多文化 日本で花開く【埼玉・芝園団地】 ~ キャンスコ46号から

 世界でも、日本でも、「社会の分断」が指摘されて久しい。一方で、世界のボーダーレス化は進み、コロナ禍を経ても、その流れは止まることがないように見える。そんな今だからこそ考えてみたい。多文化は共生できますか? (早稲田大学・朴珠嬉、写真も)

 

多くの外国人が暮らす

  JR京浜東北線の蕨駅から徒歩約15分のところにある「芝園団地」。住民の半数以上が外国人といわれる団地内に入ると、中国語と日本語で書かれた掲示があちこちに見える。団地内の広場や商店では普通に中国語が飛び交い、香港料理や四川料理などの料理店や、子供たちが習い事をする「芸術学校」の中国語の看板も見られる。日本にいながら、日本ではないようなどこか不思議な感覚。日本のどこにでもあるような団地の風景が、かえって「異国」のイメージをかき立てるのかもしれない。

 「芝園は、多様性の象徴です」と説明してくれたのは、学生団体「芝園かけはしプロジェクト」の代表で、東京大学大学院で都市計画を学ぶ圓山王国さんだ。

 「秋に芝園団地というところに行くんだけど」。この団地に関わるようになったのは、大学の友人からの誘いがきっかけだった。大学3年生だった当時、コミュニティーづくりに関心があった圓山さん。「実際の現場で何かできたら」と思い、芝園団地を訪れた。

 芝園では知り合いになった自治会メンバーからの依頼で、外国人住民を自治会に勧誘する活動を手伝うことになった。「何で入らないといけないの?」。自治会の概念やそのメリットになじみがなく、会員になりたがらない外国人住民たち。「ゴミが分別されていない」「香辛料のにおいが気になる」。国が違えば、ルールも違う。そんな「文化」を背景にしたトラブルもあちこちで聞かれていたという。

 翌年、プロジェクトを立ち上げた圓山さんたちは3か国語で生活案内のパンフレットを作成。住民同士が気持ちよく生活するためのルールをわかりやすく明示して、トラブル防止に取り組んできた。活動を支えているのは、文化を超えた共生への「かけはし」になりたいという思いだ。

 当初から一貫して意識していることは「顔の見える関係」。コロナ禍前は太極拳イベントや書道体験などを企画し、住民同士が知り合い、顔を合わせて交流できる機会を設けてきた。



日本の多様性の象徴に

 

 一方で、新たな課題も生まれつつある。圓山さんによると、芝園団地には、高齢の日本人夫婦と若い中国人夫婦が比較的多いのだという。国も世代も異なる人々の暮らしに、言語の壁やコロナ禍が加わり、「分断」の危険を常にはらんでいるのだ。

 2022年8月6日に久しぶりに行われた対面イベント。子供たちの宿題サポートや、大きな地図を用いた国際交流などで住民たちの相互理解を目指した。青少年ボランティアの中高生も駆けつけ、異なる国や世代の人々が交流する機会になった。



 芝園団地自治会の事務局長である岡崎広樹さんは、「若い学生たちが、日本人・外国人住民の間で暮らしやすい関係を作れるのか試行錯誤している。世代も国も異なる住民の間で、自ら関係を作っていこうという動きはなかなか出ない。若い学生たちが活動してくれているのは非常にありがたい」と圓山さんたちの活動に期待を寄せる。「静かに暮らしたいだけの人もいれば、積極的に関わっていきたいという人がいたってよい。自分の住む場所で、近所との人間関係のありかたを選んでいける状態が理想」と岡崎さん。目指すのは「ゆるやかな共生」だ。

 様々な困難を乗り越えながら、多様性に満ちた人々をつなぐ「かけはし」に︱。圓山さんたちの挑戦が、続いていく。 

 

【芝園団地】 埼玉県川口市に位置し、JR京浜東北線蕨駅から徒歩15分。総戸数は2454戸。UR都市機構が管理する賃貸住宅で、1978年から入居が始まった。人口約5000人中の半数以上が外国人で、特に中国出身者が多数を占めている。

 

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(2022年11月24日 18:50)
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