デジタル化時代の出版社は? ~ 文藝春秋 人事インタビュー

 

 

 文豪・菊池寛によって1923年に設立された文藝春秋。誰もが知っている出版社です。急速に進むデジタル化の波は、日本を代表する文芸作品の数々を世に出してきた出版社にも否応なしに押し寄せています。100年を超える歴史を刻む出版社の働き方はどうなっているのか。求められる人材とは。採用担当の渡辺彰子さんと山本直樹さんに聞きました。

(上智大学・津田凜太郎、法政大学・土田麻織、写真は土田麻織撮影)

 

週刊誌、WEB...若手にも活躍の機会

 

――文藝春秋の働き方を教えてください。 

 

山本直樹さん(以下、山本) :部署異動が多く、「転職」していくような感じです。2~3年ごとに様々な部門を経験することによって、適性を見つけられます。自分がやりたいことと、他人から見えてくるものは違います。最初の配属先は「週刊文春」、最近はWebの部署も多いですね。

 

渡辺彰子さん(以下、渡辺) : 雑誌や単行本は月に1回、年に1回しか企画ができませんが、週刊誌は毎週、Webは毎日です。仕事量も多く、編集者の仕事も理解しやすいです。雑誌編集に携われる機会、いわば「バッターボックスに立てる回数」が多く、若手のうちから成長できます。

 

 

――現在、力を入れていることは何でしょうか。

 

渡辺:「文春オンライン」を筆頭に、ほとんど全ての雑誌で電子化に力を入れています。PVを狙う無料ニュースサイトから「文藝春秋電子版」「NumberPREMIER」等の雑誌の有料サブスクリプションまで幅広く行っています。

 

――採用で重視しているフローは?

 

渡辺 : 面接です。Webテストもないし、筆記試験で足切りもない。とにかく話を聞きます。最終面接を含め4回ですが、「ガクチカ」は聞きません。何を頑張ったかではなく、どういう人なのか。何らかのコンテンツが好きな人が多いので、面接では「あなたの」興味のある出来事、コンテンツについて深堀りしていきます。IQより 愛嬌。「文藝春秋の名刺を持たせられるか」をイメージしながら「話す力、聞く力」を試しています。

 

ーーお2人の志望理由を教えてください。

 

渡辺 : 私が志望したのは1990年代前半で、雑誌が華やかな時代でした。CREAという女性誌を希望したのですが、配属されたのは「文學界」という純文学雑誌。次は「週刊文春」。文藝春秋のスピリットを感じられる貴重な体験でした。上司や先輩社員との距離が近く、フラットにものが言い合える雰囲気でした。

 

山本 : 小学生の頃から好きだった椎名誠さんの「週刊文春」連載エッセーです。素朴な読書体験がきっかけとなって志望する方は多いです。読書には「何か知りたい」という知的好奇心が根底にあると思います。そういったマインドを求めています。 

 

原動力は強い好奇心

 

ーーほかの出版社にはない独自の精神や社風はありますか?

 

渡辺 : 作家・菊池寛が作った会社ということもあって、自分の言いたいことを忖度せずに企画にしていくことができます。社員が350人程度ということもあり、上司とも互いに「さん付け」で呼び合いますね。

 

山本 : 強い好奇心が根付いています。まだ世に知られていないことを、世間へ伝えていきたい。ジャニーズに関する報道も率先して行いました。政治的信条や正義感が先行するのではなく、純粋に「何か知りたい」という好奇心が突き動かしています。直木賞や芥川賞も、まだ知られていない作家を世に送り出すための手段です。

 

 

ーーデジタル化やAIの発達は、出版社が扱うコンテンツに影響を与えています。出版業界はどうなっていくのでしょうか。

 

渡辺:デジタル系の部署が増え、web展開も広まっていますが、すべてが絶滅するとは思っていません。

 

山本:「Number」は写真などのビジュアル込みで見せるメディアです。ウェブ上でその良さを余すところなく伝えられるよう、「NumberPREMIER」では雑誌ビューワーを実装するなど、紙で培った知識を生かしてもいます。

 

渡辺:ただ、技術の進歩で似たようなものが大量生産されて、人々の興味自体がなくなってしまったら問題です。

 

山本:きちんと取材して生まれたニュースはチャットGPTに聞いても分からない。エッセーなども、書いている人がいての面白さがあるので、取って代わることができないと思います。

 

渡辺:昔は本で調べても分からないことを取材してこい、と言われていました。その人の心の中にだけあってまだ世の中に出ていないこと、データ化されていないことを突き詰める。小説も同じで筆者の心の中を一緒に形にしていく。誰も知らないところを突き詰めていくコアなところは変わっていません。

 

山本:誰でもできることは真似されやすい。お金を出してでも価値があると思ってもらえるようなものを提供し続けたいと思います。

 

 

ーー学生へのアドバイスをお願いします。

 

渡辺:ESはなるべく早めに書いて人に見てもらうことが重要です。ウェブ入力の場合は独りよがりになってしまうので、友達でも家族でも誰かに見てもらい、新しい視点を得ることが必要です。面接官は世代も違うので、世代の違う人に見てもらうとより効果的です。普段から身近な世界だけでなく、違う世界の人と接点を作るようにしてください。どんどん外側と接していくことは面接力につながっていくと思います。

 

人が好きな人、人と話すことが好きな人は向いている職業だと思います。よく言われる「コミュ力」が絶対なわけではありません。編集者が必ずしも全員喋りがうまいわけではなくて、とつとつと、真剣に話す人が信頼されることもあるのです。コミュ力=面接力ではありません。実は友達との会話で深い本音を話す機会は意外に少ないのではないでしょうか? 面接本番、いざ本気で話そうとするとやったことがないから難しい。「いい感じ」にまとめないで、本音で話す練習を、時間があるうちにやっておくといいと思います。

 

渡辺彰子(わたなべ・あきこ) 総務部副部長。1995年、東京大学文学部卒。文學界、週刊文春、文藝春秋編集部などを経て2019年から現職。

山本直樹(やまもと・なおき) 総務部次長。2010年、京都大学文学部卒。週刊文春編集部、メディア事業局を経て2023年7月から現職。

 

 

(2023年12月29日 08:00)
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