● 大学を専門に取材する記者のコラムです ●
読売新聞の「大学の実力」調査では、2008年の初回から、標準修業年限卒業率を尋ねている。4年または6年(医学部など)で卒業する学生の占める割合で、2014年調査の結果によると、最低31%、最高100%、平均80%だった。一定の年限で10人中3人しか卒業できない大学から10人全員が卒業できる大学まであるということだ。
留年者や退学者、休学者などがいれば当然、卒業率は下がる。低数値=悪い大学と考えがちだが、一概にそうとは言えない側面もあるようだ。
たとえば日本工業大学(埼玉)の卒業率は67%。この数年、下がり続けているが、「きっかけは成績の厳格化の影響」と同大は分析する。すべての授業で「予習復習」を課し、かつては各教員に任されていた成績のつけ方を全学的に統一して「楽勝」をなくすなど、「学ばせる大学」としての態勢を整えた。さらに以前からある、卒業に必要な124単位のうち「1、2年で30単位未満なら退学処分」というハードルに加え、「3年修了時に100単位未満なら進級不可」まで設けた。学生の親だけでなく、教員からも「厳しすぎる」とクレームが寄せられるが、「厳しい社会に出て行くには、しっかり力をつけさせることが大学の務め。甘い顔はできない」と突っぱねているという。
ただし、厳しい顔を見せるばかりではなく、学ぶ意欲を起こすための工夫も怠りない。高額な実験器具を一人ひとりに使わせ、理論を自分の手で再現させたり=写真=、課題の提出に際しては、書き方だけでなくホチキスのとめ方まで指導したり......。結果は、「理科の実験は高校時代ほとんどなかったので戸惑った。でも今、すごくわかった感じがする」と1年生の男子学生が言うように、概ね好評だ。波多野純学長自ら、在学8年目の学生の卒業研究の指導をし、今春、卒業させている。「火がついたところから、徹底的に付き合う」と話す。
時折、宣伝パンフレットで「4年で卒業できます」とうたう大学を見かける。学費を払う親にとっては最短距離がもちろん良いだろうが、低い卒業率の陰にある工夫にもっと目を向けてもいいと思う。(専門委員 松本美奈)