本との出会い 魅力です~全国高校ビブリオバトル開幕直前特集!~

 高校生のお薦め本ナンバーワンを決める「第5回全国高等学校ビブリオバトル」が、今月下旬に開幕する。決勝大会の出場権がかかる予選会が各地で始まるのを前に、高校生バトラーに人気のある直木賞作家・辻村深月さんと、第1回大会の優勝者・中村朱里さん(早稲田大学3年)が、ビブリオバトルの魅力について、紹介される立場、紹介する立場から語り合った。

 

◆直木賞作家 辻村深月さん × 第1回大会優勝 中村朱里さん

―中村さんが紹介してチャンプ本に輝いたのは、辻村さんの「冷たい校舎の時は止まる」(講談社)でした。

辻村 自宅にいたら、突然、版元や他の出版社の編集者から「『冷たい校舎』優勝しましたよ!」とメールが来たんです。「絶妙なプレゼンでした」と、みんなが書いてくるんだけど何のことか分からなかったんです。愛読書の魅力をアピールする書評の大会があると知って、びっくりしつつ、とてもうれしかった。栄えある初代チャンプ本にしてくれてありがとう。

中村 辻村さんの本を読みふけっていた中学生の頃の自分に、ビブリオの大会に出たら、本人に会えることになったんだよって教えたいです。一冊の本と出会ったことで、いろんな経験をさせてもらっています。

 

―執筆に追われる中、辻村さんは各地の大会にゲストとして呼ばれていますね。

辻村 中村さんがチャンプ本にしてくれたおかげで、2016年の決勝大会にゲストで呼んでいただいたんです。鹿児島県の予選会にもゲストで行きました。

中村 目の前で自分の本が紹介されるのはどんな気持ちですか。

辻村 自分の語彙(ごい)を総動員して褒めてもらい、続きが気になるように魅力を語ってもらうのは名誉なことです。自分の本だけじゃなく、仲がいい作家や近々会う予定のある作家の作品が出てくると、「あなたの本が紹介されていたよ」と伝えたくなります。

 

◆中村さん「言葉にすると気づかされる」

―大会にゲストとして参加されていて何か気づいたことはありますか。

辻村 文化系の子たちがつながりあえる場ができたということです。中学や高校の青春時代は、運動部などスポーツが得意な子どもたちには、試合を通じて絆を深められるような機会がこれまでもたくさんあった。ビブリオバトルは、文化系の子たちにもそうした場が開かれたことが素晴らしい。東京でも、鹿児島でも、同じ予選グループで発表しあった高校生たちが、短い時間で仲良くなっていく様子を目の当たりにして感動しました。

中村 話す内容を考えていく過程で、紹介する本の魅力や登場人物のことを言葉にしてみると、自分はそんなことを感じながら読んでいたのかと気づかされることがあります。言葉にすることで、読んでいる時の自分の気持ちを追いかけていくような感覚があります。

辻村 高校生の発表を聞いていると、「えっ、そこに心動かされるんだ」と驚くことが多いですね。年齢が近いせいか、登場人物を自分に引きつけて読んでくれていて、それぞれの言葉で共感を表現してくれる。

 

◆辻村さん「作者以上に登場人物を理解」

―今年1月の決勝大会では、辻村さんの「かがみの孤城」(ポプラ社)がファイナルに残りました。発表した高校生に対し、会場の高校生からいろんな質問が飛び出しました。その時の様子を聞いてください。(音声再生)

辻村 ああ、私が代わりに答えてあげたい(笑)。でも、すごく誠実に答えようとしてくれていて胸を打たれます。質疑応答の時間が設定されていることもすごくいいですね。登場人物のことを作者以上に理解し、自分のものにしてくれる読者がいて、その声をダイレクトに聞ける場があるのはうれしい。他の作家さんも同じだと思います。この大会はずっと続けてくださいね。

 

◇つじむら・みづき 1980年、山梨県生まれ。2004年、「冷たい校舎の時は止まる」(講談社)でメフィスト賞を受賞して文壇デビュー。12年、「鍵のない夢を見る」(文芸春秋)で直木賞。今年4月、「かがみの孤城」(ポプラ社)で本屋大賞を受賞した。

 

