ニュース・リテラシー教育

ニュース・リテラシーとは

中3の75%「SNSでニュース知る」──読売・電通総研共同調査

 読売新聞社と電通総研は、小中学生のニュースに対する意識や読み方について共同で調査を行った。メディアの多様化が子どもたちのニュースに対する意識をどのように変えたのかを探るのが目的で、全国に広がる読売新聞教育ネットワークの協力校に呼びかけて2021年9~10月に実施。小中学校42校の小4~中3の計6302人が郵送またはウェブ入力で回答した。不備のある回答を除くと有効回答は5112。有効回答率81%。

 

中3の75%「SNSでニュース」

 今回の調査から、日常的にスマートフォンなどでSNSからニュースを得ている児童・生徒が56.3%に上ることが明らかになった。半数近い47.0%は、誰が情報を発信したのか、情報源を確かめていないこともわかった。

 SNSからニュースを得ている児童・生徒の割合を学年別に見ると、中3が75.2%だった。最も低い小4でも30.6%で、学年が上がるにつれて増加した。

 見聞きする情報の発信源を確認するかどうか聞いたところ、「確かめていない」は小4が43.1%で、中3も47.7%と半数近かった。ただ、「確かめている」と答えたのは小学生より中学生の方が多く、中3では49.0%だった。

 子どものスマホ利用を巡る問題などに詳しい東京女子大の橋元良明教授(情報社会心理学)は「今の子どもたちはネット上の情報にだまされるという感覚があまりない。フェイクニュースやデマがたくさんあるという事実や怖さについて、小中学生から教育していくことが大事だ」と話している。

 

SNS情報 半数「信用」 小4- 40% 中3- 53%

 また、学年が上がるごとにSNSでニュースに触れる割合が増え、発信元を確かめずに情報を受け入れている子どもが半数近くに上っている現状が明らかになった。デマなど悪意ある情報を拡散させてしまう懸念があり、専門家は情報を吟味して真偽を見極める力を養う「ニュース・リテラシー教育」の必要性を強調している。

 SNSのほか新聞・テレビなどのメディアや、家族、先生などを通じてニュースを知った時、信じられるかどうかについても尋ねた。SNSは全児童・生徒の約5割(48.9%)が「信じられる」「だいたい信じられる」と回答。「信じられる」「だいたい」を合わせた割合を学年別に見ると、小学4年40.0%、小学6年50.5%、中学1年52.2%、中学3年53.6%で、子どもたちの間で一定程度、SNSに信頼があることを示している。

 一方、テレビは全児童・生徒の94.1%、新聞は87.9%で、SNSより信頼度が高かった。さらに信頼されているのが家族で、最も高い96.5%だった。先生も94.3%で、子どもたちにとって身近な存在である親や先生などの影響が大きいことを物語っている。

 

スマホ「自由に」中1で7割 災害の備えや塾通い背景に

 電通総研によると、首都圏では災害への備えや塾に通っていることなどから小学4年くらいから自分のスマホを持たせるのが普通になってきており、中学の入学祝いに贈るケースも増えているという。

 情報を入手するデバイス(機器)をどのくらい使えるかを尋ねると、自分のスマホを「いつでも使える」が、小学6年で47.3%と半数近くが自由に使える状況にあった。スマホをいつでも使える割合は、小学4年の34.4%から学年が上がるに従って高くなり、中学1年で69.7%、中学3年では84.3%と、小学4年の2倍以上に増えた。

 スマホの浸透で、子どもたちが手軽にネット空間に入り、情報を入手する割合が高くなっている。米国でフェイクニュースが横行する背景には、スマホの普及があると言われる。スマホ経由でSNSから得る大量の情報とどう向き合っていくか、その対策を検討することは日本でも今後ますます重要になりそうだ。

 

家族と対話する子 発信源を確認

 共同調査の結果からは、家族や学校の先生とニュースについてよく対話する子どもほど、学年が上がるにつれて情報の発信源を確認するようになる傾向が浮かび上がった。

 見聞きしたニュースを誰と話すか聞いたところ、家族が82.3%で、友だち(57.5%)、先生(24.5%)、それ以外の知り合い(29.1%)を大きく引き離した。

 家族と「よく話す」と答えた子ども(41.3%)が情報の発信源を確かめる割合は、小学4年で35.7%、小学6年で49.5%、中学3年で53.2%となった。一方で、「あまり話さない」子どものうち、発信源を確かめるのは小学4年が10.0%、小学6年が16.2%、中学3年も27.8%にとどまった。

