最強のチームに変える~タテわり・タコツボからシェアド・リーダーシップへ 立教大経営学部長・石川淳氏

 もはや、ひとりのカリスマリーダー頼みでは生き残れない――。組織改革に悩む企業や自治体などがいま、「シェアド・リーダーシップ」論に熱い視線を注いでいる。職場やチームのメンバー全員がリーダーシップを発揮する状態を指すのだという。なぜカリスマ頼みではいけないのか、チーム全員がリーダーシップを発揮すると組織はどう変わるのか。それは、大改革を求められている大学にも活用できるか? シェアド・リーダーシップ論を提唱する立教大学経営学部長、石川淳教授に聞いた。(聞き手・読売新聞専門委員 松本美奈)


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■クリエイティブなアイデアが出やすい職場づくり

石川淳氏 慶應義塾大学経営管理研究科博士課程修了。帝国臓器製薬(現・あすか製薬)、山梨学院大学専任講師などを経て2014年から現職。著書に「シェアド・リーダーシップ」(中央経済社)。55歳。

――まず、シェアド・リーダーシップ(以下SL)の説明からお願いします。

 

石川  職場やチームのメンバー全員がリーダーシップを発揮している状態です。リーダーシップとは、職場やチームの目標を達成するために必要な他のメンバーに対する「影響力」です。リーダーシップは、マネジャーなど権限を持つ人が発揮するものと考えられがちですが、影響力ととらえれば、平社員でも発揮するものです。そして全員が発揮すれば、職場やチームを強くします。

 

――「強くする」というのはどういう状態ですか。

 

石川 まず職場やチームの業績が上がる、今までなかったようなクリエイティブなアイデアが出やすくなる、チームのメンバーがやりがいをもって仕事に取り組める。「強くなる」とはこういう状態です。仕事への満足感が高まります。

 

●シェアド・リーダーシップの効果

・職場の業績が上がる

・創造的なアイデアが出やすくなる

・メンバーが主体的に動くようになる

 

――1人のリーダーが牽引する、従来型のリーダーシップではなぜだめなのですか?

 

石川 取り巻く環境の複雑性や不確実性が高まり、どれほど優秀なリーダーでも、1人だけの意思決定ではうまく対処できなくなっています。高度経済成長時代のような、欧米に追いつき、追い越せといった明快な目標が見つけにくいことも大きい。

 カリスマの代表例といえば、たとえば、ダイエー創業者の中内功氏。神戸の一小売店から全国展開を果たし、一時代を築きました。あるいは、スカイマークの西久保慎一氏。私財を投じてスカイマークを立て直そうとしました。けれども、いずれも最後は......。ご存じの通りです。

 

■タコツボから新しいアイデアは生まれない

――時代の変化に、カリスマリーダーの成功体験が通用しなかった、という教訓を読み取れそうですね。

 

石川 そうです。変革の種は現場にあり、カリスマリーダーではその種を拾いきれないという現実を直視すべきです。そもそも、大きな組織で上に立つ人が、現場に落ちている種をいちいち拾えるわけがない。ならば、現場に任せればいいわけです。私がかかわった事例をご紹介しましょう。

 

 ある地方銀行支店。新任の支店長は、支店の業績不振に悩んでいた。行員は指示したことは忠実に行うが、自分で課題を見つけたり、新しい試みを提案したりはしない。

 そこで自由に話せる場をつくり、一人ひとりが役職にかかわりなく問題提起できるようにしたら、まず女性行員が積極的に発言を始めた。客の中心は主婦だと指摘し、「他店と同じティッシュより、手作り品を差し上げたらどうか」「入りやすい店作りのために模様替えをしたら」などの提案があがった。支店長はそのアイデアを採用し、手作りのプレゼントを用意し、店舗の壁紙を貼り替えて模様替えも図った。業績が上がり、行員がさらに活発に改善意見を出し、自ら行動するようになった。

 ある公立中学の教頭は、様々なリーダーシップの本を手本に、教員の意識高揚に努めていた。毎週集会で演説したり、ワークショップを開いたり。しかし、しらけたムードが漂うばかり。もともと前面に出るのが得意な方ではなく、「リーダーシップ」を演じていたことが教員たちに見抜かれていたのだ。そこで、集会での演説を教員たちに任せ、それぞれの問題意識を語ってもらった。そこから、職員室での意見交換が活発化した。

 

――ここから学ぶべき教訓は?

