環境への思い巡るテイクアウト ~ 鎌倉発リユース容器

 コロナ禍の日常で一気に普及した飲食店のテイクアウトやデリバリーサービス。でも、料理を運ぶための大量の「使い捨て容器」の行方は気になるところではないでしょうか。大量のプラスチックごみを出すことは、地球環境によくないのでは?という疑問が湧いてきます。「リユース容器」を展開している会社があると聞き、取材しました。

(慶応義塾大学・渋谷真由)

渋谷で実証実験

 

 訪れたのは、東京・渋谷の「渋谷キャスト」にほど近い弁当店。東京に降雪予報も出る寒波の中でも、ひっきりなしにお客さんが訪れます。まずは、注文時に注⽂時に容器を借りる為のQR コードを読み取り、LINE で会員登録。あとは個数を記⼊するだけの簡単な⼿順で注⽂は終了。順番待ちの間に済んでしまいました。

 

 頼んだ唐揚げ弁当の容器を手に取ると、運びやすく、軽くて丈夫なうえに、ご飯と唐揚げなどの具材も仕切りで分けられています。テイクアウト時でも漏れなどは⼀切無いような⼯夫を感じました。さっそく食べた熱々の唐揚げが、寒さで冷え切った⾝体にしみわたります。テイクアウトの使い捨て容器と比べてもしっかりしている容器はとても食べやすく、新鮮に感じました。使⽤後は軽く⽔で洗浄し、お店の近くにある返却ボックスへ。QRコードを読み取り、容器を⼊れれば返却完了。容器を捨てるのではなく、手軽にリサイクルに貢献できたことで、心も満たされた気がしました。

 

 

 私が利用した弁当店は、リユース容器シェアリングサービス「Megloo」(メグルー)の実証実験に参加しています。2023年1月24日~2月23日まで⾏われた実験には、渋⾕キャスト周辺の飲⾷店やキッチンカーなどの約40店舗が参加しました。デリバリーの場合は、加盟しているシェアオフィスや区内に設置されている返却ポストなどを通じて回収されるそうです。

 

「ごみ」を捨てるのは誰?

 

 「Megloo」を展開するのは、神奈川県鎌倉市にある「株式会社カマン」です。地域内の飲⾷店が、テイクアウトに共通のリユース容器を使⽤することで、プラスチックごみの削減を目指します。2021年10⽉20⽇にスタートしたサービスは、地元・鎌倉市をはじめ、静岡県袋井市、東京・蔵前などでも展開されています。渋⾕区の実証実験では、デリバリ−サービス「wolt」とも提携しています。2022年10⽉に三重県の鈴⿅サーキットで行われた⼤会の会場でも、⼀部の店舗で実証実験を⾏いました。

 

 「アプリ登録者もどんどん増えていますね」。

 

 カマン代表の善積真吾さんが話してくれました。地元・鎌倉の街を散歩していたときのこと。当時3歳だった息子さんが何気なく拾ってきたごみを見て、「偉いな」と思った善積さん。同時に、「申し訳ない」という気持ちがこみ上げてきたといいます。この子たちにゴミの無い世界を残してあげるために、何かできることはないだろうか――。

 


 コロナ禍の日常。テイクアウトを利用するたびに、容器を捨てる回数も増えていました。自宅のゴミ捨て場にもプラスチックごみがあふれています。近所の飲食店情報を集め、テイクアウトマップをつくりWEBで公開したところ、「マイ容器を持参できる店を知りたい」という問合せも複数寄せられたことから、「Megloo」のサービスを思いついたそうです。

 

大学生も主役に

 

 「漏れない・洗いやすい・綺麗、の3つが⼤事」と善積さん。繰り返し使うための耐久性はもちろん、環境負荷が低いプラスチック素材を選びました。料理が漏れないようにパッキンをなどの素材を使うと、凹凸があり洗いにくいため、⾷中毒の原因になる恐れもあります。でも、洗いやすい簡易的な構造にすると、漏れやすくなってしまいます。そんな葛藤を繰り返し、地元・鎌倉の飲食店ユーザーの意⾒も反映しながら、約3か月をかけてMeglooが完成しました。

 

 慶応義塾大学大学院理工学部研究科(修士)を修了後、入社したソニーで様々な新規事業の立ち上げに関わった善積さん。2020年に株式会社カマンを創業し、鎌倉を拠点に様々な事業の支援を行っています。「物を⼤切にして皆でシェアできる循環社会を作りたい」と力を込めます。学生時代には世界各地をバックパッカーとして巡る中で、様々な環境破壊を肌で感じてきました。大草原ではなく⼤量のゴミを見せつけられたモンゴル。南国の海では、サンゴの⽩化や船員が海にゴミを捨てる光景も目にしました。「みんなが共通の物を使えば、結果として使い捨てがなくなる。最初は⼩さな声でも、段々と街の意識が変わるかもしれない」と訴えます。

 

 私たち大学生には、「新しい常識を作っていってほしい」と語る善積さんの笑顔がとても印象的でした。⽩い砂浜に、⻘い海。Meglooがスタートした鎌倉の街について、広⼤できれいな海を思い浮かべる⼈も多いかもしれません。でも、そんな未来の景観が、私たちの⾏動によっては失われてしまうのかもしれない。容器をシェアすることによって、「ごちそうさま」「ありがとう」という思いも、「めぐり、めぐる」Megloo。名前の由来となった私たちと自然環境との関係は、プロジェクトに込められた思いでもあります。「Meglooが当たり前になる未来を目指したい」という善積さんの言葉が心に残りました。⼀⼈⼀⼈の⾏動が未来を変える。私たち大学生も、その主体にならなければなっていかなければならない、と強く感じました。

 

(2023年2月21日 16:56)
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