ロシアによるウクライナ侵攻から1年が過ぎました。激しい戦闘が今なお続いている一方で、伝えられるニュースは減り、私も含め、ウクライナのことを思う時間が少なくなっていることは否めません。悲惨な現実を伝え続けようと、大学生たちによって2月に開催された写真展を取材しました。
(慶應義塾大学・吉野彩夏=キャンパス・スコープ編集長)
写真が語る「ストーリー」
東京・代官山のギャラリーの壁いっぱいに、大小様々な写真が展示されていました。ひとつひとつの写真には、侵攻が始まってからから被写体になった人がその写真に収まるまでに、どのような日々を過ごしてきたのかを説明するテキストが記されていました。
硬い表情の父娘の姿が印象的な写真。2人は国境を脱出する際、車を50キロ押し、やむをえずスーツケースを捨て避難しました。途中で高齢の父親が口にした「今私が死んだら、どうするつもりだ。置いていったほうがいい」という言葉。出口の見えない状況に対する不安が胸に刺さりました。
別の写真には、戦争とは無関係そうな笑顔を浮かべる親子が写っています。しかし、7歳の息子は「どうして彼らは僕たちを殺そうとするの?僕たちは何か悪いことをしたのかな?」と繰り返し母親に尋ねていたそうです。避難先の穏やかに見える状況でも、戦禍が確実にそばにある。遠く日本に暮らす私も、意識せずにはいられませんでした。
写真の数だけの苦難のストーリーがあります。それがまだ続いているということを思い、胸が苦しくなりました。どのストーリーにも共通しているのは、「侵攻の直前までいつもと変わらない日常があった」ということ。今私たちが当たり前に、平和に過ごしている日常。ウクライナの人々もそれは同じだったのだ、ということに気付かされ、戦禍を「他人事」として考えてはいけないのだ、という思いを新たにしました。
クラウドファンディングで実現
「On Our Way Home」(帰宅の途中)と題した作品は、ウクライナ出身の写真家・Iryna Myronenkoさんによるものです。2022年2月15日から19日にかけて行われた写真展を企画したのは、キャンパス・スコープのメンバーも参加したポーランドでのウクライナ避難民支援活動に関わった大学生たち。日本の同世代にも悲惨な現実を知ってもらおうと、クラウドファンディングで資金を集め、開催にこぎ着けました。
会場では、学生たちのポーランドでの活動を収めたドキュメンタリーも鑑賞することができました。「自分は(ウクライナの人に対して)力になれるのだろうか」という1人の学生の言葉が耳に残りました。日本にいる私も感じていたもどかしさ。現地での支援に参加する行動力を持った学生でも、同様の悩みを抱えていたと知り、「自分にできることから始めていこう」という思いを新たにしました。
では、私たちに何ができるのでしょうか。関心を持ち続けること。戦禍の陰に、日常を奪われた人がいるということに思いを馳せることが、支援への第一歩だと感じました。実際にポーランドで活動した学生の1人に話を聞くと、「避難先での日常生活が始まっている。トランクケースやベビーカーなど、意外な物資が足りていないのが実情だった」と振り返ってくれました。別の学生は「ウクライナでも昔から差別されていたロマという民族には逃げる場所がない、という事実にショックを受けた」と話していました。
日本に帰国してからも、それぞれに活動を続ける学生たち。写真展の最大の願いは「見た人が友人や家族に伝えること」。そして、「写真展をきっかけにより大きな支援につながってほしい」ということです。写真展が開催されたのは5日間でしたが、私たちが受け取った思いを深め、それを友人や家族と共有するというアクションをとっていくことが、大きな一歩につながると信じています。