 

石川 現場にいるエキスパートの力を使うことの重要性です。エキスパート、専門家というと、研究者を思い浮かべがちですが、行員も一般教員も、大学なら職員もエキスパートで、その力を最大限に引き出せなかったことが、職場を強くできなかった原因の一つです。エキスパートが自分の専門分野、「タコツボ」に入って出てこないことはよくあることですが、タコツボでは新しいアイデアは生み出せないことを忘れてはいけません。

 

――タコツボの中にいる人を引っ張り出すのは至難の業ですね。

 

石川 実に難しい。引っ張り出す力だけでなく、自分からタコツボを出ようという力、両方が不可欠ですから。タコツボから出ないとまずいと思わせる仕掛けは、引っ張り出したい方で考える必要があると思います。実は、大学、学部が抱えている難問でもあります。

 

■「自分にとって損か得か」を超える

――SLで職場やチームのミッション、目標を達成するとなると、職場やチームがミッション、目標を持っていることが前提です。このこと自体が難しいのではないでしょうか。

 

石川 そうです。しかも、単に掲げるだけでなく、共有されていることが大切です。共有とは「知っている」ではない。「そのために貢献したい」とチーム全員が思うことです。明確であるだけでなく、魅力的であることも必要です。

 

――魅力的なミッションとは?

 

石川 企業なら、「金もうけ」ではなく、人々を、世界を豊かにする、といったような。たとえばGoogle。中国に進出したとき、検閲が入りました。もし金もうけしか視野にない企業なら、そこで迎合することを選択したでしょうが、Googleは拒み、撤退した。「世界の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」をミッションに掲げているからです。その結果、今でも巨大な中国市場を取り損ねているけれど、社員はそれを支持した。社会的視点がないとミッション自体が成り立たないし、組織がミッションの通りに行動していることが、現場の力を引き出します。

 

――ミッションが共有されていれば、目標は立てやすいですね。

 

石川 そうです。企業ならば長期計画を立て、ブレイクダウンしていく。例えば3年後にこうなるために、1年後にはここまで、1年後にこうなるためには半年後に......と。どんどんブレイクダウンすれば、きょう1日何をするかがおのずと決まってくるんですよ。

 

――なるほど、目標が近ければ行動しやすいですね。脱線しますが、その発想法を学生にどう伝えていますか。

 

石川 ゼミ生にはよく、「死ぬときを考えてみようよ」と話しています。何歳まで生きたいか。そのときにどんな人生を送りたいか。例えば、定年が65歳だとしたときに、50代、40代、30代とさかのぼって今が決まってくるわけです。どんな人生を送りたいか、そのためにどんな働き方をするかが決まってきます。

 とにかく、学生はとても視野が狭い。だから、就活の時も、コマーシャルで名前を知っている会社にしか行きません。自分の人生に1本の筋を通して考えるという作業が大事だと思っています。

 

――視野の広さ、社会的な視点は、SLにも必要ですね。

 

石川 そうです。現場の視点は当然大事ですが、現場の視点しかないのはだめ。自分の役割は職場の中で何を担っているのか、職場は組織全体から何を期待されているのか、組織は社会全体から何を期待されているか。「視点の変化」が大切です。SLでは、一人ひとりが正しい意思決定をすることが求められます。正しいというのは、自分の仕事にとっても正しいし、職場にとっても、組織にとっても、社会にとっても正しい。そういう決定をしなくてはいけないので、社会的な視点は必要です。

 

――SLには、チームのメンバー相互の信頼感も大切です。醸成するために大切なのは?

 

石川 1つは違いを認める勇気です。自分と違うことを否定せずに、受け入れ、なおかつ自分の主張もきちんと言い、その違いの中から新しいものをつくり出そうとする勇気です。

 もう1つは、「損得」を超え、「正しいかどうか」で行動を決められることでしょう。子どもの行動決定基準は、「好きか嫌いか」。すこし大きくなると、自分にとって「得か損か」になる。学生もそうですよ。けれども、本当の大人は、「自分にとって損だけれども、正しいからやる」と言えなきゃだめです。そういう人を育てることは、キリスト教の大学にある経営学部としてのミッションです。もうかればいいという会社を経営するとか、自分さえよければほかの人はどうなってもいいという経済人ではなく、自分にとっての損得を超えて判断ができる人を育成しなければならない。

 

■日本の大学全体を「強く」する

――SLが必要な組織、その筆頭は大学ではないかと感じています。

 

石川 2つの視点から同感です。長年、日米欧の研究者の比較をしてわかったことは、欧米の研究者は、自分の専門以外にも興味関心を広げ、専門以外の人ともネットワークを築き、クリエイティビティに結びつけるのが得意です。これに対して日本の研究者は、専門分野に閉じこもりがち。専門以外のことは何も知らない研究者が優れていると思い込んでいる傾向も否めません。

