エッセー集語ってV「理解者が現れた」と著者も感激【特集】第12回全国高校ビブリオバトル
高校生のオススメ本を決める「第12回全国高校ビブリオバトル in TAKANAWA GATEWAY CITY」が2月8日、東京都港区の高輪ゲートウェイシティで開かれた。都道府県大会と読売中高生新聞大会の代表49人が出場。青森県代表の県立八戸東高2年、前田詩歩さんが紹介したエッセー集「記憶にありません。記憶力もありません。」(土屋賢二著、文芸春秋)が、観客700人から最も票を集め、グランドチャンプ本に輝いた。
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グランドチャンプ本「記憶にありません。記憶力もありません。」
土屋賢二著/文芸春秋
「ままならず」を乗り越える

前田詩歩さん 青森県代表(県立八戸東高校2年)
「物事が思い通りにいかなくて、泣きたくなることはありませんか。私はしょっちゅうです」。愛嬌たっぷりに語りかけた。
年を重ねて記憶力が衰えたことを逆手に、生きづらい日常をユーモアと自虐で笑い飛ばすエッセー集。全60編の中で特に薦めたいのが、〈天国に住めない理由〉だ。結婚、スポーツ、芸術......。人は実のところ、自分の思い通りにならないものを求めているという逆説的な結論に笑いながらも、ハッと気づいた。「それをあえてするのは、乗り越えた時に快感があるからでは」
自身の学校生活も、思い通りにならないことであふれている。気を抜くとすぐにやってくるテスト、何のためにあるのか甚だ疑問な体育の授業、そしてビブリオバトル。どうして大勢の前で5分間も緊張しながら話さなければならないのか。発表内容を何回見直しても納得がいかない。自己嫌悪と挫折。原稿の書き換えは大会2日前まで続き、ついにわけがわからなくなり、涙が出た。
本番も思い通りにいかない。発表し終えてタイマーを見たら、まだ6秒も残っていた。「やばい、時間が余った」。思わず口走った言葉をマイクが拾い、会場がどっと沸いた。以前なら、パニックになり、自分を責めただろう。でも、「だめな自分のままでもいいと、この本が教えてくれたから」。最後まで楽しめた。
「ついに理解者が現れた!」。大会の様子を知った著者の感激の言葉が今月、文庫本の帯になった。「もう信じられない。最高です」。思い通りにならないことを乗り越えた快感は大きかった。

準グランドチャンプ本「ざんねんな万葉集」
岡本梨奈著/飛鳥新社
遠い時代のダメダメな人々

谷内聖さん 富山県代表(県立高岡高校2年)
「口説いた女が面倒くさくなってしまった。よく考えずに結婚したら見かけ倒しの男だった。万葉集に、自己中心的な男や、現在でもいそうな女の心情をうたった和歌が収録されていることを知っていましたか」
日本最古の和歌集に収録されている約4500首から、あまり日の目を見ない51首を、現代視点を交えながら紹介した本作をユーモアたっぷりに紹介した。
競技かるた部に所属している。和歌は嫌いじゃないのだけれど、古文は苦手。どこで途切れるのか分かりにくい長い一文、辞典を引かなければならない古語。そんな古文との距離感を縮めてくれるような本はないだろうかと足を向けた学校図書館で、この一冊に出会った。美しい風景や心情を詠んだ歌も収録されているはずと思ったけれど、全然違う。ダメダメな人々の描写に、思わず「えー!」という声が出た。遠い時代を生きた人たちをぐっと身近に感じることができた。
発表では、「古文が苦手な皆さん、千年以上昔を生きた人たちから笑いを摂取してください」と力強くアピール。「私はテストの点数が上がったんです......3点だけ」とオチをつけて締めくくった。

