読む力 書く力も伸ばす[よむYOMUワークシート]

小中学生らの読解力向上を目的に作成したオリジナル教材「よむYOMUワークシート」

 読売新聞が記事を基に作成する教材「よむYOMUワークシート」が、小中学生らの読解力向上に効果を上げている。全国の約660校、11万人以上が利用し、「読む力」を「書く力」につなげる実践も始まった。記事を要約したり論文作成に活用したり──。埼玉県蓮田市や奈良県天理市など16市区町村は自治体の予算で導入し、論理的思考力なども伸ばそうとしている。

 

朝の15分 正答率アップ

「意見」につなげる

 「この1年余りで読むスピードが上がり、要点もつかめるようになった」。東京都江戸川区立船堀第二小学校6年2組担任の内藤みほ教諭は、児童の成長に目を細める。2022年度から活用する教材「よむYOMUワークシート」の効果を実感しているという。

 600~800字の記事に三つ程度の設問が付く「よむYOMU」は、図表も含めて内容をしっかり理解し、筆者の狙いも押さえないと正解にたどり着けない。同小は、初めて目にする文章でも読み解ける力を身に付けようと、5、6年生が週1回、朝学習で取り組んでいる。

 6年では答え合わせも含め、15分。5年時は時間内に解答欄を埋められない児童が多かった。しかし続けるうちに、見出しから概要をつかみ、文章に線を引いたり段落に番号を振ったりすることで大事な部分を意識できるようになっていった。6年の佐藤咲愛(さくら)さんは「何枚も解くうちに内容を理解する力が付いた」と喜ぶ。今では、児童の3分の2が全問正解する場合もあるという。

 同小では「よむYOMU」を記述力の向上にも役立てている。問題を解いた後、児童は記事への意見を正方形の付箋に書き込む。

 「再び使えるか考え、生まれ変わらせることでゴミを減らし、環境にやさしい社会がつくれる」。コロナ禍で活躍したアクリル板のリサイクルがテーマの「よむYOMU」で、児童が書いた意見の一例だ。

 「まず内容を理解しなければ、自分の意見は考えられない。書くことが読解力アップにもつながる」と内藤教諭は話す。

廊下に貼った「よむYOMUワークシート」の拡大コピーに、記事への意見を記した付箋を付ける児童たち(江戸川区立船堀第二小で)

 

要約文を共有

 和歌山県有田(ありだ)市立箕島中学校は22年度から週2回、朝学習で取り組み、生徒の読解力と記述力を向上させている。22年4月と12月の県学習到達度調査・国語の結果を比較すると、「読むこと」が伸び、「書くこと」はさらに大きく伸びた。

 文部科学省が行う全国学力・学習状況調査がコンピューターで出題・解答する方式になる可能性も見据え、学習用端末を活用。1日目に問題を解き、翌日に答え合わせをした後、問題とセットの関連記事を要約し、キーボード入力する。2年の木村碧王(あお)さんは「言葉の意味を理解し、まとめられるようになってきた」と語る。

 要約文は端末で共有し、生徒同士で見ることができる。森元(はじむ)校長は「読まれることが前提のため、理解しやすいように考えて書く。ポイントを押さえた内容になってきた」と評価する。

 読解、思考、表現──。三つの力が相乗効果で高まっているという。

 培った読む力は聞く力にも通じる。生徒が日常生活で感じたことを述べる意見発表会では、発表者の発言をメモし、感想や意見を上手にまとめる生徒が増えた。「相手の訴えたいことを気持ちも含め、読み取る力を付けてほしい」。森校長はコミュニケーション力のさらなる向上を期待する。

端末で関連記事を見ながら語り合う生徒たち(有田市立箕島中で)

 

生徒の文章 論理的に変化

 東京都豊島区の中高一貫校、私立本郷中学校は、2年生の論文指導に「よむYOMU」を利用する。

 週1回、社会科の授業の冒頭で設問を解き、記事の内容や文章の構成について話し合う。意見がある場合は200字程度の文章にまとめて提出するのが決まりだ。指導する移川真男教諭は「新聞はグラフや事例などで根拠を示しながら、コンパクトな文章で論を展開していく。そのスタイルを身に付ければ、自分が書く時や話す時に役立ち、総合的な力も付く」と話す。

 「よむYOMU」に取り組んだ結果、生徒が書く文章は単なる意見や感想から、自分の考えを補強する事例を提示するように変化した。例えば、エスカレーターを歩く人が減らないことを取り上げた記事に対して、ある生徒は「スーパーのレジ待ちの目印のように、エスカレーターにも立ち位置を示す足形マークを付ければ、歩く人は減るのでは」と意見を書いた。移川教諭は「3年生で仕上げる卒業論文の執筆に向け、論理的な文章を書こうとするようになってきた」と手応えを語る。

記事の構成について意見を交わす生徒たち。こうした経験が、自らが論文を書く時に役立つという(私立本郷中で)

 