 もう1つは、日本の研究者は、大学の一員であることを理解していないかもしれません。リーダーシップは組織のミッション、目標に到達するための影響力であって、それも理解せずに自分勝手にやっているのはリーダーシップではない。リーダーシップをはき違えています。

 

――なるほど。変化が加速している中で、専門分野のタコツボから出てこない状態を尊ぶようでは、創造できないということですね。

 

石川 そう思います。さらに、タコツボにいる人は、多様性を重視していない。多様性というのは、自分と相手の違いを認め合ったうえで、その違いから新しいものが生み出される状態。タコツボの人は多様性の名を借りて、自分勝手に振る舞っているだけです。SLには、多様性を大事にすることが不可欠です。大学こそ多様性を大切にしなければならない場です。

 

――タテわり、タコツボ、相互不干渉。ある財務官僚が、日本の大学人の現状をそう批判しています。立教大学の経営学部は2006年に開設されました。SLは経営学部で共有されていますか。

 

石川 ミッションやビジョンを共有することが大事だと合意が出来ています。学部としてPDCAを回していくための取り組みも行っています。

 もう1つは、それぞれの教員が得意分野で力を発揮していることです。BLP(Business Leadership Program:自分なりのリーダーシップを育成するためのプログラム)、学部間の交換留学(学費相互免除で単位交換可能な半期もしくは1年間の留学プログラム)、大学院のMIB(Master of International Business:全ての科目が英語で展開され、世界中から学生が集まる修士プログラム)など、ユニークなプログラムを、いずれもその分野を得意とする教員がリーダーシップを発揮して進めています。SLが発揮されているのです。

 

――なるほど。では、大学全体ではどうですか?

 

石川 大学の置かれている環境の変化は相当激しいにもかかわらず、動きが遅い。残念ながら本当に優秀な人は日本の大学に行かない時代です。例えばMicrosoftの本社に勤めたい、イノベーティブに働きたいと思ったら、シンガポール経営大学院に行きますよ。近道ですから。

 

――大学だけは安泰、という妙な安心感が漂っているのは、取材していて実感します。けれども、危機感を抱いている教職員もいますね。

 

石川 だが、そういう人がSLを発揮できる環境が整わない。世間の人が思っているよりも、大学の教職員というのはぎりぎりの状態で働いています。海外の研究者が我々の生活ぶりを聞くと、一様に驚きます。「そんなに忙しくて研究できるの」と言われる。実際その通りで、研究どころではない日常であることは否定できません。「世界ランキングのトップ100に10大学を入れる」と国は言っていますが、週に平均7コマ以上授業を持ち、入試や各種の委員会業務を任され、欧米の研究者並みに研究しろといわれても現実的に難しい。例えば米国の研究者は、プロフェッサーとレクチャラーと、完全に役割分担が出来ている。プロフェッサーのメインは研究です。テニアトラック(終身雇用)に至るまでは、研究が認められなければクビになる厳しさもあります。

 

――研究を専門とするのか、教育専門か、役割分担し、そこでSLを発揮して、大学を強くするわけですね。

 

石川 そうです。教育が得意な人は教育に専念する。その際には、教育で頑張っている人をばかにしてはいけない。大学には「あいつは研究できなくて教育ばかり」という妙な風潮がある。我々は学費で雇われているのに!

 さらに、日本の大学全体を見渡した役割分担も必要です。立教大学はやはり教育です。いい教育をするための優れた研究も大事です。逆に東大は、学部教育をやらなくていい。全国の大学から優秀な学生を集めればいい。

 

――日本の大学全体でシェアド・リーダーシップ、いいですね。

 

石川 研究メインの大学がエラくて、教育はだめ、なんてつまらない序列を排除して、お互いにリスペクトすればいいのです。それぞれが得意を生かし、次世代を育てる。SLで新しい日本、いや世界をつくれるはずです。

 


おわりに

 大学の現状を「タテわり・タコツボ・相互不干渉」と喝破したのは、財務省主計官として大学を見てきた神田眞人・金融庁参事官だが(>>「今のままの大学では生き残れない」)、今度は、同じ大学人から問題意識が提起された。大学人はいつまで「相互不干渉」でいられるのだろうか。

 「蛸壺やはかなき夢を夏の月 芭蕉」 誰にも邪魔をされることのない蛸壺(たこつぼ)の中で見る夢は甘い。けれどもはかない。(奈)


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(2017年3月16日 12:08)
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