読み解く力 野田村の実践(下)復興担う子に表現力

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教諭ら 人づくり目指す

 読解力をつけさせようという岩手県野田村立野田中の宅石忍教諭(49)の思いの根底には、東日本大震災からの復興を村の子どもたちに託したいとの願いがあった。

 

 2011年の震災当時、人口4800人あまりの野田村は、死者39人(関連死含む、9月末現在)、建物全半壊など515棟、さらに村中心部が壊滅するという被害を受けた。子どもたちは全国からの支援を受け、ガレキの山が新しい家や公園になるのを見て育ってきた。

 

 「各地の方から受けた恩を、いろいろな形で還元していく人になってほしい」。宅石教諭は14年の同校着任以来、そう考えてきたという。「広い視野、鋭い感性で行動するには日本語力、コミュニケーション力、表現力が必須だ」と考え、指導に力が入った。

 

 震災の翌年、県教育委員会の学校教育室から野田中に校長として赴任し、現在は県立図書館長を務める藤岡宏章さん(60)も、読解力の大切さを強調する教育者の一人だった。

 

 「復興では人づくりを一番の目玉にしたい」と考えた藤岡さんが県教委で基礎作りに携わった教育プラン「いわての復興教育」では、「10年後、20年後の復興・発展を担う子どもたちを育成すること」を使命とした。藤岡さんは当時、住民の一人から「何もなくなったけど、教育だけが希望の光だ」と言われたことをよく覚えているという。

 

 「人間は言語で考えて、アウトプットする。読む、聞く、話すができないと何もできない」と指摘する藤岡さん。読む力が起点になるとの考え方は現場の宅石教諭と同じだった。

東日本大震災以降の交流活動の資料が張り出された校内のホールで、思い出を語り合う野田中の生徒ら

 藤岡さんと同じ年に野田小校長に着任し、17年から村教育長となった小原正弘さん(65)は、「よむYOMUワークシート」の活用などで文章を読む力をつける指導が成果につながったことを実感したと話す。「子どもたちが書く文章を見ればわかる。以前は『こう思います』で終わっていたのが、そう考える理由や意見がつくようになり、変容を確信した」

 

 震災後に地域を元気づけようと野田中で始まった「創作太鼓」に関する11月の特別授業の感想文で、2年生のある女子生徒は学校の合言葉「野田村の太陽になろう」を引きながら、力強くつづっている。

 

 「(太鼓には)何ができるか、考え試行錯誤した先輩方の色々な思いがある」「自分たちも考え、できることを精いっぱいやり、野田村の太陽になりたい」

 

実施校9割超「効果ある」

「よむYOMUワークシート」の効果

 読売新聞が実施する「読解力向上プロジェクト」のひとつとして、2021年度に行った調査では、「よむYOMUワークシート」に取り組んだ小中学生のグループが、取り組んでいないグループと比べて学力テストの得点が高いという専門家の分析結果が出た。

 同年4月から教材に取り組んだ117校への教員アンケート調査では、「教材は読解力向上に効果がある」と回答した学校が9割を超えた。児童生徒へのアンケートでは、「文章を読む時、必要な語を意識している」かどうかとの設問に対し、「当てはまる」「どちらかと言えば当てはまる」の合計が取り組み前後で64%から85%に増えた。

 教材使用前後の変化には、「知らなかった話を知ることができた」(87%)、「図や表の意味が分かるようになった」(75%)などの回答が寄せられた。


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(2022年12月16日 16:50)
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