SDGsという言葉を知らない人はいないでしょう。ただ、日々の生活の中で意識することもある一方で、具体的な活動に踏み出せない同世代も多いと思います。大学の「職員」としてSDGsの達成を目指す大学生が自分の通う大学にいると聞き、取材しました。
(上智大学・島田遥=キャンパス・スコープ代表、写真も)
「サステナビリティ」意識に差
「学生の意見をもっとキャンパスに取り入れていきたいですね」
「学生対象のアンケートの設問数を増やした方がいいのではないでしょうか」
3月上旬の木曜日に上智大学の四谷キャンパス(東京都千代田区)の一室で開かれたサステナビリティ推進本部の会議。大学職員たちが活発に議論を交わします。「学生個人の興味にフォーカスしたアンケートを作成するべきだ」と意見を出したのは、庄司萌瑠さん(外国語学部4年=東京・玉川学園高等部)。原田健さん(文学部4年=都立国際高)らも、積極的に議論に加わります。
2人は学生ながられっきとした職員です。学生の視点や発想を生かし、現代に合った課題解決方法を提案できるグローバルリーダーを育てるため、2021年秋、上智大学に「学生職員」の制度が導入されました。第1期の募集では、約120名から10人が採用されました。「キャンパス環境改善」「企画実施」「情報発信」の3チームに分かれて活動しています。週6限以上の就業が条件で、時給1,180円の給与も出ます。シフト制で、授業の合間に四谷キャンパス内で業務にあたっています。
授業で学んだことを実践
「1年の時はずっとオンライン授業。虚無感を覚えていた」。企画実施チームの竹内綾さん(総合人間科学部4年=愛知・光が丘女子高)が振り返ります。東京に来ることも出来ず、愛知県でひたすらパソコンと向き合う日々。入学した意味を感じないまま毎日が過ぎていきました。
そんな中、届いたのが学生職員の募集案内。「授業で学んだことを実践できる場」と思い、応募しました。「SDGsは世界のトレンド。学生のうちから活動に関われば、社会に出るときの糧になると思った」と話すのは、「キャンパス改善チーム」の松見渓太さん(理工学研究科1年=長野・伊那北高)です。12人のうち唯一の理系メンバーで、学科を超えた学生同士のコミュニケーションから刺激を受けています。
「教職員にはないバックグラウンドを生かし、課題解決に取り組んでいる」。学生職員の指導役でもある学校法人上智学院ダイバーシティ推進室チームリーダーの東家由朗さんは手ごたえを感じています。活動開始1か月で取り組んだキャンパスマップの作成。上智大学のシンボルカラーである「えんじ色」は、色覚に特性を持つ方にとっては極めて認識のしづらい色といわれています。学生職員たちは、ユニバーサルデザインを手がける企業に相談したり、色覚障害者から見える世界を認識できるゴーグルを使ったりして、当事者目線で課題を見つけていきました。えんじ色の文字には、白で縁取るなどの工夫を加えました。
7か月をかけて完成したマップ。「バリアをなくすため、学生の視点からの声を心がけた」と松見さん。ほかにも、3台しかなかったウォーターサーバーを10台に増やしたり、食堂に「マイ容器」の持ち込み制度を導入したり、食堂に「小盛りボタン」を設置したりと、次々と新しい取り組みを打ち出しています。
キャンパスの課題を学生目線で解決
学生職員制度を導入した最大の目的は、サステナビリティの実現です。それぞれの部署や様々な団体が取り組んできた問題が、学生目線でつながりました。社会学科の竹内さん自身も、学生職員としての活動が、知識として学んだSDGsを深めるヒントになっているそうです。
一方で、サステナビリティについて、学生の意識には課題があります。2022年1月に「情報発信チーム」が実施した調査では、ウォーターサーバーの設置などの一部の活動しか認知されていませんでした。同チームで活動する原田さんは、色覚に障害がある人から見た風景がわかるアプリなども使って、ユニバーサルデザインを意識した発信を心がけています。
SDGsの「ゴール」となる2030年には社会の一線で仕事をしているであろう私たち大学生。学生職員の活動は、学びを社会に還元する活動と言えます。「職員としての経験と、理系の専門性を掛け合わせて、社会をリードしていきたい」と松見さん。私たち一人ひとりの個性が輝ける世界を目指すためにも、学生記者として、新しい学びの形を1人でも多くの同世代の人たちに知ってもらいたい、と思いました。