバンク株式会社常務執行役員の青野史寛氏に、打開策を聞いた。(聞き手・読売新聞専門委員 松本美奈)


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青野史寛氏 ソフトバンク株式会社常務執行役員・人事総務統括。リクルート人事課長などを経て現職。あしなが育英会副会長。53歳。

■経団連の指針に疑問

――採用方法を大きく見直したそうですね。

 

青野 「新卒一括採用」が主流の就職戦線で昨年、弊社は「通年採用」に踏み切りました。新卒・既卒に関わらず、いつでも入社志望の門をたたけるようにしたのです。「ユニバーサル採用」と名付けました。将来を担う人たちが主体的に進路を考え、進む。企業は必要な時に必要な人を採る――それが人事の基本、採用のあるべき姿だ、という思いを込めたのです。入社時期は4月か10月で、今春、最初の約400人が入社します。

 

――社内で異論はなかったのでしょうか。

 

青野 「ソフトバンクらしい」という声はありましたが、異論はありませんでした。弊社は海外での採用活動も行っていたので、移行に支障もありませんでした。

 

――何かきっかけがあったのでしょうか。

 

青野 昨年、経団連が採用活動の指針を見直し、選考の解禁を従来の4月から8月としたことでした。弊社は経団連に加盟していますが、30年以上、人事と関わってきた者として、これはまずいことになると直感したのです。3月説明会で8月選考解禁となると、学生は就活期間短縮の焦りも手伝い、選択を誤っての「ミスマッチ」、離職につながるリスクが高まるでしょう。一方、企業側もまじめに指針を守る企業、特に中小企業が損をするとも危惧しました。学生はどんな企業なのか、仕事の内容なのかを見極める時間がないために、大企業に目を向けがちになりますので。

 

――ご想像通り、企業と学生双方が混乱し、今年から6月に前倒しとなりました。

 

青野 その場しのぎですよ。3月説明会というスタートは変わらないから、やはり短期決戦となり、ミスマッチ問題は解消しないでしょう。このままでは学生はもとより、社会全体の活力も損ないかねないと懸念します。

 

 

■学びが深まるインターンシップ

――どのようにすべきか、打開策はありますか。

 

青野 二つ提案があります。まず何よりも、「新卒一括採用」の見直しが必要です。そもそも一括採用は、企業の利便追求が前面に出た制度です。一斉に選考して採用し、研修を行えば、確かに効率的ではあります。ただそれは一部の大手企業にとってのメリットであり、中小企業への目配りには欠けると思います。

 

――通年採用が一般的になれば、「時期」は問題になりませんね。もう1つの提案は。

 

青野 本格的なインターンシップ(就業体験)の導入です。いま企業が行っているインターシップは、1~2日程度の形式的なものが目立ちます。営業とはどういう仕事か、技術開発にはどんな資質が求められるのか――社員と一緒に汗をかいて初めて「働く意味」がつかめる貴重な機会のはずなのに、会社見学会程度の内容でお茶を濁すケースが多い。

 欧米では、1か月大学で学んだら、同じぐらいの期間を企業で働くなど、学びと労働を行ったり来たりする中身の濃いインターンシップが行われています。理論を実践で意味づけし、社会の現実を知ることで学びを深めるのです。

 それを参考に、弊社では夏休みなどを利用し、1か月間のインターンシップを400人程度受け入れて、営業や技術、システム部門で社員と一緒に働いてもらっています。

 野球でも、理論の講義や素振り練習だけで選手は育ちません。実際に試合に出て、初めて、理論や素振りの意味がわかる。こうした取り組みを広げるため、大学には柔軟なカリキュラム設計をお願いしたいです。

 

――新卒一括採用は、人事の怠慢という批判をよく耳にします。そもそも人事とは何だとお考えですか。

 

青野 人と事業を結びつけ、互いの利益を最大化することです。社会の発展・持続性の基本でもあります。その最初の段階の採用をどうするか。グローバル化した世界で日本が生き残っていくためにも、大胆で柔軟な見直しが私たち企業の人事に求められていると思います。

 


おわりに

 「大学は社会の期待に応えていない」との批判が、企業サイドで続いている。だが、3年生ともなると気もそぞろとなり、秋口には就活でキャンパスから消えざるをえない学生の現実を目の当たりにするたび、首をひねってしまう。2年程度でどうすれば学びの質を保証できるのか。責任の一端は企業側にもないか。むろん大学の対応にも疑問はある。昨年の「大学の実力」調査でインターンシップの問題点を尋ねると、かなり多くの大学が「1、2日程度のおざなりな内容」を指弾するのに、さらに突っ込むと、どんな内容にするのかも企業と話し合わず、丸投げする実態が浮かんだからだ。欧米では、産学官連携による産業構造改革が進み、「第4次産業革命」とも呼ばれている。そうした中で活力ある日本社会を作るためには、企業と大学が互いの非をなじり合うより、まずは青野氏が主張するような実践が求められるだろう。新しい一歩に期待したい。(奈)


 

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(2016年2月23日 10:00)
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