異見交論

大学のいまを語り、未来を考えます。
異見交論48 「名古屋+岐阜+・・・=新しい国立大学」松尾清一氏(名古屋大学長)(2018年6月15日)

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 名古屋大学と岐阜大学のアンブレラ(一法人複数大学)構想が注目されている。世界屈指の研究大学を目指す名古屋大学が岐阜大学の賛同を得て、「指定国立大学※」構想に盛り込んだのだ。「東海国立大学機構」(仮称)を設立し、将来はさらに参加大学を増やすという。各キャンパスをオンラインでつなぐ双方向授業を実現し、戦略的な産業界との連携を進めるなどして教育・研究力を高めることで、運営費交付金への依存度を下げ、多様な財源を確保して財政規模を現在の1.4倍とする計画だ。政財界から次々に大学改革を求められる今こそ「チャンス」と力を込める松尾清一・名古屋大学長に、勝算を問うた。(聞き手・読売新聞専門委員 松本美奈、撮影・原田拓未)


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※指定国立大学

世界最高水準の教育研究が見込まれる国立大学を、その申請に基づき文科相が指定。さまざまな規制緩和が認められる。名古屋のほか、京都、東北、東京、東京工業が指定を受けている。名古屋大学の構想には、(1)マルチキャンパス (2)財源の多様化 (3)プロボスト などが掲げられている。一法人複数大学は、いまの国立大学法人法では認められていない。

 

■アンブレラ式のマルチキャンパス

――アンブレラ(一法人複数大学)構想を打ち出した。「マルチキャンパス」と名付けているが、一体どんな大学なのか。

 

松尾 一定のミッションをもち、リソース(資源)を合理的に使うことで、機能を全体的に拡大、強化するイメージだ。一法人のもと、それぞれの大学が独立して運営する。日本の国立大学は、東大と京大以外は地域に根ざしている。名古屋大学はものづくりの集積した東海地域の中核であり、その特性を生かした。

 いま、大企業はトヨタを筆頭に国際化し、中小企業も後を追っている。産業構造を転換させ、国の生産革命を起こすためには、中小企業もどんどん変わる必要がある。世界で通用するモノを作ろうとすれば、当然、国際的な目を意識しなければならないからだ。そういう風に産業界が一体として動いている以上、大学も連携してやるべきだ。

 

――連携? これまでも大学はさんざん「連携」を口にしてきた。

 

松尾 統合的、戦略的にやってきたわけではない。それぞれの大学が戦略を立ててやってきたために、連携と一口に言っても、契約の内容が違ったり、担当窓口が一つではなかったりで、煩雑で大変だった。そういうことが産学連携も阻んできたのではないか。結果、共同研究も一件あたり300万円を切る予算というのが珍しくない。外国の大学であれば、最低1億円規模だったりするのに。今の「連携」には限界がある。

 

――いままでの「連携」とは違うということか。

 

松尾 まず戦略を一緒に立てる。そのうえで、それぞれの大学の歴史や国立大の三つの類型※を踏まえ、一定の規模で一定の戦略をもって地域、国、産業界と一体となってやっていく。いまがチャンスだ。第2次安倍政権から5年。国の目指すところが、「Sciety5.0※」が出たことにより、だいぶ明確になった。それに沿った戦略と役割分担が必要なのだ。

 

※国立大の三つの類型

国立大学を(1)地域貢献 (2)特定の分野に強い (3)世界的な教育研究――の三つの機能で分類。各大学の運営費交付金から拠出した約 100 億円を、評価結果を踏まえて再配分している。

 

※Sciety5.0

最先端のサイバー技術を駆使し、多様なニーズにきめ細かく対応できる「超スマート社会」の実現を狙う。https://www.gov-online.go.jp/cam/s5/

 

――なぜアンブレラなのか。行財政改革か、経営の合理化か、教育、研究の活性化か。県境を越える必然性をもう少し説明してほしい。

 

松尾 単なる吸収合併では、メリットが少ない。イメージは持ち株会社といったらいいだろうか、新たに傘をかぶせて共通の戦略を錬り、それに従って自律的にやっていく。

 

――とすると、「岐阜大学」という名前は残るのか。

 

