読み解く力 野田村の実践(中)表見て 語句抜き出す

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「解く速度向上」生徒に自信

 岩手県野田村立野田中での、読解力向上を目指す教材「よむYOMUワークシート」への取り組みは週1回、国語の授業開始5分前から始まる。11月初旬の3年生の教室では、当番がワークシートを手際よく配ると、にぎやかだった教室はあっという間に静まりかえり、問題を解き始めた。

 

 この日の課題は、2021年の東京五輪が終了した後の施設活用に関する記事(7月23日朝刊)を基にしたワークシートだ。記事から取り出した文章がどこにあったのかを見つけたり、書き手の意図を考えたりする三つの問題がある。

 

 1問目は、国立競技場など、東京五輪で新設した設備の整備費や収支をまとめた表に関する設問。「国立競技場、マイナス9億円」「有明アリーナ、3.6億円」などの数字が並んだ項目がどんな費用を表すのか、文中から語句を抜き出す。

 

 正解は「年間収支」だが、記事の中の「黒字となるのは有明アリーナだけ」という部分を見落とすと「赤字額」を選びかねない。10分間かけて問題を解き、答え合わせに5分。通常の国語の授業に移る前、宅石忍教諭は講評した。「『黒字』と書いてあるところに線を引かずに間違えた人。こういうミスをしでかしている君たちはまだまだ甘いよ」

 

 ワークシートを2年間続けてきた子どもたちは、厳しくはあるが、ポイントを押さえたその指摘に「なるほど」といった表情だ。「合っているかは別にしても、問題を解くのに時間がかからなくなった」「質問されそうなところを読みながらチェックするようになった」。子どもたちの感想からは、記事を読むことへの自信が伝わってきた。

職員室で「よむYOMUワークシート」に目を通す宅石教諭

 読解力の向上は国語以外の教科にも影響を与え始めた。美術を担当する工藤聖士(きよし)教諭(36)は今年6月、花を描いた絵の作品鑑賞で子どもたちに文章を書かせた際、その表現の豊かさに感心したという。

 

 「チューリップの茎は緑色で色が薄く主張しすぎない。春のやさしさが伝わってくる」「タンポポは中心からの黄色のグラデーションで、心からじわじわと伝わるような温かい心がみえた気がする」

 

 工藤教諭は鑑賞文について、「構成や明暗といった『造形的視点』は指導したが、もともと備わっている国語力、文章力があっての表現だ」と評価する。入学時に「自己表出が苦手な学年」だった3年生の書く力の伸びを実感した今年度、「さらに表現を鍛えていこう」と新たな目標を掲げた。

 

文と図 関係踏まえ解釈

「よむYOMUワークシート」の狙い

 読売新聞に掲載された記事に設問がつき、文章とグラフ・図表を結びつけて情報を読み解くなどして、論理的思考力を育むことを目指す。

 教材が対応する「学習指導要領」は、小中高校で教える内容について国が定めた基準で、おおむね10年ごとに改定される。小学校では2020年度、中学校では21年度から新要領が全面実施されている。小学校・国語の「読むこと」では、新聞などの説明的な文章を読み、文章と図表を結びつけて必要な情報を見つける力などが求められている。中学校でも、複数の情報を整理しながら情報を得ることや、文章と図表との関係を踏まえて内容を解釈できるよう指導することがうたわれている。

 国はまた、情報通信技術(ICT)の活用も求めており、学習用端末を使ってワークシートに取り組む学校も増えている。


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(2022年12月16日 16:49)
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