岩手代表は田畑心さん、チャンプ本は「世界から猫が消えたなら」...全国高校ビブリオバトル予選
高校生の部で優勝した盛岡北高の田畑心さん(29日、県立図書館で)=山森慶太撮影
愛読書の魅力を発表し合う「ビブリオバトル岩手県大会」が29日、盛岡市の県立図書館で開かれた。高校生の部の「全国高校ビブリオバトル県大会」は、9校・14人が参加し、小説「世界から猫が消えたなら」(川村元気著)を紹介した盛岡北高1年の田畑心(しん)さん(16)が優勝した。来年1月28日に東京国際大学池袋キャンパスで開かれる決勝大会に出場する。
田畑さん熱弁「思春期の心にぶっ刺さった」
「家族とうまくやり取りが出来ない僕たち思春期の心に、ぶっ刺さる作品だった」
予選を勝ち抜いた3人による決勝で、田畑さんは本に抱いた共感を熱く語り、聴衆の心をつかんだ。
大会では、発表者が5分の持ち時間でお気に入りの一冊を披露し、質疑応答の後、聴衆が投票で一番読みたくなった一冊を決めた。
「世界から~」の主人公は、余命わずかと宣告された30歳の郵便配達員だ。長く決別していた父に手紙を出すことを決意する。田畑さんは、最近、父と些細(ささい)なことでけんかした体験を打ち明けた。聴衆に2冊購入してほしいと訴え、「1冊には手紙を挟み、大切な人に贈ってほしい」と呼び掛けた。田畑さんは「全国大会は緊張するが、作品の良さを知ってもらうために頑張りたい」と意気込んだ。
このほか、決勝に進んだ花巻北高1年の及川讃香(ほのか)さん(16)は他の発表を聞き、「興味がなかったジャンルの本も読んでみようと思った」と刺激を受けたという。花巻南高3年・菊池渚音(なお)さん(18)も「読んだことのない本の紹介にワクワクし、人を引きつける話し方も勉強になった」と話した。
一方、3班に分かれて行われた予選には、小説、ミステリー、ノンフィクションなど多様な本が登場し、予選終了後も、生徒らが活発に意見交換する姿が見かけられた。
大学生の部...前川瑠衣さん、東北ブロック決戦に進出
お気に入りの短編集を紹介した前川瑠衣さん
大学生の部として「東北ブロック地区予選」も開かれ、盛岡大文学部2年の前川瑠衣(るい)さん(20)が発表した「少女を殺す100の方法」(白井智之著)が選ばれた。岩手、宮城から計6人が参加した。
ブロック決戦(11月18日、仙台市)への出場権を得た前川さんは「短編集なので気軽に読めるはず。ぜひ手に取り、同じ感覚を味わってほしい」と話した。
高校生の部に出場後、見学した水沢商高2年の高橋さやかさん(16)は「自分の気持ちを元に語る高校生に比べ、大学生は一歩引いた視点で本を解釈し、魅力を伝えていた」と話した。
実行委員会事務局長の吉植庄栄・盛岡大図書館副館長は「多くの人の協力のたまもの。読書好きな人を集めてもっと大きな大会にしたい」と話した。
感銘受けた本、鼎談で紹介...県立図書館長ら
愛読書を紹介する盛岡大の高橋学長(中央)、水沢商高の中村教諭(右)、岩手県立図書館の森本館長(左)
大会では、「次世代に活字の面白さを伝える」と題し、森本晋也・県立図書館長らによる鼎談(ていだん)も行われ、感銘を受けた一冊が紹介された。
森本館長は「どんな時も、人生には意味がある。」(諸富祥彦著)を挙げ、「人生には授かったものがあり、それを見いだしていくとの考えに接した」と語った。
日本近世文学が専門の高橋俊和・盛岡大学長は、高校での教え子が著した「私が源氏物語を書いたわけ」(山本淳子著)を取り上げ、「紫式部が自らの人生を語る新しい形式の評伝だ」と薦めた。中村和宏・水沢商高教諭は、古代日本のムラ社会を描いた小説「らん」(秦建日子著)について、「人間関係で悩むことは多くあるが、答えはシンプルなのではないかと思わせてくれる一冊」と力説した。
個性豊か、あふれる熱量...岩手県立図書館前館長・藤岡さん
高校生の部の開催に尽力した、藤岡宏章・県立図書館前館長に大会の感想を寄せてもらった。
「交流通して読書生活を充実させて」
出場者は皆、個性豊かで熱量にあふれていた。多感で鋭い感性を持ち、物事を真っすぐに見つめる生徒たち。同世代の人がどんなことに興味を持ち、何を感じているのかに触れて、意義のある大会となった。
読書は自分だけのものと思われがちだ。その営みを表出する機会も限られる。一方、現代のネット社会では紋切り型の「単語生活」が危惧される。出場者は独り善がりでなくきちんとした文章にし、「私はこう思うけれどあなたはどう思いますか」と提案していた。会場の質問も極めて質が高く、フロアの一体感が素晴らしかった。
今大会をきっかけに、自分と本とのつながりを表現して交流することを通し、読書生活がより充実したものになることを期待したい。
高校生の部
主催 イーハトーブ・ビブリオバトル実行委員会
共催 県立図書館、活字文化推進会議
後援 県教委、読売新聞社