第10回 日本語大賞 文部科学大臣賞受賞作品(全文)

 NPO法人・日本語検定委員会による第10回「日本語大賞」(読売新聞社など協賛)の入選作のうち、小学生、中学生、高校生、一般各部の文部科学大臣賞受賞作品の全文を紹介します。 ※敬称略

 

<文部科学大臣賞> 

■小学生の部

尊い

大嶋 英敬(おおしま・ひでたか)

湘南ゼミナール センター南教室(神奈川県)小学六年


 僕が初めてセミの羽化を見たのは小学一年生の夏のキャンプの夜のことだった。

 夜の探検をしていた時、父が「ここを見てごらん。」と言って指を差したのは、木によじ登ってじっとしていた、殻をかぶったセミの幼虫だった。


 

■中学生の部

"私"で生きていく

野口 夏葉(のぐち・なつは)

南多摩中等教育学校(東京都)中学一年


 このままでいいのか。

 入学してからある程度の時間が経って人間関係が確立しつつある今、そう考える瞬間がふとした時にやって来るようになった。このままでいいのか、自分を疑い出したのは七月になってからだ。私はその迷いをそのままにして、中学生になって初めての夏休みを迎えた。


 

■高校生の部

佐原 昌連(さはら・まさつら)

安田学園高等学校(東京都)一年


 「自分に降りかかるマイナスをプラスにすることができるかは、自分次第である。」

 この言葉を祖父からかけられたのは、私が中学一年生の頃だった。この言葉は、「捉え方、見方、努力次第でどんなマイナスな出来事も自分の成長の源とし、プラスに変換できる。」という意味があると、その時祖父から説明を受けた。


 

■一般の部

ごはんごしらえ

福島 洋子(ふくしま・ようこ)

(長崎県)


 その言葉を耳にしたのは、二十二年前の六月。梅雨入り間近で、どんよりとした灰色の雲がたれこめた夕刻でした。

 私は大阪のとある下町で、たこ焼き屋の前に並んでいました。といっても普通の民家の軒先で、その家のおばあさんが焼いているのです。近所の散策中に見つけたお店でしたが、やや小粒ながらカリッと香ばしく焼けた外側とふわふわの中身。見かけはいまひとつでも味はいけるし、何より安い。たしか五~六個入りで百円程度だったと思います。


 

(2019年2月19日 21:00)
TOP