身近に残る戦争の記憶 DVDに ~ 大学生が取材しました

 

 

 茨城大学の佐々木啓准教授(日本近現代史)のゼミ生が制作したDVD「茨城の戦争遺跡 身近に残る戦争の記憶」には、どのような思いが込められているのでしょう。ゼミを代表して4年生の種市衣里さん、佐々木准教授に聞きました。(東洋大学・冨田大和)

 

戦争や平和を自分事に

 

ーー種市さん、DVDでは日本陸軍の基地だった茨城大学水戸キャンパスのほか、県内各地の軍事基地が紹介されています。これほど多くの戦跡があるとは知りませんでした。

 

「私も今回の活動を通して知りました。ゼミ生が各自で調べたい戦跡を担当しています。私は元々、日立周辺での女子挺身隊の活動に関心があり、県北の戦跡を取材しました」

 

ーー戦争や平和を学ぶ上で、地元の歴史を取材する意義は何でしょう。

 

「戦争や平和を自分事として考えることができると思います。教科書や本から得た知識だけでは、どこか他人事に思えてしまいます。戦争をより身近に感じることができます」

 

 

ーー風船爆弾の製造や日立鉱山での労働といった女性や子供などの戦争動員を取り上げています。

 

「事前の話し合いで、戦争の被害という側面だけではなく、加害についても取り上げようと決めました。取材を進めて行くうちに『丁寧に取り上げよう』ということになりました」

 

ーー「加害の側面」とは。

 

「もちろん空襲で犠牲になった市民は『被害者』です。一方で、米国には、日本で作られた風船爆弾による犠牲者もでています。つまり被害者であると同時に間接的に戦争に協力した『加害者』でもあるということです。教科書の学習だけでは見えづらい部分を、わかりやすく描くよう意識しました。」

 

――特攻について詳しく紹介した部分では、視聴者に「どう考えますか?」と問い掛けています。

 

「意図的に加えました。この動画を見る小中学生に、当時の空気感を実感してほしいという思いを込めました。どう考えるかを押し付けるのではなく、自分ならどうか、ということを考えてほしいと思いました」
「私たちと同じくらいの年の若者が特攻を志願しています。当時の教育やプロパガンダで社会が作り出した空気感を、DVDを見た人に感じ取ってほしいと思っています」

 

――5章構成の最終章のタイトルは「平和を願って」としています。

 

「4章までは戦争の加害と被害の話を中心にしました。最終章は、小中学生に自分事として考えてほしいという狙いから、このタイトルに決めました。DVDを視聴した後に、実際に戦跡などに足を運んでくれたら嬉しいです」

 

多角的な視点が必要

 

――続いて佐々木准教授にうかがいます。今回の活動を通して学生たちに変化はありましたか。

 

「映像制作を通して、当時の空気感や、『加害』の側面なども見えてきました。戦時下の様子がより明確に実感できるようになったと思います。今まで全く見えなかったものが見えてきたというのではなく、薄々感じていたものを強く実感できるようになったようです」

 

 

――「加害と被害」のように、歴史を学ぶ上で多角的な視点を持つことは大切だと思います。

「戦争を学ぶ時、日本人として考えることが当然になっています。これは戦争の一側面を見ているだけです。立場によって見え方は異なります。自分の見えている世界は『狭い窓』からのぞいているに過ぎないと自覚する必要があります」
「様々な立場の人が見ている景色を見せてもらう。こんな感覚で学習すれば、様々な世界が見える。戦争を客観的にとらえられることにつながります」

 

――歴史を学ぶ意義は。

 

「貧困やジェンダー不平等など、私たちが直面する様々な課題を踏まえて、歴史を研究することで、現在の課題を解決するヒントが見つけられます。当時の人たちの思いを知ることで、私たちの価値観を鍛え直すことができます。歴史を鏡にして『今』を見ることは、未来を創るために極めて重要です」

 

(「大学生が取材しました」は、毎月第1水曜日の読売新聞朝刊「SDGs@スクール」面に掲載しています)

 

(2023年12月 6日 04:30)
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