大学入試対策や定期試験にも

 埼玉県蓮田市立平野中学校は2年前から、定期テストの問題として「よむYOMU」を活用する。伊藤智行教諭は「授業で習ったことだけでなく、初めて読む文章にどう対応できるか。総合的な読解力を測るのに適した量と難易度だ」と評価する。

 テスト用の「よむYOMU」は、各学年の学習内容も考慮して選ぶ。「知らないことが書かれた文章を読み、視野が広がる楽しさを感じるきっかけになれば」と期待する。

 高校での利用例も増え、23年度は公立と私立計5校が導入する。群馬県立伊勢崎高校は全校生徒870人の学習用端末に「よむYOMU」を配信し、自主学習で取り組む。

 館野晴彦教諭は「複数のテキストを比較し、グラフの情報も読み解く新しい大学入試に対応する力を付けるのに有効な教材だ」と導入の狙いを説明する。

 


 全小中学校で「よむYOMU」を導入した2市の教育長に、その狙いを聞いた。

 多角的な視点 新聞から

奈良県天理市 伊勢和彦教育長

 ある程度の長さの文章を意欲的に読み解き、論理的に考える力を付けるには、継続性が大事だ。そう考え、市立小中学校の全校で取り組むことにした。

 SNSなどでは、自分好みの情報をつまみ食いしがちだ。一方、新聞は地球規模の課題から身近な出来事まで取り上げ、人々の考えや思いも紹介される。「よむYOMU」を通じて物事を多角的に判断する力が養われ、他者の気持ちを考えた行動を取れるようになるのではないか。

 子どもたちや家庭の考えも踏まえた取り組みにできればと考えている。どこが面白く、難しかったか。家庭でニュースを見るようになったか。そんな声を集約し、指導に生かしたい。

 実践的な学び 先生が評価

埼玉県蓮田市 西山通夫教育長

 「よむYOMU」の利用を一時中断しなければならなかった時期がある。その時に学校から寄せられたのは落胆の声だった。「教科書だけでは付けられない力が養える」と現場の先生が高く評価した。

新聞記事を基にしているので、子どもたちは最初、少し難しいと感じると思う。しかし、知らない言葉があっても推測して読み進める力、あきらめずに最後まで読もうとする姿勢は、読み応えのある文章に挑戦しなければ身に付かないだろう。

社会的事象に目を向け、様々な資料から内容を読み取る実践的な力を育むという教育目標を達成するのに、最適な教材だと信じている。

「よむYOMUワークシート」を導入している自治体

北海道紋別市、岩手県遠野市、野田村、埼玉県蓮田市、杉戸町、千葉県鴨川市、東京都墨田区、江東区、山梨県早川町、三重県松阪市、鈴鹿市、大阪府高石市、奈良県天理市、和歌山県美浜町、みなべ町、岡山県津山市

 

■ワークシートの一例(中学生版)

 

■設問部分

 

ニュースが題材 教科を横断

教材を監修する冨山哲也・十文字学園女子大教授

 ニュースを題材としているので、国語だけでなく社会科、理科で使うなど、学習に広がりが生まれるのが「よむYOMUワークシート」の特徴です。丁寧にじっくり読んで理解する問いと、書き手の意図を押さえて解釈する問いが設けられています。ファスト動画など、表層的な理解で物事をすませてしまうことが増えていますが、論理的な文章をしっかりと読み込む経験は、これからの時代に求められる読解力のベースとなるでしょう。

 6月に配信した中学生版を見てみましょう。[1]はグラフが何を意味し、その結果から何が言えるのかを、文章と関連づけて考えます。[2]は紹介された内容を理解した上で、それを取り上げた意図を押さえます。[3]は文章の展開をとらえますが、写真も参考になります。

 いずれも学習指導要領の「精査・解釈」を問うています。こうした設問に慣れていけば、テキストが長文化している全国学力・学習状況調査や大学入学共通テストなどに対応した読解力も身に付くでしょう。

とみやま・てつや 十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科教授。文科省初等中等教育局教育課程課教科調査官(国語)として、学習指導要領の改定や全国学力・学習状況調査などに関わった。

 

9月末から後期配信

 「よむYOMUワークシート」は教育委員会、学校を対象に有料で配信しています。記事に設問をつけたシートを「小学生版」と「中学生版」の2種類用意。1週間に1枚の配信で半年間に計15枚、さらに難易度別の特別シートが5枚つきます。教材の監修は、冨山教授と藤岡宏章・嘉悦大客員教授が担当。各シートに解答・解説や関連記事、学習指導要領対応表がつきます。

 後期の配信は9月末からスタートします。児童生徒1人あたり半年分で300円(消費税込み)。無料体験版(2か月間)もあります。

8月フォーラム

 読売新聞教育ネットワークは、「読解力向上フォーラム 読む力から書く力へ」を8月18日、読売新聞東京本社(東京都千代田区大手町1の7の1)で開催します。学校、教育委員会の教職員を対象に、子どもたちの読み解く力を伸ばす方策を考えます。オンラインによる参加も可能です。

 

 ワークシート、フォーラムとも>>こちらからお申し込みください。

(2023年7月21日 17:40)
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