中学生の車いすルートマップづくりをサポート

中学生たちは実際に車いすで街を周り、マップづくりに取り組む(野田さん提供)

 

 

 通学に、バイト先への移動に、毎日通る見慣れた町。でも、車いすで移動しようと思ったらどうでしょうか?小さな段差や階段、大通り――と、様々な「壁」が立ちはだかります。私たち大学生の間でも関心が高まっているSDGs。身近な街を見つめ直すのも大きなテーマです。車いすの利用者向けのルートマップを作ることで、中学生たちに自分たちの町を見つめ直してもらおう、という活動を行っている大学生がいると聞き、取材しました。

(早稲田大学・朴珠嬉、淑徳大学・坂本みゆり)

 

SDGs(Sustainable Development Goals)
 「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。

 

学生ベンチャーの挑戦

 「自分たちを育ててくれた地域にどうやって恩返しするか、ということを考えるきっかけになれば」と話すのは、大阪府立大学4年生の野田蛍太さんです。野田さんは、関西地方の大学生でつくるベンチャー企業「CSK(Creative Service Kingdom)株式会社」の社長を務めています。2019年に設立された同社では、地域と連携した車いすルートマップづくりのサポートや、日本人の死因の第2位となっている心疾患の早期発見を促すための、企業への携帯型心電計の導入へ向けた普及啓発活動に取り組んでいます。

 

 車いすルートマップ作りは、中学生たちが普段通学に使っている道を実際に車いすに乗って周ってもらい、最寄り駅への最適ルートを考えます。車いす利用者の立場になって、小さな段差などの意外な危険に気付くことで、生徒たちの意識の変化を促します。最初は「楽しそう」「楽そう」という軽い気持ちで始めた生徒たちも、自分たちが暮らす町を見つめ直す中で、「困っている人を助けたい」という感想を口にするようになるそうです。

 

 自分たちが集めたデータを基に作成したマップを、生徒たちは地域のお店や企業を周って配布します。「知らないお店に行くのが不安」「どのように説明したらいいかわからない」など、尻込みしていた生徒たちが、勇気を出して1軒、2軒と配布を成功させ、「自分達を地域のお店が受け入れてくれた」「SDGsをスラスラと説明できた」「初めてのボランティア活動が出来た」と、自信を持つようになるのも特徴です。「地域を見つめ直し、力を合わせることで大きな成果を生むことを学べた」。2020年に神戸市立渚中学校でルートマップ作りに取り組んだ原田大教諭は、活動の成果を振り返ります。

 

「地域への恩返しを考えてもらいたい」と話す野田さん(本人提供)

 

経済活動を通じて目標達成を学ぶ

 

 中学生たちはもちろん、サポートする大学生たちも大きく成長します。「地域や社会のために動けるような人材になりたい」という思いで取り組んでいるそうです。野田さんたちの活動は、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の目標である「住み続けられるまちづくりを」などにも大きく関わります。野田さんは「国連や政府の考えを実行し、地域に還元するのは民間にしかできない」と話します。

 

 「お金を稼ぐだけならアルバイトでもできる。学生の立場で、社会人と一緒に経済活動を通じてSDGsの達成に貢献していくことに意義がある」。野田さんたちの活動をサポートする「株式会社グローバルITネット」社長の三木谷毅さんが指摘します。三木谷さん自身も2013年に脳梗塞で倒れてから車いす生活を送っています。「レールに沿うだけではダメな時代になった。自分が活躍できるフィールドを自分で見つけてほしい」と野田さんたちの活動にエールを送ります。

 

 国際的な研究組織SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)の発表によると、2021年の日本のSDGs達成度は19位。2030年の達成に向け、私たち大学生は主役になるべき世代です。「早い段階で社会と関わっていくことが大事。恐れずに行動してほしい」と野田さん。「行動すること」が難しい時期が続いたコロナ下の大学生活。身近な地域を見つめ直し、行動につなげていく――。同世代の活動に、強く背中を押された気がしました。

 

 「自分で活躍できるフィールドを見つけて」と話す三木谷さん(淑徳大学・田中聖士撮影)

(2022年8月31日 18:00)
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