心も満腹 子ども食堂~IKEBUKURO TABLE

学習支援などにも取り組むIKEBUKURO TABLE

 

 

 最近、耳にすることが多くなった「子ども食堂」。コロナ禍でも多くの子どもや子育て世帯の支えになっている。大学生たちが主体となって活動している場所があると聞き、取材した。

(上智大学・島田遥=キャンパス・スコープ代表、写真も) 

SDGs(Sustainable Development Goals)
 「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。

 

「クローズド型」の活動

 「ありがとう」


 「また来月お待ちしています」


 11月下旬の金曜日、池袋駅から徒歩15分の住宅街にある一戸建てを訪ねた。東京都豊島区にある子ども食堂IKEBUKURO TABLEだ。夕方になると、次々と弁当を受け取る利用者が訪れる。この日用意されたのは7世帯15人分。栄養バランスに配慮したチキンカツとカボチャサラダ、煮物の彩り弁当などを、手際よくボランティアの学生たちが盛り付けていく。コロナ禍前までは会食形式で月2回開催していたが、現在は毎月最終週の金曜日に弁当を配布する形で活動している。

 


 IKEBUKURO TABLEは、シングル世帯や経済困窮世帯を対象とする子ども食堂。代表を務める國井紀彰さんと2名の地域ボランティア、そして7名ほどの大学生ボランティアで運営している。國井さんは、大学在学中に、生活困窮世帯などの子どもたちを対象とした学習支援の活動に関わっていたという。共に活動する学生ボランティアたちと議論する中で、子ども食堂に興味を持った。2014年に立教大学大学院に入学。大学院がある池袋で、認定NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の協力のもと、IKEBUKURO TABLEを立ち上げた。


 利用者のプライバシーに配慮し、登録をした希望者に無料でお弁当を提供する「クローズド型」の活動で、コロナ前までは、読書会や映画鑑賞会などを通じて、子どもと学生ボランティアが交流する機会も設けていたが、現在は月1回のお弁当の提供だけを続けているという。費用は都の助成金なども活用しているが十分ではなく、1人でも多くの人に活動を知ってもらうことで、寄付につなげたいと國井さんは考えている。

 

学習も支援「第三の家」に

 

 

 活動を支えるのは調理を担当する地域ボランティアと、盛り付けなどを手伝う大学生たちだ。「大学入学前の事前課題で児童虐待などの実態を知った。解決策などを考える中で、自分に何かできることはないかと思ってインターネットで検索し、ここの子ども食堂を見つけた」と話すのは、聖心女子大学1年の前嶋春那さんだ。この日がまだ2度目の参加という前嶋さん。「最初は何をしたらいいのか分からずに立ち尽くしていた」と振り返る。この日は、「何かお手伝いできることはありますか」と積極的に動く姿が印象的だった。「汁をこぼしてしまうなど料理はまだまだ。少しでも力になれるように頑張りたい」と表情を引き締めた。

 


 高校生のときに、医療センターに入院している子どもの兄弟を預かるボランティアを経験したという植村萌さん(日本女子大学人間社会学部社会福祉学科2年)は、「子どもが大好き。学習支援や子どもの見守りなどにも興味があったが、1番チャレンジしやすそうだと思った」と話す。「第3の家」という言葉と雰囲気に惹かれて、昨年の夏から活動を始めた。大学の講義でも子ども食堂が取り上げられることが多く、「子ども食堂は、地域の見守り拠点としても重要な存在。子どもたちを守る一助になりたい」と力を込める。大学で学んだ知識を活動に活かすことを目指しているという。植村さんがSNSに投稿したお弁当の写真をきっかけに、友人もボランティアに関わるようになるなど、活動は広がりを見せている。

 

 

 

 利用者はどう考えているのだろうか。中学3年生になる娘を持つという母親に聞いてみた。利用を始めて6年になるそうだ。「自分の家だと、仕事から帰ってきて、どうしてもチャチャっと作って食べさせてしまう。コロナ前は、お兄さんやお姉さんたちから料理を教わりながら一緒に作るので、子どもにとってもいい経験になっていた」と振り返る。時には15人ほどで鉄板を囲み、お好み焼きやたこ焼きを作って食べることもあったそうだ。食事の後は、大学生に教わりながら宿題をしたり、工作をしたり――。「娘が小学生のころは、宿題をもってここに来ていた。仕事をしている間も安心できた」と振り返る。食事を提供するだけでなく、子どもたちの「居場所」にもなっていたのだ。

 


 休日には、大学生から学んだ知識で、娘が家でご飯を炊いてくれたり、カレーを作ってくれたりということもあったそうだ。「お弁当をもらうだけになってしまったのは残念。親同士のコミュニケーションの機会も減ってしまった」と残念がるが、「親としては、お弁当だけでも非常に助かっている」と話してくれた。

 子ども食堂が日本に広がり始めて10年ほど。コロナ渦の今だからこそ、「人と人とのつながりが問い直されている」と國井さんは指摘する。

 

「ありがとう」に込めた思い


 「日本はもっと親の支援に焦点を当てるべきです」と、学生ボランティアの前嶋さんが訴える。北欧のフィンランドでは、臨床心理士などが一家庭に1人つく「ネウボラ」とよばれる支援制度が市町村自治体に義務付けられている。母と子の心身の健康を守るために、子育て家族全体をサポートする相談拠点となっていて、児童の虐待死が「ほぼゼロ」と言われている。日本でも渋谷区などで取り入れられているが、全国的な認知はまだまだだ。「大人も子どももいつでも相談できるような支援制度が必要ではないでしょうか」と前嶋さん。自分たちの活動が困難な状況にある子育て世代の支えとなることを願っている。國井さんも、「人は一人では生きていけないということを学生に知ってもらいたい」と、大学生の活動に期待を込める。

 


 「ボランティアの高齢者から、利用者の小学生まで、いろいろな世代の人と話すことで、気持ちがオープンになった」と植村さん。コロナ渦でコミュニケーションの機会が極端に減る中で、「ありがとう」というたったの5文字の会話の重みを実感するという。困難な環境にある子どもたちを支援する中で、自分たちも成長する大学生たち。このような「居場所」がもっと日本に広がっていってほしいと感じた。

 

(2022年12月11日 19:41)
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