松尾 残る。「東海国立大学機構・岐阜大学・名古屋大学」(仮称)という形で。あと、C大学、D大学と増えていく。複数の大学が一緒に取り組んでいかないと、機能強化は果たせない。ただ、統合して事務を省力化し、お金を浮かすとかいった話ではない。それでは縮小均衡で発展性がない。足して2で割ったら、薄まるだけだ。

 

 

■定員、学部・研究科はすぐには動かさない

――となると、学生定員、学部・研究科、教員数、そして文化の違いをどうするかが課題となる。

 

松尾 定員や学部・研究科を直ちに動かすのは難しい。機構の完成形は10年後だろう。同じ国立大学といっても、歴史も風土も文化も違うので、ただちに一緒にするのは極めて難しい。構成員全員が入れ替われば、できるが。

 

――名古屋大学は世界屈指の研究大学を目指すとうたっている。岐阜大学は第1類型、地域の大学だ。

 

松尾 岐阜大学も第1類型でトップを目指す。

 

――そうすると「東海国立大学機構」として世界屈指の研究大学を目指すわけではないのか。

 

松尾 両者がめちゃくちゃ発展すれば、将来はそうなるかもしれない。今は、両大学とも強くなることが目的だ。「1+1」が「2」でなくて「3」になるには、どうしたらいいかをまず考えている。

 

――両大学の学部をみると、名古屋にないのは、地域科学部と応用生物科学部(旧農学部)の中の獣医ぐらいだろうか。

 

松尾 ないということではない。たとえば、農学部。獣医は確かにないが、基礎研究には我々は強い。

 

――欠けているところを補うという発想ではないようだ。岐阜はもともと「岐阜高等農林」。現場に強いので、長所同士をかけ合わせるということか。

 

松尾 そう、そこを上手に生かす。そんなことを一個一個詰めていかないと。両方ともリソース(資源)が足りないから。事務はその典型だ。URA(University Research Administrator)※の育成も。研究者のサポート態勢ができていない。日本はとても弱い。名古屋大学ではキャリアパスをつくり、昇進制度も作った。いま10人ぐらいを無期雇用にした。両大学が一緒に取り組めば、費用を浮かすこともできる。その分は、新しいところに投入したい。事務的には、効率的に共同管理ができる。

 

※URA

リサーチ・アドミニストレーター。研究資金の調達・管理、知財の管理・活用等をマネジメントする研究マネジメント人材。研究者に研究活動以外の業務で過度の負担が生じないようサポートする。

 

 

 

■オンラインで結ぶ双方向性授業

――学生はどうなるか。

 

松尾 学生をどこに集めるのかという心配ならば、いまはオンラインがある。名古屋大学だけのコンテンツには限りがあるが、岐阜、さらに三つ目の大学も加われば、コンテンツが増える。教員にとっても、座学に使う時間を減らせる。一石二鳥だ。

 オンラインはインタラクティブ(双方向性)が難しいとされてきたが、幸い、国立大学は五神・東京大学長が異見交論で指摘していたようにSINET(学術情報ネットワーク)で繋がれている。それを使えばできる。

 

――確かに、今までとは違う学びの場になる。規模について確認したい。学生定員と運営費交付金は、両大学をそのまま足し合わせた規模になるのか。

 

松尾 質の高い教育を、一定の数の人には提供したい。だが、子どもが減るスピードは早い。一方で、日本は人手不足が深刻だ。いずれ、日本人だけでは足りなくなる。どうやって海外から優秀な学生を集めて、彼らに日本のために働いてもらうか。

 

――では、定員総数は減らないという理解でいいのか。

 

松尾 18歳人口の減少が進む中で、単純にそれに見合った定員減をするのであれば、わが国の高等教育の人材は先細りになって産業力が減退し、経済はデフレスパイラルに陥る。それを補うのが、外国人留学生だ。国立大学は、地方大学といえども、海外から優秀な人を引っ張れる教育・研究の質の高さを担保しておかないと、クオリティーが落ちる一方だ。日本が必要とする産業や活動にどんな人材がどのぐらい必要か。そういう人材を育てるには、どんな大学がどれだけ必要なのかという発想をしないといけない。だが、国が一方的に定員を決めるのであれば、大学間の競争力は生まれない。

 

――いま日本にどういう人がどれだけ足りないのか、という発想から定員を算出すべきだということか。

 

