横浜市中区の会社員、石川桂さん(24)は、2015年3月にフェリス女学院大学を卒業するにあたり、女子野球をテーマにした卒業論文をまとめた。過去の読売新聞のデータベースを活用し、記事の掲載頻度や内容を多角的に分析したもので、高い評価を受けている。
石川さんは野球が大好きで、横浜DeNAベイスターズのファンでもある。大学の先輩が卒論で苦労している様子を見て、「好きなものをテーマにしたい」と思い、女子野球がメディアでどのように取り上げられているかを主題に据えた。
分析対象として読売新聞を選んだのは、「女子野球の記事の古さ、多さともに一位であった」からだという。
「女子野球」 データベースで抽出
石川さんは、インターネットのデータサービス「ヨミダス歴史館」の検索機能を使い、1989年1月から2014年10月までの読売新聞記事のうち、「女子野球」というキーワードが含まれる記事を抽出。野球とは無関係の記事を除外し、532件の記事すべてに目を通し、①日付②発行形態(発行地域、朝刊か夕刊の区別)③掲載面④字数⑤タイトル(見出し)⑥試合結果⑦試合内容⑧コメント、インタビュー等⑨写真――の項目ごとに分類、分析した。
論文によると、記事の数は、1990年代は毎年1ケタ台だったが、2001年以降は件数が増加傾向にあることがわかった。2000年前後に女子の硬式野球大会が始まったり、東京六大学野球に女子選手が誕生したりした影響で、注目度が上がったためだ。2004年から2年に1回開催されているワールドカップに連動して、記事数が増減することもうかがえた。
一方、記事数が増えているのに、一つあたりの記事の文字数がそれほど増えていないことが判明した。これについては、「以前ならば記事にならなかったような小さなことでさえ伝えられるようになった」ことと、大会や試合数が増え、これらの結果に関する簡潔な記事が増えた結果といえる。
注目度上がる女子野球
女子野球の記事が掲載されるページは、地域面が半数近くを占め、スポーツ面よりも多かった。記事に添えられる写真やコメントの有無など各項目も調べた末、石川さんは「女子野球への注目度は着実に上がっている」と結論づけた。その大きな要素として、ワールドカップの存在を挙げている。
このほか、多数の文献を引用しながら、戦後の一時期に女子プロ野球があった歴史などを紹介し、日本の女子野球を総覧する内容になっている。
石川さんは、データベースを閲覧するため、3週間にわたり、大学のパソコン前に「居座っていました」という。「パソコンがすごく苦手」という石川さんは、600件近い記事を読みながら、調査項目ごとに手書きで「正」の字や「○」「×」などを紙に書き込んだ。
地道な作業の繰り返しはつらかったが、女子野球の発展を願う石川さんにとって、「女子野球の知名度を上げたい」「活躍の場を広げたい」といった同じ思いを持つ選手たちのコメントに接し、喜びや発見も多かった。
反省点もある。「女子野球だけでなく、男子野球やソフトボール、サッカーとの比較もしたかった」という。新社会人となった石川さんは、「会社でも、やりたいことを続けたい。もちろん、野球の応援も続けます」と話している。
オリジナリティがあり、読者に知的満足感を与える・・・和田浩一教授
指導にあたったフェリス女学院大学国際交流学部の和田浩一教授は次のように評価している。
石川論文の第一の特徴は、研究デザインが細かな根拠に基づいて無理・無駄なく設計されている点だ。読み手が石川さんの主張に納得できたと感じるのは、研究の構造がしっかりしているからだ。
第二の特徴は、石川さんが不規則なデータを無視・排除せずに、どのように処理したのかを明記している点。データを恣意的に操作しないという研究態度は、論文の信頼性を高めてくれている。
最後の特徴は、整理・分析したデータの《解釈》が、各分析項目ごとにコンパクトにまとめられている点。この《解釈》こそが、論文に石川さんのオリジナリティを吹き込み読者に知的満足感を与える旨み成分的な要素となっている。