【動画つき】医療体験プログラム2024、高校生8人の声「手術はチーム医療と知った」「信頼される医師になりたい」
医療体験プログラム2024に参加した8人の高校生
医学部を目指す高校生が、医師の心構えを高度医療の現場で学ぶ「医療体験プログラム」が7~8月、順天堂大学医学部附属順天堂医院=以下順天堂医院(東京都文京区)と大阪大学医学部附属病院=以下大阪大病院(大阪府吹田市)で行われました。コロナ禍のためオンライン開催が続いていたプログラムで、大学病院での実施は2019年夏以来です。読売新聞教育ネットワーク参加校など7校から選ばれた8人の高校生が参加しました。終了後に高校生たちから寄せられた感想と、プログラムの現場で撮影した動画をご覧ください。
■医療体験プログラム2024の動画
高校生の感想
順天堂医院の3人
熊坂瑠(くまさか・りゅう) 県立浦和高校(埼玉)3年
一番印象に残ったのは、1日目の冠動脈バイパス手術での心室細動だ。手術が順調に進み、このまま終わるのではないかと思ったときに起こった。何度も心電図モニターの音が変わり、私は「患者さんが亡くなってしまう」と思った。
しかし、執刀した天野篤先生(心臓血管外科特任教授)は一切、あわてていなかった。電気ショックを与えて患者の容体は安定した。天野先生は手術後に「これは想定内で(その後に起きる)結果を知っているから動じない」とおっしゃった。もしもあの場でリーダーがあわてたら、手術室内の全員があわててしまうのではないかと思う。
天野先生をはじめ、全ての先生から「経験が大切だ」とうかがった。「経験がないときはどうするべきなのか」という私の質問に対する答えも、全員同じだった。「入念な準備をすること」
特に中西啓介先生(心臓血管外科准教授)は「やり切って後悔がないようにするべきだ」とおっしゃった。医師という仕事は失敗したら取り返しがつかないが、失敗しない人間もいない。最善を尽くしたときは、まだ仕方がないと思える。次の患者さんにその失敗を活かせるだろう。最善を尽くさなかったとき、医師には最大の悲しみが訪れる。そんな意味だと、私は理解している。これからは、小さなことにも妥協せずに日々を過ごしたい。
谷林明依(たにばやし・めい) 市川高校(千葉)3年
手術室へ実際に入ってみて、チーム医療を間近で感じることができました。想像よりも多くの人が働いていて、驚きました。
手術室内だけではありません。ロボットを作る人、薬の研究をする人、治験に参加する患者さん、さらには病院内の掃除をする人......。医師や医療スタッフのほかにも、多くの人たちの努力が積み重なって「治療」が可能になるのだと気づきました。
プログラムを通じて、手術とは患者さんの人生にとって大きな出来事なのだと実感しました。医学部に入って、勉強して、患者さんが安心して治療を受けられる環境を自分の手で作れる医師になりたいと感じました。ロボット手術のような最先端の医療への興味も深まりました。
手術後の患者さんとお話をする機会もあって、患者さんが安心して治療を受けるには先生と病院に対する信頼がとても大切だと知りました。自分もそのように信頼される病院で働き、人に尽くすことができる医師になろうと思いました。間近で医療現場を見る貴重な経験をして、明確な夢ができ、同じ目標に向けて共にがんばれる仲間とも出会うことができました。
百瀬晴菜(ももせ・はな) 都立戸山高校(東京)3年
「医師だけではなく看護師や検査技師など患者に関わる全ての人がチームとなることで、はじめて患者を救うことができる」。そんな、中西先生が最終日におっしゃっていた言葉がとても印象に残っています。
医師を目指し始めた高1の時から、私は小児医療に興味を持ってきました。手術を成功させるだけでなく、患者の保護者にも丁寧に説明し、信頼されている中西先生。その姿を見て、私も信頼され、患者に関わる全ての人を尊重できるような医師を目指したいと思いました。
