2025年度から大学入学共通テストの試験科目に追加される「情報1」。プログラミングやデータ分析の基礎知識を学ぶ科目で、高校ではひと足早く2022年度から共通必修科目に追加されています。過去問もない中、「どんな問題が出るの?」と不安に思う高校生のために「情報1」に特化した共通テスト対策の単語帳「TECH TAN やさしくたのしく学べる情報1単語帳」を作成した現役大学生の原囿森音(はらぞの もりね)さん(上智大学経済学部4年)を取材しました。(上智大学・津田凜太郎、写真も)
「教わる側」から教える側に
7月14日、昭和学院短期大学(千葉県市川市)は、中高生たちで賑わっていました。行われていたのは全国の中高生向けにIT教育を提供する「ライフイズテック社」主催のサマーキャンプ。キャンパスを舞台に、3日間でゲーム作りやWebデザイン、映像編集などが学べるプログラムです。原囿さんたち大学生が先生役「メンター」となり、ホームページ作成について学ぶ中高生に寄り添いながら、配色やレイアウトについてきめ細かなアドバイスしていきます。
「もともとは、僕も教わる側だったんですよ」。2015年の夏、当時中学3年生だった原囿さんは、通っていた聖光学院(横浜市)で開催されたライフイズテックの1日体験プログラムに参加しました。映像を編集加工する体験に取り組んだ原囿さん。モノづくりにITが掛け合わさった映像編集の世界に魅せられました。
「自由で物理的制約もない。見える世界が変わった」。学校の授業では得られないITを活用した制作体験に感動した原囿さんは、高校進学後、毎週ライフイズテックの校舎に通ってiPhoneのアプリや自身のバンドのホームページ制作を行うようになりました。自分だけの作品を作る「成功体験」を繰り返すうちに、自然と情報の技術が身についていきました。大学進学後の2019年からは「教える」側となり、自身の感動体験を後輩に伝えようと活動しています。
楽しんで学べるテキストに
原囿さんに転機が訪れたのは2023年でした。丸井グループが主催する「Future Accelerator Gateway」というプログラムに参加した原囿さん。学生・大学院生から新事業のアイデアを募集し、優秀賞に輝けば丸井グループの社員と共に新規事業の創出を目指すことができるというプログラムでした。原囿さんたちは、今まで自分たちがメンターとして培ってきたノウハウを形にしようと、「情報1」に関する「中高生向け単語帳」の制作を新事業として提案しましたが、受賞はなりませんでした。
「なんとかアイデアを形にしたい」。制作に協力してくれる出版社を探し、懸命に電話交渉。IT技術書の老舗・翔泳社の担当者が興味を示してくれたことをで、書 籍化が実現することになりました。中学生の時からライフイズテックで学ぶ中で経験した試行錯誤。そして、メンターとして中高生を教えてきたからわかる、情報を学ぶ上での「つまづき」。原囿さんならではのアイデアが、担当者の心を動かしたのです。
日本の情報教育はまだ始まったばかり。テスト対策にとどまらず、生徒たちが楽しみながら学び、創造性を発揮できるテキストが必要になってくるのではないかと思います。鮮やかなデザインに、わかりやすい図やイラスト、かみ砕いた表現で書かれた文体など、TECHTANは、読み手である高校生のこと考えた工夫であふれています。「テスト科目だから学ぶのではなく、楽しんで情報を学べるように」――。原囿さんのアイデアが、一人でも多くの高校生たちに届いてほしいと思います。