林真理子さん「街の品格は本屋があることだ」...出版文化の未来と神保町のシンポ
「本の街」東京・神保町の活性化を考えるシンポジウム「出版文化の神保町 世界に飛翔(ひしょう)するために」(東京文化資源会議主催、神保町文化発信会議共催)が1月22日、千代田区の出版クラブホールで開かれた。
東京文化資源会議は、官民学の関係者が集って東京の文化的な魅力を発信している団体。シンポジウムではまず、同団体が取り組んでいる、神保町の来街者や事業者を対象にしたインタビュー調査や、各種の出版セミナー、書店・古書店を訪ねるツアーなどの活動について、柴野京子・上智大教授(出版流通論)が報告した。
柴野教授はまた、ギャラリーを併設する書店や、衣服の購入が可能な書店などが営業を始めている神保町の現状も紹介し、「この街の良さを損なうことなく、ポテンシャルを広げていく余地があるのではないか」と話した。

パネルディスカッションでは、書店の現状などについて意見が交わされた=三浦邦彦撮影
続いて、神保町に縁の深い作家や研究者らが登壇し、書店と街とのつながりなどをテーマにパネルディスカッションが行われた。
実家が書店だという作家の林真理子さんは、住んでいる街にあった書店がなくなったことに触れ、「街の品格は本屋があることだ」と語った。林さんはさらに「本は知的な趣味になりつつある」と指摘。「娯楽ではなく、高尚な趣味として定着することで、神保町がますます価値を持つ」と好意的に捉える一方、「娯楽から離れるのは、複雑な気持ちがする」とも話した。
仏文学者の鹿島茂さんは新刊を販売する書店の今後について、「すべてを網羅した大書店か、超専門店の二つの方向しか生き残らない」と言及。そのうえで、「古書店は昔からそうだった」とし、「神保町はその両方の機能を持っている。神保町は日本の未来の姿を表している」と述べた。
閉会のあいさつで、斎藤健・前経済産業相は「本屋がどんどんなくなっている。本屋が一軒もない自治体で生まれた子供は、本屋のすばらしさどころか、本屋の存在すら知らないで育っていく。これは出版文化の危機のみならず、国力の危機ではないか」と話した。(文化部 前田啓介)