デジタル化時代の図書館とは? ~ 新宿のビジネス街で考えた

 最近、図書館行ってますか?ネット通販や電子書籍が普及し、書店や図書館に足を運ばなくても本が読めるようになりました。地方自治体が運営する公共図書館はどうあるべきか。新宿のビジネス街の中心にある区立図書館を取材しました。(上智大学・津田凜太郎、写真も) 

 

ユニークなビジネス講座

 

 3月9日の土曜日。東京都庁や新宿中央公園を望む高層ビル街の一角に建つ8階建ての「角筈区民センター」の1室では、ユニークな講座が開かれていました。「就活×歴史」をテーマにしたこの講座。年代、性別も様々な10人ほどの参加者が、新聞社で採用担当を務めた経験を持つ現役の記者による「歴史に学ぶキャリアアップ術」に聞き入りました。

 

 講座を企画したのは、同じビルに入る新宿区立角筈(つのはず)図書館です。ビジネス街である新宿西部地区にある図書館としての立地を活かし、起業に役立つ情報誌や業界情報の蔵書も豊富に取り揃えているほか、中小企業診断士が起業や経営改善に向けた相談に答えるビジネス情報支援相談会も月1回開催。スタートアップに役立つ情報の拠点となっています。今回の講座も、就活生だけでなく、キャリアアップを目指す社会人に新たな視点を役立ててもらおうと企画されました。

 

 

 「イベントと本を絡めながら人と人、本と人とを繋げていきたい」

 

 指定管理者として角筈図書館の運営を手掛ける図書館流通センター(TRC)サポート本部顧問の大城澄子さんが話してくれました。角筈図書館では、ビジネス講座をはじめ、親子連れを対象にした読み聞かせ会や映画の上映会などのイベントを、年間100回以上開催しています。デジタル化が進む中、図書館は本を借りるためだけではなく、様々な情報を得るための「総合ステーション」であり、人と人との交流の拠点、ととらえているそうです。

 

 イベントでは、講座のテーマに合わせて、図書館にある本も紹介しています。イベントを通じて講師と参加者がリアルに繋がれることはもちろん、参加者が図書館の本に興味を持てば、新たな活用にもつながります。図書館が、区民が新たな情報や知識を身につける場になるというわけです。

 

リアルな交流拠点に

 

 「利用者の満足度は高まり、コロナ禍前までの10年で来館者は20%増加しました」

 

 角筈図書館の久保田浩館長が手ごたえを語ります。ビジネスマンの利用者も多い立地から、目指してきたのは、「利用者が満足できる図書館づくり」。新宿区では、民間事業者のノウハウを生かし、より利用しやすい図書館にするため、民間に運営を委託する「指定管理者制度」を2009年度から導入しています。このような運営は全国的にも進められていて、角筈図書館を運営するTRCは、新宿区の3図書館をはじめ、全国で585の公共図書館の運営を手掛けています。TRCのデータベース「MARC」を活かして、蔵書管理も効率化を進めています。

 

 

 急速に進むデジタル化。「箱物」としての図書館の存在意義が問われる中、公共図書館はどうあるべきなのでしょうか。「イベントもデジタル化を進めていきます。そもそも、図書館という言葉が古い。図と書物だけを提供する場ではなくなっていくのではないでしょうか」と大城さんは構想を語ります。

 

 これからの図書館は、オンラインも活用し、非来館型、非接触型のサービスである電子図書館やオーディオブックが主体になっていくでしょう。デジタルの進展とともに、役割を変えていく図書館。「図と書物」を所蔵する場から、人々がリアルに交流する知の拠点へ――。都会の真ん中の公共図書館で、知と人の新たな交流の形を見たような気がしました。

 

 

(2024年3月21日 07:53)
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