大学病院の素晴らしさにも気づきました。たくさんの診療科があり、医療に携わる人の数も多く、全員がお互いを尊重しあって働いていることが伝わってきました。
そして何より、天野先生や田端先生の手術を見学することができたのは、私の将来にとってとても大きな経験になりました。天野先生の手術を受けた患者さんとは、次の日にお話ししたうえ、歩いている姿を見ることができました。とても感動したのと同時に、先生方の手術のすごさを改めて実感しました。
左から、熊坂さん、谷林さん、百瀬さん
大阪大病院の5人
堤魅妃(つつみ・みき) 四天王寺高等学校(大阪)2年
小児外科の手術見学。何人もの医療従事者が、患者さんを慎重に運んできました。体の大きさの何倍もある機械に囲まれて横たわる患者さんは、血圧をはかるのさえ容易ではない状態でした。それでも、心電図の規則的な音が手術室に鳴り響いたとき、命がそこに力強く存在していることを、私は確信できました。
「患者の心臓が80年動くように」。そんな気構えで、平将生先生(未来医療センター副センター長)は手術にあたるそうです。医師は患者さんの未来の可能性を際限なく広げるのだと、私は感動しました。
外科ではチーム医療が重視されていました。医療は複雑で、関わる人の視点もさまざまですが、とりわけ医師には多くの医療従事者をまとめ上げる能力が必要です。人の立場に上下をつけることなく、手術チームの情熱を保ち続けるためにマネジメントするのが、医師の役目だと気づきました。
インフォームド・コンセント(医師の十分な説明と患者の同意)を実践して患者さんとの信頼関係を築きつつ、チーム医療をまとめあげる――。最先端の医療技術を身につけているばかりか、深い人間性も兼ね備える医師の偉大さに改めて気づきました。将来は、多くの期待を背負って患者さんの治療をしていることを常に自覚する医師になりたいと思います。
西島実咲(にしじま・みさき) 神戸女学院高等学部(兵庫)2年
一番印象に残ったのは、小児外科の手術見学です。たくさんの人が関わり、準備にも長い時間がかかる手術で、先生方も「医師一人では絶対にできない」と強調されていました。
ほかにも4件の手術を見ました。どの手術室でも医療従事者それぞれが、自身の役割を果たしていることを感じました。チーム医療である手術を成功させるためには、全員が同じ方向を向いて団結しなくてはいけないのでしょう。「医師に求められているのは、全体をマネジメントすることだ」という先生方のお話が印象に残っています。
生体肝移植の手術を受けた患者さんとご家族の言葉も印象的です。「医師の方が親身にしてくださったおかげで、安心して手術をすることができた」「移植後も生活に制限があって大変だったけれど、手術を受けて本当に良かった」などと話してくださいました。先生方が患者さんと、いい信頼関係を築いていることに感心しました。
3日間のプログラムを通じて、医師には、人と協力して仕事をする場面が多いことを知りました。コミュニケーション能力が、すごく大切なのだと思います。人間的に優れている必要があると感じました。
江原輝彦(えはら・てるひこ) 甲陽学院高等学校(兵庫)2年
小児外科での手術見学が印象に残っています。とても小さな患者の体に、落ち着いて手術を施していく外科医の先生方の神業のような技術に感動しました。心臓血管外科の手術では、患者の体内に液体を入れ、心臓をいったん止めた状態で治療が進みました。人の心臓が止まった瞬間のモニター映像は、衝撃でした。
実際の医療現場は「ドラマで見ていたイメージとはかなり違う」とも感じました。看護師や技師が手術室の下準備を終えてから、医師が厳かに入室してくるようなイメージを持っていたのですが、現実には医師は準備中から手術室内にいました。手術の手順を打ち合わせたり、世間話をしたりと、リラックスした雰囲気でした。私たちが見学した中には、初めて執刀するという新人医師の手術もあって、手術台の周りに続々と集まってくる先輩方から「おい、大丈夫か」などといじられていました。楽しそうで、とてもいい雰囲気だと思いつつ......「明日は我が身か」とも、ちょっとだけ感じました。