◆筑波大情報学群知識情報・図書館学類、推薦入試にビブリオバトル導入

 筑波大学(茨城県つくば市)の情報学群知識情報・図書館学類は、今秋の推薦入試からビブリオバトル方式の面接を導入する。コミュニケーション能力を見るうえで、表現力や質問力、聞く力が問われるビブリオバトルが適していると判断した。

 受験生5人程度が3人の教員の前で、ビブリオバトルの公式ルールに沿い、5分間で自分が選んだ本を紹介しあう。その後、受験生同士で質疑応答を行う。

 教員は、受験生が5分間のプレゼンテーションで自分の考えをうまく伝えられるか、説得力のある説明ができるかに注目。質疑応答では、自分の持つ知識を組み合わせて質問できるか、他の受験生から出た質問の意図を酌み、的確に回答できるかを評価する。同じグループの受験生の投票で、どの本が一番読みたくなったかを決めるが、チャンプ本に選ばれるかどうかは、評価には影響しない。

 同学類は昨秋まで個別面接を実施し、調査書や小論文と合わせて合否を決めてきた。面接では「図書館と電子化」などのテーマを与え、意見を述べてもらった後、教員が質問する。近年は、受験生が高校で綿密な面接指導を受けてくるため、差がつきにくくなっていた。そのため、完成度の高いルールがあり、知らない本について即興的な対応が求められるビブリオバトルを導入することにしたという。

 同学類の募集定員100人中、推薦入試の募集は40人。情報、知識を有効活用するためのシステムづくりを学ぶ。歳森敦学類長は「発言の機会をつかめず、実力を発揮できない可能性のあるグループディスカッションとは異なり、ビブリオバトルならば平等に発言の機会を確保できる。新方式導入で、他者に自分の考えを伝えることに積極的な『外向きの本好き』を呼び込みたい」と期待を込める。

 

◆優勝者ら NHKラジオでバトル

 全国高校ビブリオバトルの優勝者や全国大学ビブリオバトル首都決戦の決勝に進出した大学生たちが、NHKラジオ第1放送の番組「NHKジャーナル」の金曜日のコーナー「対決!ミニ・ビブリオバトル」(毎月1回、金曜日の夜放送)に出演する。

 7月20日は、早稲田大学3年の中村朱里さんと東京大学4年の井原陸朗さん、8月10日には、筑波大学2年の北原光梨さんと千葉商科大学1年の渕本麻菜美さんが登場する。いずれも午後10時半ごろからバトルを展開する。

 バトラー2人が3分間、愛読書を紹介し、アナウンサーらが質問。リスナーがツイッターやメールで投票してチャンプ本を決める。公式ルールのプレゼン時間は5分間だが、放送時間の制約があるため、特別ルールの3分間で行う。

 

◆都道府県予選 7月21日から 決勝は来年1月20日

 各地の予選は7月21日の神奈川県大会からスタートし、12月まで続く。県教委などが主催する県大会は、新たに高知、北海道などが加わり、35前後の都道府県で行われる見込み。

 活字文化推進会議が主催するブロック大会は仙台、東京、大阪、広島の4都市で開催。決勝大会は2019年1月20日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれる。

 各ブロック大会の参加方法、観戦方法などはこちら(仙台、東京、大阪、広島)を参照。問い合わせは、活字文化推進会議事務局(03・3217・4302、平日午前10時~午後5時)。

 

◆大学生地区大会 主催団体を募集

 今年で9回目となる全国大学ビブリオバトルで、ビブリオバトル普及委員会が地区予選、地区決戦の主催団体を募集している。地区決戦でチャンプ本を獲得した36人が、12月23日に立命館大学大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)で開催される「大阪決戦」への出場権を獲得する。

 詳細は「全国大学ビブリオバトル2018大阪決戦」のウェブサイトへ。

 

〈ビブリオバトル〉

 各人がお気に入りの本を持ち寄り、順番に5分間、その本の魅力を語る。レジュメ等は使わない。その後、2~3分間、聴衆からの質問に答える。全員が発表し終えたら、多数決で一番読みたくなった本(チャンプ本)を決める。考案者は立命館大学情報理工学部教授の谷口忠大さん。活字文化推進会議は高校生大会のほか、大学生大会、中学生大会も開いている。

 

主催/活字文化推進会議

後援/文部科学省、全国学校図書館協議会、全国高等学校文化連盟、日本書籍出版協会、ビブリオバトル普及委員会、都道府県教育委員会(地方大会)

主管/読売新聞社

(2018年7月 6日 16:36)
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