松尾 そうだ。そういう議論がなければならない。人を育てるのは10年かかる。指定国立の完成期を10年後といったのは、そういうことだ。ここで大幅に変われなければ、日本はアウトだ。5年後、10年後は、産業空洞化で衰退した米国のデトロイトみたいにならないかと、みんな心配している。去年、産業界は過去最高益を記録した。それなのに、みんな顔は明るくない。

 

――運営費交付金が減っているから、名古屋大学を守るためにアンブレラをするのではなく、地域をデトロイトにしないという視点からスタートしているのか。

 

松尾 そうそう。指定国立大学選考のプレゼンでの締めの言葉は「東海地域をラストベルト※にしない」だった。東海地域は起業が少ないこともあり、産業界の危機感は強い。この地域で産業構造をどう転換させるか。ラストベルトでは、生き返っている都市もある。ピッツバーグではカーネギーメロン大学、アリゾナではアリゾナ州立大学。大学と大学発ベンチャー、企業、自治体が結びついたからだ。

 

※ラストベルト

さびついた工業地帯。米国の中西部から大西洋岸中部に渡る地域

 

 

 

■薄い学内の危機感

――学内の危機感はどうか。

 

松尾 大学内の危機感は薄い。周囲に優良企業が多いので、今は学生の卒業後の就職に困らないからだ。名古屋大学は証券会社や金融会社が少なくて、ものづくり企業と公務員が多い。ただ、ここ2、3年は起業も増えている。ベンチャー不毛の地と呼ばれているこの地域も実は変わってきた。金融界に応援しようという機運がある。チャンスは今しかない。一回傾きかけると、お金を出してくれなくなる。

 

――構想を実現するには、大学のガバナンス(統治)の見直しも必要だろう。構想では、プロボスト、シェアドガバナンスを掲げていた。これはどのようなものか。

 

松尾 大学の執行部はマネジメントの経験がない。僕は病院長をした程度だ。これからは、執行部が考えていることと部局が考えることが一致していないと、シナジー(相乗効果)を発揮できない。これまでは、教授会でヒラの教授まで集まらないと決まらなかった。そんなことをする必要があるのかと、いつも疑問に思っていた。

 マネジメント経験のない人にまで「一票」を渡せばおかしなことになる。経験があってわかっている人が方針を打ち出していく。それ以外の人は教育・研究に集中する。どういう教育にしたら、学生に力がつくか、どうしたら世界屈指の研究ができるか、そこに議論を集中させてほしい。お金の配分とか、建物に雨漏りするからどうしようとか、機械が壊れたからどうしよう、とかいう話まで教授会でする必要はないだろう。誰とは言わないが、旧七帝大のある学長が「いまの教授会はおかしい。教育・研究のことを7、8割話すべきなのに、2、3割しか話していない。あとは事務的なことばかり」と言っていた。教育研究評議会※も同じだ。教育・研究について白熱した議論がない。意識合わせをするには、シェアドガバナンス――大学の構成員がそれぞれ大学に責任を持つことが重要だ。縦割りの部局会議だけではなく、横割りの対話の場もつくる。例えば、名古屋大学には、女性教員、外国人教員が少ない。そこで女性、外国人教員との意見交換の場も設けている。縦割りと横割りの対話の場を。そうして学内の広い意見を集約できるようにする。二つ目が執行部と部局執行部の対話を増やすことだ。2週間に1回、2時間、対話の場を持っている。それで学内を一回りするには、半年に1回になってしまうが。

 

※教育研究評議会

教育研究に関する重要事項を審議する。学長のほか学長が指名する役員らで構成。

 

――いろいろなところで、対話が生まれている。

 

松尾 大学が目指す方向をお互いが把握し、意識合わせをしていくのだ。

 

――構想に書かれた「プロボスト」はどのような役割を果たすのか。一般的には予算と人事権を掌握している強大な権力を持っている人と聞くが。

 

松尾 米国のプロボストについて、スタンフォード大の副学長に聞いた。ストロングプロボストと、そうでないプロボストがいるらしい。カリフォルニア大はストロングが学内を統括する、まさに学長。では、実際のプレジデント(学長)は何をするかというと、外回り。運営の資金集めとか。プロボストは学内のこと全てをする。人事と予算すべてだ。