生体肝移植から回復した患者の家族からうかがった体験談も心に残っています。「弟が手術を受けたのは今年の1月で、自分にとっては高校受験の直前だった」。そう打ち明けたお兄さんは、しっかりと合格を勝ち取ったそうです。大変な試練の受験を乗り越えた、一つ年下にあたる彼を、私は尊敬しています。
もともと医学部志望でしたが、この3日間の体験で「医師になって患者さんの喜ぶ顔が見たい」と、さらに強く思うようになりました。
岡野陸大(おかの・りお) 甲陽学院高等学校(兵庫)2年
たくさんの経験をした中で、特に二つ、印象に残ったことがあります。
一つは、ブタの臓器を人に移植する技術を研究している宮川周士先生(日本異種移植研究会長)の講義を聴けたことです。「異種移植」にはまだまだ問題が山積みですが、もし確立されれば多くの移植希望者が救われるということでした。とても魅力的な分野だな――と心が躍り、自分もいつか携わりたいと思いました。
もう一つは、臓器移植手術を受けて回復した患者さんと家族の体験談の中にあった一言です。手術後に入退院を繰り返したころ、小さな男の子の患者さんは一度だけ、お母さんにこう言って泣いたそうです。「どうして僕ばかり入院が多いの?」。お母さんから、その話をうかがったとき、胸が締めつけられる思いがしました。患者さんができるだけ普段の生活を犠牲にしないよう、力を尽くすことが大切だと思いました。
外科医という仕事は手術の腕さえ良ければいいものなのだろうと、自分は思っていました。そんなことはありませんでした。実際は、周りの医療関係者の方との連携や、患者とその家族とのコミュニケーションも大切です。自分も、ただ勉強だけしておけばいいわけではないのだと認識しました。研究費不足が日本の医療の進歩を妨げているのではないかという問題意識も、先生方のお話を聴くうちに、高まりました。この3日間で、医学の道に進みたい気持ちが固まりました。
鳥羽美弥(とりば・みひろ) 開智中学高等学校(埼玉)5年 ※高校2年
小児外科の手術では、準備の段階から患者の周りで10人以上の人々が働いていた。それぞれが別の立場と役割を帯びつつ、協力し合っていた。チーム医療が発展してきているのを、改めて実感した。
この手術では、手術室の扉が開いていて、スタッフの出入りもあった。これには驚いた。「手術室は密室である」という、それまで私が持っていたイメージと異なったからだ。「手術は日常業務としてスムーズに行える環境でなくてはならない」と、上野豪久先生(移植医療部長)から教えていただいた。手術は、治療の「一部」であって「ゴール」ではないのだと感じた。
「医師はチーム医療の先頭ではなく、中心に立って指揮をとらなくてはならない。これからの医師に最も必要なものの一つは、コミュニケーション能力」とも、上野先生はおっしゃった。同じ意味の言葉を複数の先生方からうかがい、すごく納得した。医師に求められるものは、治療や手術の手腕だけにとどまらず、年々多くなっているのだろう。
生体肝移植を受けた患者とご家族から話を聞いた際、全員が「手術を受けて良かった」と、笑顔で語ってくださったことも印象に残っている。リスクが高く、不安も大きい手術だったはず。移植医療に強い病院は、患者さんを笑顔にできるのだとわかった。
身を削る勤務状況だろうと想像していた医師の世界にも「働き方改革」が進み、休日が決められているそうだ。このため、自分が手術した患者の容体を見続けられずに複雑な思いをすることがあるとも聞いて、驚かされた。こう語る先生もいた。「これから日本の人口は減っていくが、医師を目指す人は多い。将来的に、医師は確実に余っていく。その現状を踏まえたうえで医師になるという覚悟を持つ必要がある」
それでも私は医師になりたい――。身が引き締まる思いだ。
左から、西島さん、岡野さん、江原さん、鳥羽さん、堤さん、上野・移植医療部長