 先生と「よく話す」児童・生徒(4.8%)のうち、発信源を確認する小学4年は27.7%、小学6年は55.6%で、中学3年は57.1%だった。

 法政大の坂本旬教授(情報教育論)は「米国の教育現場で取り入れられている非営利団体作成の教材には、授業用以外に保護者向けのガイドラインもある。家庭で親子がニュースについて話すことの大切さやリテラシーを高めるのに有効だと指摘しており、日本でも重要だ」と話す。

 

マスメディア 高い信頼「信頼できる」新聞61.2% 総務省・情報通信白書

 総務省の2021年版の情報通信白書で、同省が実施したメディアに対する国民の意識調査の結果が明らかになっている。

 信頼性については、全体的にマスメディアが高かった。「信頼できる」は新聞が61.2%でトップ。次いで、テレビ53.8%、ラジオの50.9%と続く。一方で、「信用できない」は、動画投稿・共有サイトの31.0%、ブログ等その他サイトの30.6%に続いてSNSが27.5%だった。白書は、「インターネットを利用したメディアの中でも、ユーザー自身が投稿できるものの信頼度が低くなっている」としている。

 また、コロナ下で流布した様々な偽情報のうち、2020年2月頃に拡散した「トイレットペーパーは中国産が多いため、新型コロナウイルスの影響で不足する」という偽情報の入手先は、テレビが58.2%で最も多かった。発端の投稿はSNSだったが当初は全く拡散せず、ニュースサイトやテレビ番組で取り上げられ始めてから、投稿が急速に広がったという。

 

「見極める力」 子どもから

慶応大教授

鈴木秀美氏

 インターネット上の情報は、新聞やテレビが伝えるニュースだけではない。真偽を二重三重にチェックする「裏取り」が行われていない情報や、悪意や意図を持ったうその情報も膨大に流されており、玉石混交だ。トランプ氏が選ばれた2016年の米大統領選の頃から、危機的な状況はますます高まっているのではないかと思う。

 以前は情報の信頼性は新聞やテレビなど媒体ごとに判断できてわかりやすかった。メディアの多様化により今は情報源を確認したり、正しく信頼できる情報を見分けたりすることが昔と比べてとても重要になっているのに、スマホ利用者の子どもや大学生、大人でもその意識が乏しいように感じる。私が接する学生の中にさえ、入学当初はSNS上で飛び交う「マスコミによって真実は隠されている」といった、いい加減な言説をうのみにしている者が見受けられる。

 正しい情報を選別する能力、リテラシーを習得するためにはジャーナリズムを学び、理解する必要がある。次世代の子どもはもちろんのこと、社会人になるための最後の教育の場である大学で身に付けさせることも大切だ。

 子どもに限らず大人もニュースとは何かわからない人が増えている。民主主義が進んでいると考えられていた米国でさえ、陰謀論がはびこり、トランプ氏の支持者が連邦議会議事堂に侵入するとんでもない事件が起きた。

 日本でも「自分と異なる意見を言うから偏っている」と批判する風潮が少しずつ広がっているようだが、これは自由で民主的な社会への批判につながるものだ。「良き市民」を育てるためには、小さな頃から情報の真意を見極める能力を養うことが大切だ。子どもへのニュース・リテラシー教育は今後ますます重要になってくる。

 日本の学校ではパソコンやネットのスキルは教えても、さらに踏み込んでニュースそのものを読み解く力を養成する上で理解すべきジャーナリズムの役割や大事さを学ぶ機会はほとんどない。現在、ニュース・リテラシーを習得する実践的な教育は、義務教育で正式に位置付けられていないが、文部科学省が学校教育の中で重点化して取り組んでいいのではないか。

 慶応大メディア・コミュニケーション研究所では非常勤講師の新聞やテレビの記者らが行う授業で、学生が自ら取材して記事を書いたり、映像を編集したりすることを通じて、ジャーナリストのスキルを学ぶ。発信元や事実確認の大切さ、ニュースとは何かも理解でき、正しい情報を選別する力も培われる。この能力は、勉強や将来仕事をする上でも広く役立つものだ。

