読み解く力 野田村の実践(上)記事基に 教材シート

読み、考える テストで成果

 岩手県北東部の野田村で小中学生の読解力を高める取り組みが効果を生んでいる。読売新聞が記事を基に作成した教材「よむYOMUワークシート」の活用が柱だ。取り組みの狙いと教育現場の努力を取材した。(伊藤彰浩)


 

 「読解力と表現力に課題がある」

 2014年に同県久慈市立三崎中から野田村立野田中に赴任した国語科の宅石忍教諭(49)は、子どもたちと接してこう感じた。

 

 野田中は各学年1学級で、生徒数89人。人口約4000人の村で唯一の中学校だ。宅石教諭は、「語彙(ごい)力が乏しい」「限られた情報にしか接しておらず、実社会のさまざまな事象を自分事としてとらえていない」ことが力の足りない原因だと考えた。

 

 「よりよく読めればよりよく書ける。文章を論理的に読む力を意図的に培うにはどうしたらいいか」「現代的なテーマに授業をどう合致させていくか」が課題になった。「大きなカギ」が新聞の活用だった。

 

 前任地の三崎中の時から、新聞を教材として利用していた。投稿欄で同じ世代の意見を読んで実際に投稿する、要約力をつけるために記事に見出しをつける、語彙力が身につくようコラムを毎日書き写す──。そのうえで、線を引いたりして深く読ませるために紙の教材にこだわった。最初は「面倒くさい」と言っていた子どもも、続けるうちに「読んだり、書いたりできるようになった気がする」と答えるようになった。効果はあった。

 

 しかし、教員数が少なく教員1人がこなさなければならない校務も多様な小規模校で、注ぎ込める力には限度がある。記事を選び出し、切り抜いて、いざ問題を作ろうと思っても、自分の力では限界を感じた。

国語の授業で「よむYOMUワークシート」にとりくむ野田中の生徒ら

 そんな中で20年の秋、野田村の小原正弘教育長(65)から「こんな教材がある」とわたされたのが、新聞記事を基にした「よむYOMUワークシート」だった。子どもが関心を持ちそうな記事を基に、読み取る力を問う設問が付いた教材。宅石教諭は「待ってました、というのが本心だった」と当時の思いを語る。野田中全学年での取り組みがすぐに始まった。

 

 21年春からは子どもたちがテーマについて話しあえるよう週1回、国語の授業前に取り組んだ。始めた時の1年生が3年生になり、成果が数字にはっきり出た。学力調査で「無回答率(まったく答えが書かれていない問題の割合)」が激減したのだ。ワークシート導入前の20年4月、県が新入生に行う予定だった「学習状況調査」の問題を利用し校内で行ったテストで、当時の1年生の無回答率は約16.6%(新型コロナウイルス感染症拡大で県調査は中止)。同じ子どもたちが3年生となり、今年4月に受けた全国学力・学習状況調査(学力テスト)では、それが1.6%に減った。

 

 無回答率の低下は、問題文をしっかり読み、粘り強く問題に取り組む力がついたことを意味する。また、学力テストでは国語の平均正答率が県平均を上回る好成績もあげた。

 

 宅石教諭は、読解力向上という大きな目標に向けて、「記事の構成を理解する」「キーワードを見つける」「内容にも関心を持つ」というようにステップを踏み、戦略的に取り組んだという。「きちんとやれば伸びると考えていた。子どもたちも、やってみたらできたということでうれしかったと思う」

 

 そんな中学生たちがワークシートにどう取り組んでいるのか、教室を訪ねた。

 

半年で15回 難易度別も

「よむYOMUワークシート」とは

 読売新聞本紙に掲載された600~800字の記事に、読解力の向上を目指してつくられた3問程度の設問が付き、10~15分の短時間で取り組める。小学生版と中学生版があり、教育委員会や学校を対象に、半年で15回配信している。「解答・解説」と「関連記事」、学習指導要領との対応表が付属。さらに難易度別の特別シートも5枚配信する。

 A4判カラーで、プリントアウトして使用するほか、学習用端末でも利用可能。価格は児童生徒1人あたり半年分で300円(消費税込み)。教材の一部が利用できる無料体験版を含めた利用者は約8万3000人(10月末現在)。

 岩手県内では野田村の全小中学校に加え、遠野市教委が2022年度後期から導入した。「読解力向上を通じて、地域の伝承に対する深い理解にもつなげる」(市教委)ことを目指す。


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(2022年12月16日 16:48)
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