 日本の大学では、やはりトップは1人、学長だ。構想する名古屋大版プロボストは学長が選び、学内のあらゆる所の人々と話して意見を聴取、調整する人で、その考えをもとに最終的に学長がものごとを判断する。任期は3年程度。学長と表裏一体で動き、学内の意見をよく聞き、執行部の意見をよく伝え、対立する意見を調整する。「官房長官」といったらわかりやすいだろうか。

 

――それは大変そうだ。なり手がいるのだろうか。次に財源の話を聞きたい。運営費交付金の依存度を下げ、多様な財源をどう確保するか。

 

松尾 今回のアンブレラは窮地をしのぐためではなく、発展させるためだ。THE(タイムズハイヤーエデュケーション)のランキングで名古屋大学は300~350位を100位、岐阜は800位程度から400位を目指す。そのためにはお金が必要だ。

 この10年で運営費交付金は減っているが、総予算は増えている。アクティビティが上がっている。それを伸ばしたい。国がお金を投じてくれればいいが、難しい。このところ急激に増えているのが産学協同研究だ。4年で倍。産学協同研究をするシステムが整ったし、URAも充実させて、産学協同研究や競争的資金を組織的に獲得できる体制を整えた。10年間で、いまの1.4倍を目指す。

 

 

■構成員のマインドセットがカギ

――国立大学の法人化をどう評価するか。

 

松尾 当時の病院長の立場では、法人化はよかった。看護師を1人増やすのも大変だったからだ。医療制度の変更で、2対1看護(患者2人に対し看護師1人)を実現しなければならなくなったのに、国立大病院では定員に制限があったため、医療の質を上げられず、大幅な収入減を余儀なくされた。病院経営には国費が一部入っているが、基本は診療収入でまかなっているからだ。それが法人化に伴い、定員も自由に設定していいとなった。そこで、年俸制で医師を200人増やし、看護師も600人から1200人に増やした。その結果、ようやく近隣の病院と競争できるようになり、収入も得られるようになった。

 

――法人化にはそういう側面もあったのか。では、国立大学のミッションとは何か。

 

松尾 研究、教育、国際化、そして優秀な人を引っ張ってくる。若者の減少傾向を補い、大学の研究成果を社会に還元することだ。

 

――それは、私立大学も公立大学も同じではないか。

 

松尾 日本のことだけ考えていたら、世界に相手にされない。そういう大きな戦略があってそれをしっかりと果たしていくのが、国立大学だ。そのために公費が投入されているのだから。だが、公費だけに頼れる時代ではない。ミッションを通じて社会に貢献する公共経営組織体だ。経営もしなくてはいけない。基本認識としては、国民のための、公共のための大学だ。

 今回の統合は大きなチャレンジで、その成否は文科省はじめ多くの人の関心事だろう。まずは積極的に進め、成功させることが重要だ。夢を語りながら新しい大学をつくりたい。米国でもない、ヨーロッパでもない、新しい大学。九州や東北でも、特色のある改革が出てくるといい。それぞれが自分の頭でつくって、多様にならなければダメだ。

 

――大学にはそういう人たちが集まっているはずだ。

 

松尾 大学は本来そういう所だ。だが守りに入ると、新しいものが出ない。構成員のマインドセットが最も難しい。うちも、岐阜大も。「攻め」でいきたいとは思っているが、ファーストペンギンでシャチに食われたら......。大丈夫だとは思うのだが(笑)。

 


おわりに

 国立大学は、時の政策で統合を繰り返してきた。その結果、学部が離れた場所に点在する「タコ足大学」が増え、「学部の自治」にも苦労するはめになる。歴史が大学の「足」を引っ張るケースが多い。それだけに今回の構想には目を見張った。岐阜大学のルーツの一つ「岐阜高等農林学校」が「強み」として浮上している点だ。伝統に改めて日が当たるという。単なる合併ではなく、それぞれの歴史を丁寧に洗い出して組み合わせる、従来にないタイプの統合で、どんな化学反応が起きるのか。胸がときめく。

 合わせて、松尾学長に感謝をしたい。財務に関するグラフは本邦初公開。広く現状への理解を得たいと、学内を調整してくれた。シャチも驚くパワーペンギンとなって、新たな国立大学像を追求してほしい。(奈)


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