ゲスト特別賞「自分のあたりまえを切り崩す 文化人類学入門」
箕曲在弘著/大和書房
頑張り方に正解はない

石中正美さん 読売中高生新聞大会代表(関西創価高校2年)
バレンタインデーのお返しとして現金を選ぶのはどうして場違いなのか。髪の毛が抜けてお風呂に浮かんだとたん汚く感じるのはなぜか......。「日常を疑い、人間とは何かを考えるのが文化人類学」と定義する本書をやわらかく紹介した。
中学校では生徒会長を務め、ぴかぴかに目立っていた。「頑張っているね」と周囲から言われ、うれしかった。でも、高校では、自分よりも輝いている人がたくさんいた。「周囲の評価=頑張ること」という自身の思い込みに苦しんだ。
そんな時に出会ったのがこの本だ。「頑張る」という言葉自体を疑えたことで、頑張り方に正解はないと気づき、これまでの世界が違って見えるようになった。「一本道だと思っていた自分の人生に必ず新しい選択肢をくれる本」と力強く訴えた。
文化人類学にはすごく助けられたが、大学で学ぶかどうかは悩み中だ。一本道ではなくなった人生。もっといろんなことを学ぶのもいいかなと思っている。

JR東日本特別賞「ナカスイ!海なし県の水産高校」
村崎なぎこ著/祥伝社
あふれ出る栃木愛 叫ぶ青春

床井響明さん 栃木県代表(小山工業高等専門学校2年)
本作とは、2年前の高校入試の問題で出会った。生まれ育った栃木を舞台にしたお話はずっと心に残っていた。ビブリオバトルに挑戦することになり、書店で本を手に。入試問題よりもずっと長かったが、読み始めたら止まらない。心に火がついた。
実在する県立高校をモデルにした那珂川水産高校(ナカスイ)の生徒たちが、ご当地食材を使った料理コンテストに挑戦する青春ストーリー。もちろん、魚に興味がなかった主人公がどうなっていくかという話の筋もいいのだけれど、伝えたかったのはあふれ出る栃木愛だ。
「放課後に遊ぶといえば、デパートのゲーセン」。自身の高校生活も重ね合わせ、ナカスイの青春をひもといていく。締めに「自分にとっての青春が何かを考えてもらいたい」と叫んだ。
本との出会いは様々。発表で誰かがこの本に興味を持ってくれたらうれしい。栃木の良さも伝わってたらいいな。
「文章が上手になるには」「本を読む意味とは」トークショー
決勝前のトークショーでは作家の宮部みゆきさん、女優の豊嶋花さん、JR東日本社長の喜勢陽一さんが、参加者の質問に答えた。
「文章が上手になるには」という問いに、宮部さんは「読まないと書けない」と回答。本をたくさん読むことを勧め、続けて速記者として働いた経験から「叙情的な文章ではなく叙述的に書く訓練をすると小説にも役立つ」と語った。
5歳で芸能活動を始めた豊嶋さんは、台本でまず活字に親しみ、そこから物語に関心が広がったと話し、「小説や脚本をいつか書きたい。宮部さんの話はすごく刺さった」と応えた。
喜勢さんはAIが急速に普及する時代に経営者として本を読む意味を問われ、「人の心に届くものを作るのは人だと思う。自分に見えない世界が本の中にたくさんある。人間の世界の幅を広げてくれる読書体験は、ますます大切な体験価値になってくる」と語った。
高校生に読んでほしい本として、宮部さんは「ものまね鳥を殺すのは―アラバマ物語(新訳版)」(ハーパー・リー著)、喜勢さんは「男子の本懐」(城山三郎著)、「昭和の精神史」(竹山道雄著)、「フランクリン自伝」を紹介した。

(左から)宮部みゆきさん、豊嶋花さん、喜勢陽一さん
【特別協力】JR東日本
【主管】読売新聞社
【協賛】日本書籍出版協会
【協力】松竹芸能
【後援】全国学校図書館協議会、全国高等学校文化連盟、日本書店商業組合連合会、文字・活字文化推進機構、ビブリオバトル普及委員会、大日本印刷、東京都港区、文部科学省

※この事業は、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)の共通目的基金の助成を受けて実施されました。



