「推しの木コンテスト」は埼玉大学と野村不動産が共同で取り組んでいるプログラムです。東京都板橋区立緑小学校では、同大教育学部4年の藤田真由さんが授業を担当しました。「推しの木」の発表会に先立つ昨年10月末には、藤田さんが身近な自然を見つめ直すヒントを子どもたちに伝えました。(法政大学・坂爪香穂)
自然を見直して、大切なものに気づく
「私の推しの木は、おばあちゃんの家にあるキンカンの木です。春には白い花が咲いて、秋にはおいしい実がなります。おばあちゃんがハチミツ漬けを作ってくれます」
藤田さんが自身の「推しの木」を紹介すると、子どもたちは興味深そうに聞き入ります。
緑小学校は、校名の通り、たくさんの緑に囲まれた環境にあります。校区内には大規模マンション群「サンシティ」があり、14棟1872戸が立ち並ぶ敷地には、シイの木の仲間で、樹齢250年以上とされるスダジイをはじめ、5万本ともいわれる木々が生い茂っています。
「みんなも学校の中でおすすめしたい木を書いてみようか」
藤田さんの発表を参考に、子どもたちはワークシートに木の紹介を書き込んでいきます。「大きさはどのくらい?」「花は咲くのかな?」――。
同じ学校で学んでいても、思い浮かべる「推しの木」は様々です。
「小さいのに、大きいミカンが育てられるところと、大きい実をいつもたくさんつけるところが好きです」
1人の男の子は校門近くにあるミカンの木について紹介してくれました。
「大きさは僕の身長よりちょっと大きいくらいです」
わかりやすく説明しようと工夫する男の子の言葉に、藤田さんが大きくうなずきます。
毎日通っている学校の中にある自然を見直して、身近にある素敵なものや、大切なものに気づいてほしい。そうすれば、自分が暮らす地域の環境、街への愛着にもつながるはず――藤田さんが授業に込めたメッセージです。
都会の緑も自分たちで守る
今は緑豊かなサンシティも、1990年代半ばは、中庭は荒れ果て、放置されたままの竹林がうっそうとしていたそうです。こうした状況を改善しようと97年に活動を開始したのが、住民有志で作る「グリーンボランティア」でした。生け垣の手入れや剪定作業などに年間延べ1500人が関わり、自分たちが暮らす地域の環境を守っています。
こうした思いを孫世代の子どもたちにも共有してもらおうと、ボランティアのメンバーたちは同小の学習にも全面的に協力しています。授業を受けた4年生たちは、春に学校の裏山にある竹林で、ボランティアと一緒にタケノコ掘りに汗を流しました。竹は成長が早く、人が適切に管理しないと他の雑木林に入り込み、生物の多様性を損なうとも指摘されています。「人の手で守られる自然がある、ということを体験の中で学んでもらいたい」。同小の市之瀬輝明校長は力説します。
「本当だ。実がおっきいね!」
昼休みに子どもたちと一緒に校庭に出た藤田さんが、ミカンの木の前で目を丸くしました。「推し」を紹介するためには、その木の良いところや、特徴について詳しく観察しなければなりません。「なぜ好きなのか」を考えることは、子どもたちが自分自身の心の内を見つめ、自然との向き合い方を考え直すことにもつながります。
「10年後、20年後はこの街にいない人もいるかもしれない。戻ってきた時に自分が発表した木を見て、楽しい思い出と一緒に思い出せれば」と藤田さんは子どもたちの様子を笑顔で見つめていました。「推しの木」の楽しい記憶と一緒に、育った地域への愛着が、一人でも多くの子どもたちの心に育っていってほしいと思いました。
(「大学生が取材しました」は、毎月第1水曜日の読売新聞朝刊「SDGs@スクール」面に掲載しています)