 子ども向けの記者の出前授業は一つの可能性として効果的ではないか。米国の学校でニュース・リテラシー教育のモデルをつくったNPO法人代表も元新聞記者で、様々なメディアの記者らが学校で授業を行い、記事を書かせてジャーナリズムの手法を学ばせている。

 今は誰でも簡単に情報発信できるので、誤った情報の拡散で名誉毀損(きそん)や著作権侵害など法律に違反したり、他人の権利を侵害したりしてしまいかねない。ジャーナリストに限らず発信には責任が伴う。最低限の倫理や法的な知識は普通のスマホ利用者にも必須の素養だ。教育を充実させて子どもの頃から成長段階に応じて身に付けさせることは大切だと考える。

すずき・ひでみ

大阪大教授などを経て2015年から現職。日本新聞協会「デジタル時代の新聞の公共性研究会」座長などを務める。共著書に「インターネット法」など。専門は憲法、メディア法。62歳。

 

国語の力 全ての基本に

電通総研フェロー

奥律哉氏

 調査結果は現実の社会をそのまま反映していると言える。ネットやスマホでニュースを見聞きする際、そのニュースの発信源を確かめない児童・生徒がどの学年も45%前後、一定数いることは最も気になる。年齢が上がればしっかりした大人になるわけではなく、思春期のニュース・リテラシーやメディア行動はそのまま持ち上がっていく。

 友だちの影響が大きくなるのも特徴だ。友だちから聞いたニュースを「信じられる」「だいたい信じられる」の合計は、小4で80.8%だったのが、中3では85.7%に増加している。ニュースを友だちと「よく話す」「ときどき」の合計も小4の42.9%から中3の68.0%まで伸びている。

 SNSでニュースを知る割合は、自分のスマホを持つ割合の伸びに伴い増え、SNS経由で友だちと社会ネタも共有する。ネット環境で育ったデジタルネイティブっ子は学校にいるときだけでなく、帰宅後もクラスメートとつながり、ネットいじめなど負の問題も抱えるが、常に友だちの輪の中にいる。友だち、スマホ、SNSは完全に連動しており、リテラシー教育が必要になってくる。

 SNSで見聞きしたニュースが「信じられる」は小4の18.1%、中3は9.2%と低い。タイトルだけ読んでリツイートして、虚実に関係なく面白いから拡散することがあるという特性を子どもなりにわかっているのだろう。若い人は年配者よりメディアリテラシーにたけている。清濁合わせた幅広い情報を持ち、場合によっては感度が鋭かったりする。

 しかし、多様な情報ツールに接するからこそ大人の側が寄り添って手を差しのべてあげなければならない。

 リテラシーの習得は教育と表裏一体だ。学校の先生や親の影響は大きく、落語のまくらのように毎日5分でもニュースをうまく話す学級担任のクラスの生徒は、世の中の見え方、視野が随分違ってくると思う。発信者の意図や広告主、個人情報、無料でサービスが使える理由などビジネスが関係する仕組みまで、先生が不慣れなら外部の専門家にも頼んで、社会の基本として体系立てて教えるようにすべきだ。

 若者の国語力もかなり心配だ。新社会人や大学生の中には、文脈を十分に確認することなく読んでいるケースも見受けられる。SNSでも誤読で簡単に炎上が起こる。国語は全ての基本で、論理的な思考を鍛える教育をしないと情報を選別する能力も得られない。どちらの考え方が正しいかわからない情報も多く、ニュースを見ながら両論を紹介してどちらを選ぶか問いかけることが大切だ。

 デジタルネイティブっ子以降の若い世代は、拍車をかけてネット側に関心がいくことを前提に考える必要がある。

 ネット環境改善のためにも、4マス媒体はサービス空間としてネット側にもっと情報を出してほしい。特に新聞は取材に裏付けされた安心できる記事や解説を書いており、ネット空間にコンテンツを置くことが重要だ。違法な番組配信への対策を主眼に始めた民放の無料動画サイト「TVer(ティーバー)」は利用者が多く、いい参考例だ。正規のしっかりした情報を利用者の前に置いて包含してあげ、誤った側に行かないような環境作りが必要だ。

おく・りつや

電通入社後、ラジオ・テレビ局、メディアマーケティング局などを経て現職。共著書に「ネオ・デジタルネイティブの誕生~日本独自の進化を遂げるネット世代~」など。総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」構成員。62歳。

(2022年2月 3日 14:14)
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