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人工臓器体験型セミナーに高校生ら180人(2019年12月 9日)

 高校生らを対象とした体験型医療セミナー「人工臓器ってなんだろう~触ってみよう人工臓器~」が11月15日、第57回日本人工臓器学会の一環として大阪市内のホテルで開かれた。心臓の手術や治療で実際に使われる人工臓器や医療機器を手にしたり、外科医がマンツーマンで人工血管の縫合を教えたりするセミナーは、大会事務局を務めた大阪大学心臓血管外科が今回初めて企画。関西地域から読売新聞教育ネットワーク参加校の高校生ら約180人が集まった。

 

 セミナー前半は、iPS細胞を使った心臓病治療に取り組む澤芳樹・同大心臓血管外科教授による講演。「明日の医療を創る君たちへ」をテーマに、澤教授はイノベーションと創意工夫によって心臓病治療が発展してきた歴史を解説、「君たちが新しい医療を創るんだ、始めるんだと思っています」と次代の担い手たちへ期待を込めてエールを送った。

 

 講演後、180人は体験会場へ。今回、同科は大学病院から人工心肺装置を搬入したほか、6月に保険適用されたばかりの補助人工心臓や、最先端のカテーテル治療システムなどを手にできる9ブースを用意。手術着、マスク、手袋を付けた生徒たちは、電気メスを使って果物を切断したり、簡単な模擬手術を体験したり。目当てのブースを回りながら、約2時間にわたり外科医や臨床工学技士に質問をしていた。

 

 若手の外科医に教わりながら人工血管の縫合に挑戦した清風南海高校2年の松本有香子さんは「意外と難しかった」と話し、縫合した人工血管を手に満足げだった。電気メスを握った大阪府立茨木高校1年の本多壮章(まさき)さんは「思った以上にメスがすうーっと入った。焼けて少し煙が上がったのを見て、手術本番も、においがするのだと想像した」と話していた。

補助人工心臓の仕組みを生徒たちに説明する大阪大学の臨床工学技士(左)

明日の医療を創る君たちへ

澤芳樹(大阪大学心臓血管外科教授)

イノベーションで医療は進化する

 病気がある限り、医療は進化を続けます。多くの犠牲者を出していたコレラや天然痘は克服され、今、問題となっているのは臓器不全。従来の医療で治らない人をどう助けるのか。我々、心臓血管外科は新しい人工心臓を導入して心不全の患者さんを助けようとしています。

 

 心臓は1日10万回以上拍動して90年近く止まらない、筋肉の塊です。1分間に流し出す血液は数リットルから10リットル。こんな神秘的な、命の根元の臓器はないと思い、その魅力にとりつかれて40年近く医師をしています。非常によくできた生命維持装置ですが、心臓の病気をどう治すかは長年の懸案でした。

 

 黎明期は、体を氷づけにする低体温手術が行われましたが、ほとんどがうまくいきませんでした。この状況を画期的に変えたのが人工心肺装置。1953年、米国で初めて成功したのです。米国から遅れること3年、1956年に日本で初めて人工心肺装置を開発して成功したのが、大阪大病院でした。

 

 これは、大きなイノベーションでした。医療の歴史を振り返ると、何らかの大きな発見があって、ドンと一段階上がって次のステップに上がっていく。今、一番新しいのはiPS細胞です。

 

 大阪大学心臓血管外科は「患者を断らない、限界に挑む医療」を目指して年間1000件を超す手術をこなしています。手術件数が3倍、4倍になっても、治療成績が上がるのは、なぜか。進化の理由はイノベーション、人工臓器とデバイスの開発が大きかったのです。

 

 増加傾向にある心不全の究極の治療法は心臓移植です。日本における心臓移植が始まったのは1999年。2010年の法改正によって移植件数は増えたものの、待機患者は年間約1000人に上り、このうち手術を受けられるのは50人を超えたくらい。一方、人工心臓の技術進歩は目覚ましく、小型化が進み、現在は単1電池サイズにまで小さくなりました。

 

 ただし、ずっと使える"完全"人工心臓は夢の話です。米国では、月に人類を送り込むアポロ計画と同時期に、人工心臓の研究開発が始まりました。人類は宇宙に行けるようになりましたが、まだ完璧な人工心臓は手にできていないのです。

 

GRITで道を切り開こう

 人工心臓が主体の治療が行われているものの、5年を超えるような長期使用でトラブルに見舞われ、亡くなる患者さんもいます。人工心臓は電源などのケーブルを体の外に出すため、感染症の恐れもある。ケーブルを使わずに離れた場所に電気を供給できる、エネルギー電送装置の開発が待たれています。工学部を目指す人には、ぜひ取り組んでほしい。

 

 もう一つ、新たな治療法として期待されるのが再生医療です。脚の筋肉の細胞を使って心臓病を治療する細胞シートは、開発から15年になり、すでに商品化されている。これによって、これまでは助からなかった人が助かるようになった。

 

 これからの医療は、どうなるか。君たちが大人になる10年後には、ゲノム医療、AI(人工知能)、ロボット技術、iPS細胞などがより進化しているでしょう。大阪大学心臓血管外科では、2007年から京都大学と共同研究を始め、iPS細胞由来の心筋シートの作成に成功しました。今はシート状ですが、いずれ、臓器のように立体的に作成できるはずです。君たちには、こういった研究をやりたいと思ってほしい。

 

 さて、医療の原点は患者さんです。元気になった患者さんの笑顔を見ると、医療の大切さを実感する。君たちも、人生を懸ける価値のある仕事を見つけてください。

 

 「凡人は努力すべし」は私の好きな言葉です。

 

 もう一つ、好きなのがGRIT。君たちには「やり抜く力」GRITを身に着けて欲しい。Guts(度胸=困難に挑戦する)、Resilience(復元力=失敗にめげない)、Initiative(自発性=自らの意思でやる)、Tenacity(執念=何年でもやる)の頭文字を取った言葉です。このやり抜く情熱とねばり強さが、新しいものを生みます。

体験会場で生徒たちと交流する澤教授
会場には心臓の手術を可能にする人工心肺装置も大学病院から搬入された
ペースメーカーのデモンストレーション
先端にポンプがついたカテーテルで心臓の機能を回復させる、最新の治療法も展示
人工血管の縫合にチャレンジ!
電気メスで柿を切ってみた
2019年夏の早期医療体験プログラムに参加した生徒も来場した(左の3人)

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