全国中学ビブリオバトル編集特集

 中学生たちがお薦めの本を紹介し合い、観戦客の投票で最も読みたくなった本を決める「全国中学ビブリオバトル決勝大会」が3月28日、東京都千代田区の上智大学ソフィアタワーで開かれた。大阪府代表として出場した岸和田市立岸城(きしき)中学校2年の杉本葉月さんが紹介した「BUTTER」(柚木(ゆずき)麻子著、新潮社)が最多票を獲得し、グランドチャンプ本に選ばれた。(学校と学年はいずれも大会当時)

 中学生を対象としたビブリオバトルの全国大会は初めて。福島、山梨、大阪、大分などで開かれた7府県大会の優勝者と、首都圏の中学校の代表ら37人が出場した。

 予選、準決勝を勝ち進んだ4人の中学生バトラーが決勝に臨んだ。杉本さんは「あえて使おうと思った」という関西弁を前面に出し、歯切れのいい口調で作品の読みどころをアピール。観戦客の心をとらえて、頂点に輝いた。

 春休み中ということもあり、客席には親子連れの姿が目立った。時間が5分間に収まるように練習を重ねてきた、中学生の発表を温かく見守りながら、関心を持った点を質問したり、イチ推しのバトラーにうちわを掲げて投票したりして、大会を楽しんでいた。

 熱戦の様子はNHKのテレビやラジオの番組で紹介された。優勝した杉本さんには、地元テレビ局の情報番組も注目し、知的書評合戦と言われるビブリオバトルの裾野の広がりを感じさせる大会となった。

 

作中の料理 試食し衝撃

優勝 杉本葉月さん 岸和田市立岸城中2年 「BUTTER」柚木麻子著

 バターをちゃんと味わったことありますか。バターってナマで食べるものじゃないし、しかも最近高いじゃないですか。それやったらマーガリンの方がカロリーも、価格も安くていいなんて思ってらっしゃる方。それは大きな間違いです。この本を読めば分かります。

 この本は、梶井真奈子、町田里佳という2人の女性の物語です。梶井は婚活サイトで知り合った男性3人をだまして、お金を取って、殺したとされて逮捕されました。彼女は太ってて、全然美人じゃないんですね。なのに、どうして男性を3人も虜(とりこ)にすることができたのか。そこでこの事件の独占インタビューを取るためにやってきたのが里佳です。2人は正反対の性格をしているんですね。

 里佳はどんどん梶井のペースに巻き込まれてしまって、ついうっかり「自分はマーガリンを使っている」ということをしゃべってしまうんですね。そしたら梶井、キレます。梶井、一番好きな食べ物はバターで、一番嫌いな食べ物はマーガリンなんですね。でも、里佳からしたら「はあ?」じゃないですか。いきなり「自分、マーガリンあかんで」って言われて。戸惑っている里佳に、梶井は「私のことを知りたいなら、まずは本物のバターを味わいなさい」と言います。

 里佳は高級なエシレバターを使って、ある料理を作ります。それがバターしょうゆごはんなんですが、おいしそうに書かれているんですね。もう、おなかすくレベル。気になったんで、作ってみたんですね。なんと、エシレバターを買っていただいて。ほんまにすごくて、衝撃、もう感動しました。

 里佳は梶井に言われるがままにバターを味わう料理を食べていきます。その様子はある種の洗脳のようなものです。梶井が現代社会から外れた考えを持ちながらも、自分を貫こうとしたのはなぜか。里佳はどうしてそこまで梶井の世界に引き込まれてしまったのか。

 女性とは何か。女性らしさとは何か。男性が求める女性の理想像とは何なのか。考えさせる本です。読んでみてください。

 


 杉本さんは年間240冊読むという読書家。ビブリオバトルのことは知らなかったが、司書教諭に「お願いだから出て」と請われ、昨年12月の大阪府大会に出場した。「優勝して、初めて東京で全国大会があることを知った」という。それだけに「こんな大きな会場で、まさか1位になれるなんて......」と戸惑いの表情を浮かべた。新学期が始まり、全校生徒の前で表彰され、市長を表敬訪問した。地元テレビ局の取材も受けた。「自信がつき、自分が変わった気がする。自分から進んで図書委員になった」と話す。

