「加藤シゲアキ流 ものがたりを作る」青山学院・活字文化公開講座

「一番大切なのは行動力。迷ったら一歩踏み出して」と語る加藤さん=多田貫司撮影

 アイドルグループ「NEWS」で活躍しながら、ミステリー小説「なれのはて」が直木賞候補になった作家・加藤シゲアキさんを講師に迎えた活字文化公開講座が5月26日、東京都渋谷区の青山学院大学で開かれた。中学から大学まで同学院で学んだ加藤さんは「加藤シゲアキ流 ものがたりを作る」と題して創作について語り、学院の各校に通う後輩ら約500人が耳を傾けた。

 

背中押されて本気で書いた

作家になったきっかけ

 芸能活動を続けるうちに、何か作りたいっていう気持ちが膨らんでいきました。小説を単行本にしたいという夢になり、周囲に「25歳までに本を書きたい」って言いふらしていました。

 本気を出してみようと思ったのは23歳の春。大学を卒業して時間があった時です。芸能活動もあまりうまくいってなくて。思い詰めて、会社の偉い人に話してみたら、「だったら書いてみろよ」って背中を押されたんです。

 そうだな、人生で本気を出す瞬間は今だな、本が出なくても1冊書いたら大きな自信になるはずだと思ってチャレンジしました。頭の中で考えているときは全部うまくいくけど、形にする方が圧倒的に難しい。全部を詰め込んだ1冊。それが1作目の「ピンクとグレー」です。

学内の礼拝堂に約500人が集まった

 

課題で花丸、自信ついた

文章を書くこと

 子どもの頃は、文章を書くのに苦手意識がありました。だからそのスキルを磨きたくて高校で「国語表現」の選択授業を取りました。

 授業では、論文の書き方のようなものを教えてくれると思った。でも、実際に行ってみたら、「鬼ごっこを原稿用紙2枚で説明しろ」という課題を出されました。ルールはなし。みんなでそれぞれの原稿を読んで、一番いいと思ったものに匿名で投票するというスタイルでした。

 そこで、「心の中の鬼が......」ってめちゃくちゃふざけて書いたところ、上位3位に選ばれたんです。先生からも花丸をもらった。その後の課題でも毎回花丸をもらい、自信がついていきました。

 1年やった最後に文集を作ることになって、僕は小説を書いたんです。書いたのは、ドライブ中に横の助手席の女性の顔がどんどん変わる世にも奇妙なお話。これをブログに掲載したところ、雑誌の執筆依頼が来るようになり、だんだん文章を書くのが仕事になっていきました。

加藤シゲアキ(かとう・しげあき)

 1987年生まれ。青山学院高等部在学中「NEWS」メンバーに。青山学院大法学部卒業後の2012年「ピンクとグレー」で作家デビューし、21年「オルタネート」で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。「オルタネート」と「なれのはて」が直木賞候補作となった。

 

「なれのはて」

書き始めると引き出しが開く

 この作品にチャレンジしていろいろ勉強になりました。全身全霊を込めて、これ以上は書けないと思う作品を書き終えたらその先が見える。「ピンクとグレー」のときもそうでした。小説を書くことに限界はないと思います。本当にしんどいですけど。

 「なれのはて」を書くきっかけは、30歳代半ばになって下の世代を意識するようになったことです。僕は生まれが広島で、仕事で原爆や戦争の番組に呼ばれることもありました。特に戦争について、自分たちは体験者から話を聞ける最後の世代なのではと思ったのです。

 ネットで調べてみたら、「日本最後の空襲」の一つが秋田の土崎で8月14日夜10時半に起きていたことが分かりました。被害を受けた方は「あと1日早く日本が降伏していれば」と思ったに違いない。自分の中でものすごく興味がわいて、本格的に調べていったのが始まりです。

 小説を書き始めると、勝手に引き出しが開きます。引き出しを開けてこれとこれを取って書いて......ではなく、書いていたら引き出しが勝手に開くというイメージです。

講演する加藤さん(右)と司会のフリーアナウンサー・木佐彩子さん

 

「愛するということ」

一番好きな本

 心理学者エーリッヒ・フロムの「愛するということ」は、愛について分析、解説した本です。愛するということは技術=スキルである。だから鍛えて鍛錬していく。難しいから勉強して努力して鍛えようぜという内容になっています。

 才能があるから生きていける、愛されるというのではなく、スキルだからレベルアップしなさい、レベルアップは自分で経験値を稼ぐしかないっていう本です。ぜひ一度は読んでほしいです。

 

逃げずに挑戦、進んでいこう!

若いみなさんへ

 僕が書き続ける根源には、最初は悔しさとか、何かを成し遂げたいっていう承認欲求みたいなものがあったかもしれない。でも作品を積み重ねるうちに、もっと面白いものをつくりたいという思いが芽生えました。そして今は、意識しなくても書けるように。歯磨きと同じ感覚ですね。

 なぜそうなったかというと、書き続けてきたからです。どんなこともまず3年は続けることで見えてくるものがあるのではないでしょうか。

 臆病にならずに思い詰めずに、かといって自分から逃げずに挑戦して進んでいってほしいです。悩んだらとことん悩んで。どんな経験も肥やしになる。僕はそう胸を張って言えます。

【主催】青山学院、活字文化推進会議

【主管】読売新聞社

 

新図書館が完成、創立150周年迎え

 

 今年、創立150周年を迎えた青山学院では、青山キャンパス内に新図書館が完成した。4月から利用が始まった。建物の名前は、青山学院のロバート・S・マクレイ初代院長にちなみ、「マクレイ記念館」と名付けた。

 地下1階地上6階建て。ガラスと白い円柱が印象的な建物は、キャンパスの東西南北の動線が交わる地点にあり、多くの学生でにぎわう。図書館フロアのある2~6階は吹き抜けで、開放的な空間が広がる。蔵書数は約103万2000冊。全ての書籍にICタグがついており、学生証をかざすだけで本を借りられるシステムになっている。

 目玉は、4~6階に設置された最大80万冊を収蔵できる自動書庫だ。書庫は高さ約10メートルもあり、来年以降、学生自ら操作して、書庫から本を取り出せるようにする予定だ。

 下の階の書籍で蓄えた知識を、上の階で論文執筆に使ったり、発表にいかしたりする――という発想に基づき、上層階は研究個室やプレゼンテーションルームを設置。1階と地下は情報メディアセンターで、IT講習会室や映像編集室などがある。

 図書館を見学した加藤さんは「僕が学生のころは人がいないから図書館に行くという感じだった。今は結構混んでいるそうだけど、人気の理由も分かる」と感心。「インターネット上に答えがなくても、本で見つかるケースは多い。こんな図書館が身近にあるのは本当に恵まれている」と話した。

(2024年6月28日 12:00)
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