温泉街に「原子力災害考証館」ボランティア学生の思い

古滝屋に開館した考証館

 

 東日本震災から10年を迎えた今年。震災を風化させないための様々な取り組みが各地で行われました。福島県いわき市にある老舗旅館「古滝屋」では、「原子力災害考証館」が開館。福島第一原発の事故を語り継ぐための資料が展示されています。事故を風化させないために、私たち大学生には何ができるのか、開館に携わった人たちの思いを取材しました。(東洋大学・佐藤道隆)

 

老舗旅館の宴会場を改装

 いわき市の湯本温泉にある老舗旅館「古滝屋(ふるたきや)」。300年以上の歴史を持ち、県内外からの観光客に長年親しまれてきました。しかし、震災を境に街の風景は一変。地震の被害に原発事故も重なり、温泉街は大きな打撃を受けました。

 

 伝承館を発案したのは、古滝屋の16代目当主・里見喜生(よしお)さん(52)。被災者と関わる中で「福島の様子をそのまま残したい」と考えるようになりました。2018年2月から、里見さんの想いに共感した首都大学東京(現:東京都立大学)の学生たちの協力も得ながら、約20畳の宴会場の改装が進められてきました。「原子力災害考証館」は、10年前に福島第1原発1号機が水素爆発を起こした3月12日にオープン。津波と原発事故が重なり、捜索ができなかった女の子の遺品などを紹介しています。

 

 「エネルギーを消費する人たちみんなに知ってほしい。エネルギー政策や生産者と消費者の問題について、五感で学んでほしい」と里見さん。「首都圏の大学生にこそ考えてもらいたい。落ち着いたらぜひ福島を訪れ、匂いや方言、風の音などを体感してほしい」と話してくれました。

考証館に展示されている女の子の遺品
展示物を説明する里見さん

 

いま、大学生にできること

 「コロナで人と話す機会が減り、普段会えない距離の人と会ってみようと思った」と話すのは、法政大学社会学部メディア社会学科3年の太田凪沙(なぎさ)さんです。ゼミの先生の紹介をきっかけに、昨年秋から活動に参加しています。

 

 原発事故について詳しい知識がなかった太田さんでしたが、「わからないところを言ってごらん」と、現地のスタッフは温かく迎えてくれました。2度目の緊急事態宣言もあり、活動はオンラインが中心です。2月にオンラインで開催された「原子力災害考証館Furusato意見交換会」では司会進行も務めました。「ニュース番組だけでは聞けない、現地の人の声を聞くことができた」。原発について様々な意見があることを実感しました。

 

 もともと映画に興味があったという太田さん。現在は、震災後の福島の様子を伝える映画をまとめた資料づくりに取り組んでいます。「自主制作で公開場所も限られている場合が多いが、その分住民との距離が近く、当時の状況が伝わる」と太田さん。福島に関する100本を超える映画のタイトルやあらすじ、公開年をまとめる中で、「震災は終わっていない」と感じています。今は就職活動の傍ら、神奈川県の自宅で作業を続ける日々。「就活が終わったら、ぜひ現地に足を運びたい」と話してくれました。

考証館の展示資料作りにかかわる太田さん

 

 原発事故を巡っては、福島県双葉町に昨年9月、教訓を伝えるための『東日本大震災・原子力災害伝承館』が開館しました。入館者数は今年3月で4万人を超え、多くの人が訪れる一方で、「被災者の声が十分に拾われていない」との指摘もあります。私も今回、「10年の節目に福島を訪れてみたい」と思い、いろいろと調べているうちに、考証館の話を知りました。今回、実際に福島県を訪れて話を聞いたからこそ、知ることができた話がたくさんあります。原発事故を風化させないために、私たち自身が「関心を持って原発事故を知ろうとする姿勢」が大切だと感じました。

 



(2021年3月30日 14:05)
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