 大会後の交流会で、たくさんの出場者と連絡先を交換し、おもしろい本を紹介し合っている。「また来年も会えたらいいね、と約束したので、全国大会に戻ってきたい」。力強く語った。

 

発表工夫 観戦客引き込む

菅原愛実さん 秋田南高校中等部2年/豊田望実さん 鳴門教育大学付属中学校3年

 決勝には進めなかったものの、工夫を凝らした発表で観戦客を引き込んだ中学生バトラーもいた。

 「八幡様の氏子にて、鎌倉無宿と肩書も~弁天小僧菊之助」。秋田県代表の秋田南高校中等部2年、菅原愛実(まなみ)さんは冒頭、歌舞伎のセリフを朗々と披露した。紹介本は歌舞伎好きの高校生が主人公の小説「カブキブ!」(榎田ユウリ著、KADOKAWA)。「発表に口上を入れると、面白いかもしれない」と、思いついたという。質疑応答で観戦客から「口上はどうやって練習したんですか」と質問されると、「ユーチューブの動画を見て、練習しました」と答えていた。

 長崎・五島列島にある中学校の合唱部が舞台の青春小説「くちびるに歌を」(中田永一著、小学館)を紹介した徳島県代表の鳴門教育大学付属中学校3年、豊田望実(のぞみ)さんは、アンジェラ・アキさんのヒット曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」の一節を歌った。2008年度のNHK全国学校音楽コンクール中学校の部・課題曲で、物語の展開に重要な役割を果たす曲。引率した教諭は「インパクトを出したいと言ったので歌を入れることにした。高校でも本の魅力を語ってほしい」。

 読売新聞で大会を知り、興味をそそられて参加した本好き中学生もいた。その一人、岐阜県本巣市立真正(しんせい)中学校2年の中西新菜(にいな)さんは「学校でビブリオバトルを広めたい。そのためにまず自分がチャレンジしたい」と、杉山博文校長に出場を"直訴"。大会では「烏は主を選ばない」(阿部智里著、文芸春秋)を紹介した。決勝進出はならず、大会直後は「出場者のレベルが高かった。私は無鉄砲だったかもしれない」と振り返ったが、3年生になり、図書館を担当する生徒会情報委員会の委員長として、校内でのビブリオバトル実施に向けて動き出している。

 

「価値観が固まる前に」 

 会場となった上智大学のOBで、作家・映画プロデューサーの川村元気さんがゲストとして観戦し、トークショーも開かれた。

 ビブリオバトルをナマで初めて見たという川村さんは「中学生の緊張感が伝わり、観客とのやり取りもおもしろかった」と感想を語った。中学時代に影響を受けた本として、ミヒャエル・エンデの「モモ」(岩波書店)を挙げた。「時間はだれにでも平等にあるという価値観を壊された。小説『世界から猫が消えたなら』のきっかけになった」と創作秘話を明かした。

 ビブリオバトル「大学生になると、自分の感覚よりも世間の感覚に引っ張られていく。自分の価値観が固まる前に小説に影響されるのは、すごく豊かな時間」と、中学時代の読書の大切さを強調。「ビブリオバトルもそうだが、だれかから紹介された本を読むという行為はすごくぜいたく。なぜこの本を薦めてくれたのだろうと考えると、そこにストーリーがある。幅広く本にふれてほしい」とメッセージを送った。

 

「読む気になった」 観戦客アンケート

 「普段の自分であれば選ぶことはない本に興味を持つきっかけを与えてくれた中学生に感謝の一言」「本はあまり好きではないけれど、発表を聴いて読んでみようという気になった」

 活字文化推進会議が観戦客にお願いしたアンケートには、称賛の声が寄せられた。

 中学生の娘がいる50代の女性は「好きな本を堂々と語る中学生の姿がまぶしい。自分が中学生だった時に、こういう大会があれば出てみたかった。今日は家に帰って一人ビブリオをやってみる」とつづった。60代の女性は「受験勉強で忙しいことを理由にして、学生時代に本を読まなかったことを後悔している」と振り返った。

 また、中高一貫校の教諭は「自分の学校でも生徒たちに『ビブリオバトルをやってみようよ』と声をかけたい」、別の学校の教諭からも「現代文の授業で生徒たちと一緒に挑戦してみたい」という声があった。

(2018年5月 9日 16:44)
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