SDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)という言葉を耳にしない日はありません。就職活動(就活)でも、SDGsを意識して企業や業界を選ぶ大学生も多いと思います。では、具体的にどのような企業を選んでいけばいいのでしょうか。4月に3年生となり、就活に臨む私もとても興味があります。東京大学大学院医学系研究科特任講師を務める渡辺林治さんは、従業員の健康を重視する「健康経営」を提唱しているほか、2022年に「小売業の実践SDGs経営」(編著)を出版するなど、企業のSDGsの取り組みにも注目しています。私たち大学生が、どのようにSDGsと向き合っていけばいいのか、インタビューしました。
(東洋大学・冨田大和、写真は渡辺さん提供)
渡辺林治(わたなべ・りんじ)上場企業に経営・財務をコンサルティングするリンジーアドバイス株式会社代表取締役、東京大学大学院医学系研究科特任講師、博士(商学)慶應義塾大学。1990年慶應義塾大学経済学部卒業、95年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院修士課程修了、2011年慶應義塾大学商学研究科後期博士課程修了。野村総合研究所のアナリストとシュローダー投信投資顧問の調査部部長を経て、2009年にリンジーアドバイスを設立。専門は小売経営、企業経営、金融財務、IR、経済分析、サステナビリティ。『流通企業の繁栄と戦略』(千倉書房、2013年)『この指標がわからなければ幹部になってはいけません』(ダイヤモンド、2016年)、『2026年までの経済予測』(集英社、2018年)などの著書がある。
実は日本に根付いているSDGs経営
――渡辺さんが提唱されているSDGs経営について教えてください。
一言で表すと、長期的な維持発展を目指す経営です。つまり、消費者・従業員・株主・環境などすべてのステークホルダーに対し、長期的に企業の社会的な役割を果たし続けるということです。近江商人の「三方よし」のように、日本企業は昔から、社会的な役割を果たしながら長期維持発展してきました。呼び名が変わっただけで、SDGs経営は日本企業に根付いています。
――企業にはたくさんのステークホルダーがいます。すべてのステークホルダーに対し社会的な役割を果たし続けることは可能なのでしょうか。
可能です。しかし、いつも平等に果たし続けるということではありません。タイミングとウエイトが重要です。SDGsに17のゴールがある中で、どれを取り入れるのかは企業の業種や規模、時期によって重要性が異なります。例えば、環境問題に取り組むなら、収益面では短期的にマイナスかもしれません。ですが、長期的な視点でみると、会社の評判を高め、優秀な人材を獲得できるなど、プラスになります。企業は様々な視点で会社運営をする必要があります。
――SDGs経営を掲げる企業=優良企業として捉えてよいのでしょうか?
まず、短期思考で現時点の業績だけが優れている企業を優良企業と呼ぶならば、SDGs経営を掲げている企業は優良企業ではありません。長期思考で様々な視点で運営をしている会社をみんなにとって「良い会社」と捉えています。
従業員と経営の視点で企業選びを
――良い会社とは、具体的にどんな会社でしょうか?
「社会性」「成長性」「収益性」の3条件を満たしながら長期的に維持発展している会社です。SDGsは一見、社会性を中心に捉えがちです。しかし、成長性・収益性はそれぞれ「社会に求められているサービスや商品を提供し続ける」「雇用を保ち社会に貢献し続ける」ということです。ステークホルダーに対しても、長期的に維持・発展しながら役割を果たすために重要な条件ですから、これらの3つの条件を満たす企業は社会的に「良い会社」と言えます。
――就活生はSDGs経営をしている企業をどのように見極めればよいのでしょうか?
最初に企業の基本的な考え方を示す社是(しゃぜ)や、経営理念から経営トップがどれ程SDGs経営にコミットし、企業として長期思考であるかを見破る必要があります。目先の利益を優先する短期思考の企業では、長期的な維持・発展は不可能です。次に、従業員の視点でも「働きやすいか」を考え、最終的に経営学的な視点で企業の取り組みを理解する必要があります。
――従業員の視点・経営学的な視点とはどのような視点でしょうか?
まず、従業員の視点は7つあります。①働きやすいか②育児がしやすいか③結婚後も続けやすいか④有給休暇取得率が高いか⑤残業時間が多すぎないか⑥離職率が低いか⑦エンゲージメントサーベイをしているか。以上7つの項目は、従業員にとって良い会社か判断する視点と言えます。
次に経営学的な視点ですが、自分が働く会社はどのように運営されているのか知ることはとても重要です。経営学部以外の学生でも「経営学検定」を取得すれば十分知識が身に付きます。経営学的な視点で見ることができれば、就活に役立つはずです。
すべてのステークホルダーを思いやれる人材に
――SDGs経営をしている企業は、どのような人材を求めていますか?
長期的視点で相手の立場で考えて行動できる人材を求めています。言い換えれば、自分の長期維持発展のためにも、すべてのステークホルダーを思いやり行動出来るということです。簡単なようで出来ている人はほとんどいません。
――就活生にエールをお願いします。
皆さんがこれからの未来を創っていきます。社会にとって皆さんが必要です。明るい未来を一緒に作っていきたいと強く考えています。
2022年6月、渡辺林治(編著)、篠原欣貴、薩佐恭平(著)。企業と地域・社会が共に長く発展するための「SDGs 経営」について、独自に収集した企業データを基に、小売業でのSDGs の取り組みが企業の競争力にどう結び付くかを分析。また、先進的な小売5社の実践例を紹介し、経営方針の設定から SDGs 戦略の策定、商品開発や店舗施策などへの展開まで、 SDGs の推進プロセスを提案している。