横浜市民に愛されて70歳 野毛山動物園

横浜市民の憩いの場となっている野毛山動物園

 

 「動物園行こうよ!」と言われたら、皆さんはどこを思い浮かべるでしょうか?パンダで有名な上野動物園?それとも多摩動物公園――?横浜生まれ横浜育ちの私にとっては、断然「野毛山動物園」。なんと入園料は無料で、大人も子供も楽しめる人気スポットです。2021年に開園70周年を迎え、今も愛される動物園の魅力を探ろうと、久しぶりに足を運んでみました。(法政大学・本間理央)

 

命を感じる場所

 JR桜木町駅から緩やかな坂道を登っていくと、「のげやまどうぶつえん」と可愛い書体で書かれた門が見えてきます。バスも出ていますが、天気のいい日はぜひドキドキ、ワクワク感を感じながらの徒歩をお薦めします。

 一番人気はレッサーパンダ。わずか2メートルくらいのところを、ふさふさの毛と愛くるしいフォルムが動き回っています。野毛山動物園のコンセプトは「初めての動物園デビュー」。子供たちが初めて動物を見たり、触れたりできるよう工夫されています。モルモット、ハツカネズミ、鶏などに触れることが出来る「なかよし広場」(コロナ対策のため、小動物とのふれあいは現在休止中)も人気です。ちなみに幼稚園の頃、蛇が嫌いな友人はアオダイショウを首に巻く体験で大泣き。それでも最後は笑顔で写真を撮っていた友人の度胸を、少し見直したことを思い出しました。

 

 「無料なのに、ライオンや多くの動物がいるのが魅力。私1人でも子供2人の面倒を見られるコンパクトさもいいですね」「子供たちはレッサーパンダが大好き。想像以上の近さに驚きです」。アットホームな雰囲気に、子ども連れのお母さんたちからも笑みがこぼれます。

人気のレッサーパンダも間近で見ることができる

 

市民の憩いの場

 「動物たちとの触れ合いの中で命の大切さを感じ、成長してほしいですね」。野毛山動物園初の女性園長・田村理恵さん(47)が話してくれました。同園は、1951年4月に遊園地と動物園の複合施設「野毛山遊園地」として開園しました。戦後まもなく、遊び場も少なかった当時、横浜市民とって野毛山動物園は貴重な存在だったそうです。開園当初は有料でしたが、1972年の遊園地閉鎖に伴い、入園無料となりました。コロナ禍の現在も、横浜市民の憩いの場であり続けています。

 

 「小さい頃に訪れたのですが、もう一度行きます!」「今度は孫と行きます」。70周年を記念して2021年に行われたクラウドファンディング事業に伴って出資者(オリジナルエコバッグ購入者)から寄せられたメッセージの数々です。この事業では、売り上げ目標の100万円を大きく超える約570万円を集めることができました。

 地方自治体の財政が厳しい中、市営の動物園と言っても、「稼ぐ智恵」が求められます。「金額も嬉しいですが、温かいメッセージに励まされました」と田村園長は振り返ります。1974年の246万人をピークに、一時は年間35万人にまで落ち込んだ入場者数も、2015年には再び100万人を突破するなど、根強い人気を保っています。

 

 長野県の出身で、2020年4月から園長を務めている田村さん。「横浜市生まれではない私が、開園70周年のタイミングで園長なんて。人生は不思議ですね」と笑います。動物園の職員は倍率が100倍を超えることも多い人気職種。田村さんもいったんは大手の食品メーカーに就職しましたが、「動物と関わる仕事がしたい」と転職を決意。横浜市に1999年4月に開園した「よこはま動物園ズーラシア」(旭区)のオープニングスタッフとして採用されました。

 

 実はそのズーラシア開園に伴い、野毛山動物園は閉園が検討されました。しかし、横浜市民による署名活動の結果、存続が決定。金沢動物園(金沢区)、横浜動物園ズーラシア(旭区)と並ぶ「横浜三大動物園」として、歴史を刻み続けています。

 野毛山動物園の敷地面積は3.3ha。ズーラシアの45.3haと比べてもコンパクトですが、90種類以上の動物が暮らしています。来場者を楽しませるだけでなく、教育、調査研究、種の保存など様々な役割がある動物園。71年目に入り、田村さんは、「歴史的に良い部分は残し、新しい部分を取り入れ続けていきたい」と意気込みます。横浜市民の「憩いの場」の魅力を探ろうと訪れた野毛山動物園の姿勢に、私もなんだか背中を押されたような気がします。70年の歴史を刻み、さらにチャレンジを続ける野毛山動物園。これからも多くの人の思い出の場所になっていってもらいたいと思います。

「多くの人の思い出に残る場であり続けたい」と話す田村園長

 

(2022年3月 3日 10:12)
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