第31回「日本絵本賞」大賞は2作品「ある星の汽車」「いま、日本は戦争をしている」

受賞作を手にする森洋子さん(左)と堀川理万子さん

 「第31回日本絵本賞」の選考結果が5月15日に発表され、最高賞の日本絵本賞大賞(順不同)に「ある星の汽車」(森洋子作、福音館書店)と、「いま、日本は戦争をしている─太平洋戦争のときの子どもたち─」(堀川理万子作、小峰書店)が決まりました。画家としても活躍する2人が絵・文とも手がけた作品で、複数作品の大賞受賞は初めてです。

 次点の日本絵本賞には「もりのあさ」(出久根育作、偕成社)、日本絵本賞翻訳絵本賞は「ぼくのすみっこ」(ジョオ作、かみやにじ訳、ほるぷ出版)が選ばれました。

 

全国学校図書館協議会主催、読売新聞社、中央公論新社特別協力

 

日本絵本賞 大賞

「ある星の汽車」

森洋子 作

福音館書店


広い大地を走る汽車に、ドードー、リョコウバトたちが乗っています。乗客は次々と下車していき......。絶滅動物を描いた創作絵本。

 

絶滅の道 静かに描く ─作者・森洋子さん(67)


 「長いこと、賞とはご縁がなかったものですから、不思議な気持ち」と受賞を喜ぶ。人間を含む生物の生存の危機を、静かに描いた作品が高く評価された。

 小学生で墨絵を学び、東京芸術大学では日本画を専攻。卒業後も公募展へ出品を続けたが、芽は出ず、35歳の時に「日本画を諦めた」という。

 賞を狙う作品ではなく、自分が描きたいものを考え、子どもの頃の自宅や路地といった記憶に残る情景を黒ペンで描き始めた。知人ら約50人に毎月、作品のコピーを送り続けたところ、絵本化につながり、48歳の時に絵本が初めて本屋に並んだ。

 動物たちが汽車に乗り合わせる物語を構想中、絶滅が危惧される動物などが登場するバレエ作品「ペンギン・カフェ」を見て、受賞作の着想を得た。絵本の前半ではジャケットを着た鳥のモーリシャスドードーや長靴をはいたイリオモテヤマネコなど、にぎやかな車内が描かれる。だが、駅に止まる度、誰かが降りていく。人間の少年は、父親に「ぼくたちはいつまでのっていられるの?」と聞く。

 声高に環境保護を訴えるのではなく、「ずっと一緒だと思っていた隣の人が急にいなくなった後の、空虚感を描きたかった」。編集者とのやり取りから物語が生まれ、方向性が決まる「チーム作業」が絵本作りの面白さという。「絵も絵本も両方続けていけたら」とほほえんだ。

 

「いま、日本は戦争をしている」

堀川理万子 作

小峰書店


子どもの頃、空襲、原爆、引き揚げ、疎開などを経験した方に取材。子どもたちの語りを通して戦争の理不尽とリアルを伝える絵本。

 

体験者17人 取材重ね ─作者・堀川理万子さん(60)


 太平洋戦争前後に5~17歳だった17人を4年かけて取材し、制作した。これまでの楽しく和やかな作風からは一変し、この作品では子どもたち目線で見た戦争をリアルに描いた。

 原爆で亡くなった人を担架で運んだ先の穴の中に、学校の先輩を見つけた話。幼い妹を狙う戦闘機の操縦士の顔が見えた話。描くうちに、涙が止まらなくなる時もあった。「しんどかった」とこの4年間を振り返る。受賞については、つらい体験を話してくれたお年寄りとその家族に「いい報告ができてうれしい」と話す。

 絵の公募展に向け、戦時中に子どもだった父の絵を描いたことがきっかけになった。ほかに数人の体験も描いて「個展を開こう」と考えていたところ、編集者から出版を提案された。

 北海道から沖縄まで、お年寄りの元を訪ねた。当時の日常をそのまま描きたいと、下絵を何度も描き直し、何度も当人に見てもらった。着色後、再び絵を持参し、確認してもらった。

 絵に付けた文章では、子どもたちが方言のまま当時の様子を語っている。17人を「過去の存在ではなく、自分の隣にいる普通の子だと感じて読んでほしい」との思いからだ。

 今も世界では戦争や紛争が絶えない。「ひどい目に遭っているのは特別な子ではない。苦しむ子どもたちのことを想像し、思いを寄せてもらえれば」と願っている。

 

日本絵本賞

「もりのあさ」

出久根育 作

偕成社


目覚めたばかりの森に出かけた女の子。朝露に鳥の声がひびくみずみずしい朝の中で、密やかな夜の森のことを心に思い浮かべてみます。

 

翻訳絵本賞

「ぼくのすみっこ」

ジョオ 作/かみやにじ 訳

ほるぷ出版


部屋のすみにやってきたカラスの子。自分だけのおちつくすみっこに、すきなものを集めていきます。でも、なにかがたりない......。

 

選評

松本猛・選考委員長


 『ある星の汽車』は、『銀河鉄道の夜』を思わせる汽車に乗り込んだ親子と動物の物語。駅で降りる動物は、実は地球上から絶滅した種だった。夜空を走る汽車と、着衣だがリアルな動物を通して、地球に生まれた生命と人間の文明を考えさせる。

 『いま、日本は戦争をしている』は、戦中に子ども時代を過ごした人に丹念な取材をし、生きるとは何か、戦争とは何か、を問いかける。困難な時代を、それぞれに生きた子どもの姿にぐいぐい引き込まれる。長編絵本表現の可能性を大きく広げた作品。

 二作ともテーマ性、表現力とも秀逸で甲乙つけがたく今回は大賞を2点とした。

 『もりのあさ』は空気や湿度や香りや地面の触感やかすかな音までも感じさせる繊細な描写がすばらしい。

 『ぼくのすみっこ』は本のノドを部屋の隅に見立てて、ページをめくると魅力的な部屋に変化する。本の形を活用した新感覚絵本。

◆最終選考委員(敬称略)

▽松本猛(絵本・美術評論家、ちひろ美術館常任顧問)

▽伊藤たかみ(作家)

▽福田美蘭(みらん)(画家)

▽佐々木泰(読書推進運動協議会事務局長)

▽小林功(全国学校図書館協議会絵本委員会委員長)

(2026年5月22日 11:20)
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