循環型経済のヒントは江戸にあり ~ 映画「せかいのおきく」で考える

東京大学 弥生講堂・一条ホールで行われた講演会で話す原田満生さん(中央)と五十嵐圭日子さん(左)=朴珠嬉撮影

 SDGsの実現に向けて欠かせない「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。実現のためのヒントを求めて、映画製作者と自然科学者が連携するプロジェクトによって製作された映画の上映会に足を運びました。

(早稲田大学・朴珠嬉)

 

「YOIHI PROJECT」の第一弾

 

 江戸時代、ふん尿は商品のように取り引きされていました。武家屋敷や長屋で暮らす人たちの排せつ物は「汚わい屋」が買い取ります。てんびん棒で担ぎ、舟や荷車で郊外に運ばれ、豪農が買い取りました。畑に肥料としてまかれ、小作が育てた野菜は再び、武士や町人の口に入ります。人それぞれに役割があり、無駄のない循環ができあがっていたのです。4月28日全国公開の映画『せかいのおきく』は、こんな時代に生きた人々の日常をモノクロで描いています。託されたメッセージは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」です。

 

 作品は、武家育ちでありながら、訳あって貧乏長屋で暮らすおきく、ふん尿を売り買いする「汚わい屋」の中次、矢亮の3人を軸に展開する青春映画です。脚本・監督は阪本順治さん、主演は黒木華さんが務めました。注目したいのは、映画の製作者と自然科学者が連携する「YOIHI PROJECT」による劇場公開第1弾であることです。プロジェクトは、美術監督で、この映画をプロデュースした原田満生さんが呼びかけました。様々な「良い日」に生きる人たちの物語を、映画で伝えようという狙いがあります。

 

 東京大学 弥生講堂・一条ホールでは4月12日、全国公開に先だって、映画の上映と講演会が行われ、原田さん、同大教授の五十嵐圭日子(きよひこ)さんらが登壇しました。五十嵐さんは映画のバイオエコノミー監修を担当し、大学では、様々な人を巻き込みながら、地球の課題解決を図る科学者たちを育てるプロジェクト「One Earth Guardians育成プログラム」を進めています。原田さんはサーキュラーエコノミーについて「何回聞いてもわからなかった。映画なら伝わる、色々な形で表現、発信できると思った」と「YOIHI PROJECT」を始めたきっかけを紹介しました。五十嵐さんは「この映画はサーキュラーエコノミーの映画ではない。普通の映画の中に(サーキュラーエコノミーが)ちりばめられていることが重要だ」と応じていました。

 

(左から)中次、おきく、矢亮の3人を軸に江戸時代の暮らしを描いた「せかいのおきく」©2023 FANTASIA

 

互いの役割認め、成り立つ経済

 

 講演会終了後、「One Earth Guardians育成プログラム」に参加する東大生に話を聞きました。農学部4年の内藤英理香さんは「排せつ物を運んでいた人やその時代の人たちの暮らしを実感できた。きれい事ではすまない世界だと考えさせられた」と話していました。女子サッカー部に所属する修士1年の津旨まいさんは、産業廃棄物として処理されるグラウンドの刈り芝を家畜の飼料に転用できないかと考えています。「サッカーと結びつけて何かをしたい」と言います。循環型経済のヒントは日々の暮らしの中にあるようです。

 

 循環型経済の実現には、様々な人たちが、それぞれの役割を果たさなければなりません。改めて気づかせてくれたのは農学部4年の広瀬知弘さんでした。「互いの役割を認めないと成り立たない」と指摘してくれました。

 

 映画では「役割って字は、役を割ると書きますでしょ」というセリフがあります。ある出来事をきっかけに心を閉ざし、人との付き合いを絶ってしまったおきくに、読み書きを習っていた住職が、再起を促す言葉です。役を割る、その役割をそれぞれが果たす。サーキュラーエコノミーの鍵になる考え方であるのは間違いありません。

 

(2023年4月27日 11:00)
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