なくそう食品ロス~大学生ができること

板橋区で毎月2回行われている「前野子ども食堂わくわくランド」。手作りのお弁当に笑みがこぼれる

 

 

 最近、耳にすることが増えた「食品ロス」。買いすぎてしまって、まだ食べられるのに捨ててしまったり、外食で食べ残してしまったり......。皆さんにもそういった経験があるのではないでしょうか。一方で、「豊か」と言われる日本にも、満足に一日の食事をとれないような子どもたちもいます。近年、関心が高まっているSDGs(持続可能な開発目標)を切り口に、身近な食の問題を、どのように考えていくべきか、取材しました。(淑徳大学・奥津楓)

SDGs(Sustainable Development Goals)
 「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。

 

 

「食」で笑顔を広げたい

 「コロナで帰省もできないので、まさに"おふくろの味"です」。手作りのお弁当を手にした西川舞さん(36)から笑みがこぼれます。板橋区のデイサービス施設を利用して毎月第2、第4月曜日に開かれている「前野町子ども食堂わくわくランド」。大人には300円、子どもには無料で食事を提供しています。取材に訪れた6月14日のメニューは、小松菜などの副菜を添えたカレーです。チョコレートや菓子パンなどの「おまけ」も用意され、子どもたちが目をキラキラさせながら選んでいます。小3の長女と保育園に通う5歳の長男の子育て中という西川さん。「共働きで忙しいので本当に助かります」と話してくれました。

 

「食べ残し」を減らすように作り方も工夫している

 

 「子育て中は、お菓子も買ってあげられないほど苦しかった。そういうお母さん見ると、おせっかいしたくなっちゃう」。運営団体の代表を務める千葉よりこさん(65)が目を細めます。「久しぶり!」「大きくなったね~!元気にしてた?」列に並ぶ子どもたちに、ボランティアのスタッフたちも、気さくに声をかけます。様々な理由から、家で1人で食事をしなければならない「孤食」の問題を無くそうと、5年前に始まったこの食堂。仕事帰りのお母さんや、家族みんなでの「外食」など、利用者も様々です。この日も、用意された87食は、3時間ほどで売り切れてしまいました。

 

 食材は、消費期限が迫っていたり、市場で売り物にならなくなってしまったものなどを調達しています。農林水産省の統計では、家庭から出る食品ロスの原因の半分は「食べ残し」。「作りすぎないことと、食べきること」。千葉さんは、この2点を意識した食事作りにこだわっています。野菜の皮や芯もペーストすれば、カレーの材料に早変わり。「もったいないって思っちゃうんだよね。ケチだから」。照れ隠しのように笑う千葉さんの、真剣なまなざしが印象的でした。

 

子ども食堂 ひとりで食事をとる「孤食」や貧困で十分な食事ができない環境を解消するため、無料や安価で食事を提供する取り組み。費用は企業や地域からの寄付で賄い、ボランティアらが運営にあたる団体が多い。

 

「余っている人」と「困っている人」をつなぐ

 

 千葉さんたちの活動は、SDGsの目標「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」とも密接に関わりあう問題です。こういった食材は、どのように集められるのでしょうか。 

 NPO法人「日本もったいない食品センター」(大阪市)では、スーパーなどの事業者から買い取った食品を、福祉施設や各支援団体などに寄贈しています。特に力を入れているのは、私たち大学生も含めた若い世代への周知です。

 

 「私も以前は、賞味期限と消費期限の違いを明確に理解していませんでした」と、高津博司代表が話してくれました。消費期限は「安全に食べられる期限」のこと。期限を過ぎたものを食べると健康を損なう恐れがあります。賞味期限は「おいしく食べられる期限」であり、期限が過ぎても、すぐに食べられなくなるわけではありません。私たちはつい、「賞味期限」が迫った食品を敬遠したり、捨ててしまったりしがちです。取材した私自身も、食品ロスについて正しく知りませんでした。「食べられるけれど捨てられてしまう」食品ロスに対し、「消費期限」が切れ、食べることのできない「恵方巻」や「クリスマスケーキ」の大量廃棄は、また別の問題なのだとも気づかされました。

 高津さんたちは、賞味期限が切れていても美味しく食べられる食品を販売する「ecoeat」も展開しています。安全性や味を確認するために、買い取る前に必ず味見をし、「美味しい」と自信を持って言えるものだけを販売。それでも、始めたころはなかなか理解してもらえませんでした。それでも、「美味しかった」と言うお客さんの声も増え、食品ロスへの関心の高まりを感じています。

 

 

 「日本で貧困を感じることってあんまりないでしょ?」。

 ふいに高津さんが問いかけました。しかし、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016年)によると、日本の子どもの7人にひとりが貧困に苦しんでいます。高津さん自身も、活動を通じて食べ物に困っている子どもたちの話を聞き、食料の大切さを感じているそうです。

 最近では、コロナ禍による失業・休業によって苦しんでいる人からの問い合わせも寄せられています。緊急事態宣言による給食業者や旅行関係などの新たな食品ロスも増えました。「食品が余って困っている事業者」と、「食べるものがなくて困っている人たち」を繋ぐ高津さんたちの活動が、より重要になってきています。

 

食品ロス まだ食べられるものが廃棄される問題。政府は30年度までに、食品ロスの量を2000年度の半分(489万㌧)とする目標を掲げていて、飲食店で食べきれなかった食品を持ち帰るといった取り組みを呼びかけている。

 

 

「五輪見込んで...」新たなロスに

 「五輪を見込んで食材を仕入れて営業をかけていたのに...。本当に痛手でした」。イタリアからの食材輸入を手掛ける「モンテ物産」(東京都渋谷区)大阪支店の山本真也さんが打ち明けます。「廃棄するのにもお金がかかるし、捨ててしまうのはもったいない」。高津さんたちの活動を知り、買い取りを依頼しました。コロナ禍で問い直されることの多い私たちの暮らし。「新しい日常」は、SDGsの目標の一つ「つくる責任 つかう責任」を意識する良いきっかけとも言えそうです。

 農林水産省の2018年度推計値によると、日本国内で食べられるのに捨てられている食品の量は年間600万㌧。外食などの「事業系」ロスが324万㌧に対し、「家庭系」のロスは276万㌧です。日本人一人であたりが、毎日お茶碗1杯分のご飯(約130g)を捨てている計算になります。

 

 今回の取材で、改めて「食への感謝」が大事だと気づかされました。関係者に共通するのは「もったいない」という思い。「MOTTAINAI」と英語で表現されることも多い思いが、食品ロスを減らすきっかけになるのではなでしょうか。「好き嫌いをしない」「バイキングでは食べきれる量を意識する」などを、ひとりひとりが毎日少しずつ実行していけば、ロスを減らせるはずです。私自身も、きょうから自分にできることを始めてみようと思いました。

「こども食堂」の開催を知らせる看板。活動の周知も課題の一つだ

(2021年8月25日 16:15)
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